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037クロエの覚醒!ちょろいってどういうこと?

--------------------リチャードの視点。


黒いマントの集団が空を滑るように移動している。一つひとつの動作が洗練されている。敵は魔族。しかも、こちらの世界の生まれではない。異界からの訪問者、いや、侵略者だ。


王都セレニスは、ただの城ではない。守りは堅い。だが、今回は外からではなく、内側から崩そうとしているようだ。

近衛兵たちが妙だ。目が死んでいる。感情が抜け落ちている。意識の支配を受けていると考えるのが自然だ。


つまり――黒いマントをどうにかするしかない。


空を見上げると、敵の群れが重なり、空の色が濁っている。王都の魔法防壁はすでに機能していない。あれは飾りになってしまったか。


時間は、こちらの味方ではない。


王、アスタリウス・セレニウスはその場で棒立ちになっている。先ほどまで息をしていなかったのだから、理解が追いつかないのも無理はない。とりあえず立っているだけでも大したものだ。


と、そのとき。クロエがひざをつき、息を荒げた。ユイナ、ルビー、エルフィーナがる。


まずい。


まだ早いはずだ。

“第2の人格”の覚醒かくせいは、勇者の因果が重なった先の未来だけで起こると聞いていた。

シルヴァーナ様の観測が間違っていた? いや、それとも——。


クロエが顔を上げた。瞳の色が変わっている。空気に圧がかかる。まるで世界が息をひそめるようだ。


「どけ、貴様ら。」


小さな声に見合わぬ衝撃が走った。ユイナたちは地面に倒れた。風が吹いたわけでもない。ただ、それだけの力が、そこに存在している。


クロエの周囲が黒く染まる。闇が形になり、周囲をえていく。


この力、制御できていない。いや、制御しようとしていない。

もう、クロエではない“何か”が、表に出てきた。


俺は前に出る。


「はじめまして。」


声をかけると、クロエがこちらを見た。顔の作りは同じでも、別人のように感じる。


「リチャードか。お前、私のしもべになれ。そうすれば、生かしてやる。」


まるで上位存在が下等種に命じるような口ぶりだった。


私は内心で軽く笑った。


(出たな。噂の闇バージョン。だが、口は軽いようだ。)


そして、笑顔のまま返す。


「それも悪くない提案だ。今度、一緒にお風呂でもどう?」


クロエの頬が真っ赤になる。


「ば、ばかもの。……約束だぞ。」


ちょろい。契約早すぎる。


その直後、クロエが両手を広げる。夕方の空が徐々に色を変え、薄暗くなっていく中、黒い渦がゆっくりと現れた。風が突如として強くなり、空気がひんやりと冷たく感じる。そこから、次々に姿を現す竜たちは、どれも見たことのない種類だ。闇に順応し、まるで空を泳ぐように優雅に飛んでいる。彼女が呼び出した存在だと、すぐに直感で理解できた。

竜たちは、空に漂う黒い影へと一直線に飛びかかっていく。容赦ようしゃがない。次々に敵が飲みこまれていく。


クロエはつぶやいた。


「城の中に、まだ残っているな。あの黒いマントに操られている者が。」


俺も確認していた。


「ええ。中枢に潜んでいます。王宮の結界を使い、存在を隠している。」


「ふん。終わった。」


ユイナが目を丸くする。


「えっ?」


ルビーは口を開いたままフリーズしている。エルフィーナは、理解が追いつかないといった表情だ。


クロエがあっさり言い切った。


「暗黒魔法、解除しておいた。もう、操られてはいない。」


「黒いマントのやつ、逃げるつもりか。」


俺が言うと、クロエは鼻で笑った。


「どこへ? 逃がすわけがない。」


目に宿るのは、完全な自信。言葉に誇張こちょう虚勢きょせいもなかった。


彼女の中で、何かが“完全に目覚めた”のだと、俺は確信した。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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