表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/25

第8話 第六天の名

空玄くうげんみちびきで、三人は山をえ、さとりた。

人通ひとどおりの少ないとうげ宿場町しゅくばまち――時折ときおり、旅人が立ちるだけの、小さな集落しゅうらく


空玄が顔馴染かおなじみの寺に話をとおし、一夜の宿やどりることとなった。


「……ここでは、“坊主ぼうず友達ともだち”ということにしておけ。

おにだの何だのとひろまれば、今度こそかれるぞ」


「ほう……わしとハルを、友とな。人聞ひとぎきが良すぎるのう」


「人聞きだけで世はまわる。だまし騙され、まわるもんさ」


信長のぶながと空玄が言葉をわす横で、ハルは小さな子どもたちの姿を見ていた。

楽しげにわらい、丸太まるたに座って団子だんごべている。

……あの日、石をげられた記憶きおくがよみがえる。それでも、足が勝手に動いていた。


「……あれ、いいな……たべてみたい……」


ハルが手をばした、その瞬間だった。


「きゃあっ!」「目が赤い!!」


一人の子どもがさけんだ。


「こいつ! 鬼だ! 鬼が来た!」


大人たちの声がぶ。

「鬼?」「本当に?」「どこだ!?」


――ざわっ。


空気が一変いっぺんする。


信長がけつけようとした、そのとき。


「……やめて……こないで……!」


ハルの手がふるえた。

次の瞬間――地面がびしりとけ、石畳いしだたみにひびがはしった。


突風とっぷうのような衝撃しょうげき。木の葉がちゅうう。

赤い光が、ほんの一瞬、ハルのひとみからひらめいた。


人々があとずさる。恐怖きょうふまった目で、ハルを見つめていた。


「やはり……あれは、“鬼”だ!」


け物をれてきたのか!?」


い出せ!」


信長がハルをきしめ、さけぶ。


「やめい!! あやつは、わるくなどない! ただ、おびえただけじゃ!」


空玄が、村人たちの前に立つ。


「こやつは“鬼”かもしれぬ。だが……おぬしたちは“人”として、れい」


その声に、しばし村人たちがたじろいだ。


信長はふるえるハルの背を、そっとでていた。


しばらくの沈黙ちんもくのあと、空玄がぽつりとつぶやく。


「……まるで、“第六天だいろくてん”の使つかいか――」


「……第六天とは?」


信長が顔をげてう。


空玄は小さくわらい、こたえた。


第六天魔王だいろくてんまおう欲界よくかいあるじ。人の欲望よくぼうくう“王”の名だよ。

……鬼の力を持ち、人のためにやいばるうなら――皮肉ひにくにも、そやつがふさわしい」


信長は何も言わなかった。

ただその言葉を、しずかに、ふかく、むねきざんだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ