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028 フォルナの町と黒猫の謎

リチャード、ユイナ、ルビー、エルフィーナ、クロエの五人は、枯れた草原を越え、次の町を目指していた。途中、現れる魔物たちは迷いなく排除され、足止めにもならない。


「……この先が“フォルナの町”ね。」


ユイナが地図を確認し、声を落とす。かつて交易で栄えた場所だというが、今は魔物が巣食っているという噂だ。


「町の人たち、生きてるって話だったよね?」とクロエ。

「ただし、“あつかわれ方”は人とは思えないらしいわ」とルビーが続ける。


やがて彼らは町の門にたどり着いた。開かれたままの木扉は歪み、音もなく風に揺れている。


誰もいない。だが、異様なほど整った街路、掃き清められた石畳、崩れた建物がひとつもないことが、逆に不安を誘う。


「……妙ですね。魔物が住みついているというには、あまりにも静かすぎます」


リチャードが呟く。背筋をぬるい風がなぞる。


町の中央、かつて広場だった場所に、人が集まっていた。男女問わず、みな顔を伏せて座っている。


だが、近づくとわかる。彼らの表情に苦しみも怯えもなかった。ただ、ひどく空虚な笑みだけがあった。


「……おかしい。魔力の痕跡こんせきも、魔物の気配もない」とエルフィーナ。


すると、その人々の輪の中央に立っていた老女が、ゆっくりとこちらを向いた。


「ようこそ、旅人さんたち。歓迎するよ。この町の“支配者”を、紹介しようか」


地面がわずかに揺れた。


現れたのは、一匹の小さな黒猫だった。柔らかな毛並みと、鈴のついた赤い首輪。けれど、その目に宿る光は、どこまでも澄んでいた。


「……あの猫が“支配者”ってこと?」


クロエが目を細める。


黒猫が小さく鳴いた。その瞬間、人々の動きが止まり、ぴたりと立ち上がる。誰もが無言のまま、まるで一つの意志に従うように、同じ動作で一礼した。


「意思を奪われているわけじゃない……彼らは、自分の意志で従ってる」


ルビーがぽつりとつぶやく。


「では、この町を動かしているのは……あの猫、ひとつだけですか?」


リチャードの声がかすれる。


黒猫はまた一声鳴いた。そして、広場にいたすべての人々が、ゆっくりとこちらに歩き始めた。


誰も怒りも悲しみもない顔で、ただ穏やかに、静かに近づいてくる。


「ねえ、もしかして……この町の“魔物”って……。」


クロエの言葉が途切れる。


猫が首をかしげた。それだけで、住民たちは再び立ち止まった。そして、静かに座りなおす。


「……交渉、できるかもしれないわね。」


とエルフィーナが猫に目を向けた。


リチャードは、黒猫と視線を合わせた。その奥にあるものを、彼は探ろうとする。言葉を超えた何かを。


やがて猫は、そっと彼の足元に歩み寄り、体をすり寄せた。


その日、フォルナの町に血は流れなかった。


だがリチャードたちは理解していた。この町をむしばんでいたものが、単なる暴力や魔力ではないことを。


それは、“従いたくなる存在”という、もっとも奇妙であらがいがたい支配だったのだ。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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