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008 王たちの暗黒領域

暗黒の迷宮。湿気を帯びた霧が漂い、空気が重く感じられる。視界は限られ、足元の静けさが不安を増幅させる。リチャードはその異様な空間を一瞥し、唇をわずかに引き結んだ。魔物の群れが待ち構えているのは見えている。しかし、彼にとってそれは問題ではなかった。


「ようやく本番か。」


リチャードは低く呟き、深く息を吸った。


その時、魔獣の王ザ・ヴェスパリオンが何も言わずに前進を開始する。進行方向に立ちふさがる魔物たちが並ぶが、彼にとってそれらはもはや蹂躙じゅうりんすべき対象に過ぎない。


ヴェスパリオンは巨大な刃のような腕を振りかざす。刃が空気を裂き、魔物たちを一掃する。その動きは、まるで鋼の刃が空を切るようだ。魔物たちは次々と倒れ、動く気力さえ失ったように見える。リチャードはそれを見て、無感情にため息をついた。


「予想通りだな。もう少し面白い戦いになるかと思ったんだが。」


死霊の騎士ヴァルモルドが動き出す。大剣が振り上げられ、死者の残響ざんきょうを引きながら一振り。敵の複雑な装甲を前にしても、躊躇ちゅうちょすることなく進み続ける。その姿に、リチャードは目を細めた。


「やるじゃないか。」


彼は静かに呟いた。


鋼の戦士クロム=ダリオンは重いよろいに身を包み、何の動揺も見せずにやりを投げた。その槍は地面を突き刺し、数体の魔物を転倒させる。しかし、彼の目には戦いの興奮は見当たらない。冷めた印象すら受ける。リチャードは横目でそれを見て、皮肉をこめて言った。


「どうせなら、もっと楽しんで倒してくれよ。」


無貌むぼうの王“虚空の主”が動き出す。その存在自体が空間を歪め、周囲の空気がさらに重く感じられる。姿は、まるで影が形を成したようで、その顔面には目も口もない。ただの闇そのものだ。虚空の主は何も言わず、手を一振りした。その瞬間、魔物の一体がその場で消失する。リチャードは特に驚くことなく、眉をひそめた。


「相変わらず陰気な奴だ。」


その時、雷帝バル=ゼオグラントが咆哮ほうこうを上げ、周囲の空気が激しく揺れる。稲妻が落ち、雷光が闇を貫いた。目の前の魔物たちは一瞬で焼き尽くされ、バル=ゼオグラントは満足そうに雷鳴をとどろかせながら前進を続ける。その勢いに、リチャードは一瞬目を細めた。


「また派手なことをして…。少しは控えめにできないのか。」


バル=ゼオグラントはそのまま戦場を制圧し、雷鳴と共に進んでいく。しかし、リチャードは冷静にその光景を見守るだけだった。


その後ろで、魔界の主イグナティオス=ヴェルゼンが動く。普段は戦いに積極的ではないが、今は様子が違う。闇の中から悠然ゆうぜんと現れ、しばらく立ち尽くしていたが、手を広げて目の前の魔物たちを一挙に炎で包みこんだ。炎が魔物を飲み込み、一瞬で跡形もなく消し去る。リチャードはその光景を見て、気だるそうな表情を浮かべた。


「焼けるものは何でも焼いておかないとな。」


戦場は騒然そうぜんとしているが、リチャードの心境はすでに冷めきっていた。戦いはもはや日常の一部に過ぎない。魔物たちがどれだけ襲いかかってこようと、それらの動きはどれも些細ささいなものに映った。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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