036 王様が死んだって言われたけど、私じゃないし、むしろ今生き返ったし!?
--------------------ユイナの視点。
「王を討ったのは、ユイナたちだ。」
いやいやいや、ちょっと待って。
「は?」と素で声に出す私。反応、これ以外にある?
エルフィーナが慌てて前に出る。
「そんなわけないでしょ!」
でも、近衛兵の顔は氷みたいに固い。表情の筋肉、冬眠してるのかも。
「証拠は確認されている」
その言葉に、場の温度がガタ落ち。誰も口を開けない。いや、さっきまで王を見て固まってたのに、今度は私たちが容疑者って何?
「誰がこんな茶番を……」
クロエの声が震えてた。ルビーはもう半泣き。私も心の中で小声ツッコミを入れていた。
『なにこれ、脱出ゲーム? 難易度、地獄級なんだけど。』
そのとき。
「やれやれ、間に合わなかったか。」
柔らかくて、でも芯のある声が響いた。振り向くと、リチャードが立っていた。
クロエが目を見開いて叫ぶ。
「リチャード!」
まるで何もかも予定通りと言わんばかりの歩き方だった。自分が“説明書”持ってる人みたいな顔してる。なんでこの人、いつも余裕そうなの? 心理的HP高すぎでは?
「王の死因はわかってる。」
そう言うと、ポケットから小さな宝石を取り出した。
「巻き戻しの秘宝。これで一時間前の出来事を再現できる。」
リチャードが呪文を唱えると、宝石が淡く光り出し、空間の輪郭がゆらぎ始めた。見覚えのある廊下、音、匂い……全てが巻き戻っていく。まるで時空のビデオテープを逆再生してるみたいだった。
そして。
王の間。王、アスタリウス・セレニウスがそこに立っていた。生きてる。息してる。目も動いてる。
「え、なんだ君たち……?」
驚く王に、リチャードが言う。
「王様、あなたが討たれた理由を、今ここで語ってください」
王は数秒考え、ゆっくりと話し始めた。
「反王族の動きは前々からあった。だが、それが内部と結びついたのは最近だ。私を討とうとしたのは、外と内から手を組んだ勢力だった」
私たちは聞きながら頭の中がグルグルしていた。そんな複雑な話を、今ここでされても。こっちは濡れ衣の話で精一杯だ。
「その陰謀に気づいたのは、ほんの数日前だった。だが、対応する前に仕掛けられた。」
王の顔は真剣で、どこにも嘘がなかった。というか、嘘つく暇があるなら、もっと用心してよ、王様。
「今すぐ、王宮を出ましょう」
リチャードの声に、王も黙って頷く。
そして、転送魔法。リチャードが唱えると、私たち全員が光に包まれた。世界が跳ねて、景色が塗り替わる。
次の瞬間――私たちは王宮の外にいた。
「さて、これからが問題だ」
リチャードの声が、風の中に落ちる。
「え、まだ終わってないの?」
ルビーの声が裏返った。私も完全に同意。せめて甘いもののひとつくらい食べさせて?
遠くで鐘の音が鳴り響く。パレードが終わった合図。
「次に現れるのは、空の敵。」
リチャードが空を見上げた。私たちもつられて視線を上げると――
そこには、黒い影が無数に広がっていた。鳥? モンスター? とにかく、空の青さがどんどん消えていく。
「これ、ほんとに戦争じゃないの?」
クロエが震える声で言う。私も内心、100%同意だった。
リチャードが言う。
「これは、次の戦いの始まりだ。だが王が生きている今、勝機はある。」
その言葉に、私たちはほんの少しだけ背筋を伸ばした。未来がどう転ぶかわからないけど、ひとつ確かなことがある。
リチャードがいれば、なんとかなる気がする。
……いや、なんとかしてもらう。全力で。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。