005 お前、死ぬ気か? いいえ、ただの夜勤です。
その夜。目を閉じていたはずなのに、何かが騒がしい。リチャードは目を開けた。
妙に静かすぎる。寝ぼけ眼の頭が、変な違和感を拾ったのだ。次の瞬間、それは確信に変わる。
「来たか。まったく、夜中に押しかけとはマナーがなってない。」
ベッドから音もなく立ち上がると、ルビーもすでに起きていた。寝癖もない。偉い。
「どうにかできるか?」
ぼそっと聞くと、彼女は少しだけ考えるような顔をした。期待と不安が半々、まるで朝の占い番組の結果を待つ顔だ。
「できるけど、手間はかかるわ。」
手間って、晩餐の支度でもするのか。とは思いつつ、うなずいたその時――
「リチャード!」
声の主はヴァルカ、シルヴァーナの親衛隊のリーダーであり、暗殺魔法の使い手。とにかく強い。その上、恋愛バトルにおいても、彼女の名を知らぬ者はいないだろう。
リチャードは少し肩をすくめて応じた。
「王国の魔力が足りないみたいですね。」
ヴァルカが驚いたようにリチャードを見つめる。
「気づいていたのか?」
「まあ。」
リチャードはポケットから一つの石を取り出し、手に持つ。それは魔力を大量に内包しており、暗闇で不規則に光を放っていた。
「これを。」
リチャードはその石をヴァルカに差し出す。
ヴァルカはその重みを感じ取るように、しばし黙った。
「……本気なんだな。」
「シルヴァーナ様たちの護衛をお願いします。」
ヴァルカが少し険しい顔をして、答えた。
「お前、死ぬ気か?」
リチャードはあっさりと答える。
「まさか。」
そして、目線をルビーに向ける。
ルビーが呪文を唱えると、空気が震え、空間がねじれるような音がした。次の瞬間、敵の大軍はまるで幻だったかのように掻き消えた。
リチャードはちょっとした笑みを浮かべる。
「すんなりいきすぎて怖いですね。」
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