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第11話 鬼でもいい

翌朝よくあさ

村はあわ朝霧あさぎりつつまれていた。


信長のぶながは、まきはこぶ子どもたちを手伝てつだいながら、村人たちの顔色かおいろさぐっていた。

こちらを遠巻とおまきに見るもの、目をわせず黙々《もくもく》と作業さぎょうする者。

だが、それでも石をげる者はいなかった。


「信長さま。……あんた、かたなを持っとるのに、人をらんのかい」


背後はいごから、ぽつんと声がした。


かえると、かみげたあとのこ少女しょうじょが立っていた。

としはハルとそうわらぬ――かおるという。


「わしのけんは、あやつのためにある。

人をまもるためにく。よくのためには抜かん」


「ふぅん……へんなの」


それだけ言って、薫はまた薪を運びにった。


信長は苦笑くしょうしつつ、手をめた。

あのが、今日きょう、何をせてしまうのか――まだ知らずにいた。



午後ごご


村のはずれにある川辺かわべで、子どもたちがさかなっていた。

ハルもばれた。

最初さいしょ戸惑とまどっていたが、薫に背中せなかされ、川にはいった。


わらい声ががる。みずしぶきがう。


――それは、ほんのわずかの、平和へいわ時間じかんだった。


そのときだった。

川上かわかみはやしから、がさりと物音ものおとがした。


「……!」


あらわれたのは、にまみれた旅装りょそうおとこたち。

にはやいばこしにはなわえたけもののようにひかっていた。


「おやおや……小金こがねにもならん村かとおもえば、

ちょうどい“かつげる荷物にもつ”がそろってるじゃねえか」


野盗やとうだ――しかも、かずは六。


大人おとなたちの姿すがたちかくにない。

子どもたちの声が、一気いっきこおりついた。


「やめて……!」


薫がさけび、ひとりの男にびかかろうとする。

だが、男は容赦ようしゃなく、ぎゃくにそのかたばした。


「キャッ……!」


ちいさな身体からだそらう――


その瞬間しゅんかん、川のみず異様いようれた。

かぜ逆巻さかまき、逆流ぎゃくりゅうし、空気くうきあかふるえた。


ハルだった。


あかひとみが、ひかっていた。


「やめろッ!!」


そのさけびと同時どうじに、地面じめんる。

男の足元あしもとけ、転倒てんとうする。

空気くうきかるようにおもくなる。


「な、なに――!?」「こいつ……おにだ!!」


男たちがうしずさる。


ハルは、ふるえながらも薫の前にち、さけぶ。


「こないでッ! もう、いや……やめてぇ!」


信長がけつけたのはその直後ちょくごだった。

すでに空気は異様いように重く、まるで戦場せんじょうのような緊張感きんちょうかんひろがっていた。


「ハル!」


信長がその名を叫ぶと、ハルの力がすっと抜け、ひざからくずちた。

あかひかりがすうっとえていく。


野盗たちはあわてて撤退てったいした。

のこされたのは、たおれたハルと、きじゃくる薫、呆然ぼうぜんとする子どもたち。


信長はそっとハルをげた。


「よくやった。あやつをまもったのじゃな……」


そのとき、薫が信長のすそにぎった。


「……こわかった。でも……たすけてくれた。

おにでも、なんでもいい……ありがとうっていたい」


その言葉ことばに、信長は目をほそめる。


「鬼でも、か……」


しずかにがり、村を見渡みわたす。


「ならば、わしが“鬼のおう”となろう。

このすべてのおそれと、にくしみと、いかりを背負せおって――

あらそいをわらせる“つみ”をけよう」


空玄くうげんとおくからていた。

その目に、はじめて――かなしみでも、皮肉ひにくでもない、

ひとつの信頼しんらいともっていた。

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