表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/68

020 ブラック職場、300年放置されてたら巫女がいた件

--------------------リチャードの視点。


北の魔境“エルドラフト”に到着した。

塔の前で、俺たちは風に吹かれていた。


……いや、“塔”っていうには、ちょっと無理がある。

だってこれ、どう見ても地平線を刺すレベルの建築物なんだけど?

物理法則とか工事費とか、ツッコミ担当を何人潰つぶせば気が済むの。


「これが、“時忘れの塔”ね。」


エルフィーナが言った。ピンクの髪が風に揺れる。相変わらず見た目は天使、口を開けば世界観説明担当。

さすが“賢狼”にクラスチェンジしただけある。


「正式名称は、“観測区画第零域”。かつてここで、全ての時が記録されたと言われているわ」


「わー、すごーい(棒)。」


クロエが見上げながら言った。声にやる気はないけど、持ってる弓は構えっぱなしだ。

うん、信じてるよ。主に戦闘力を。


一方、ユイナ様は塔の扉をじっと見つめていた。


ふわふわした巫女姿の少女・エレナは、霊感が強いらしい。

こういう“よくない場所”では、やたらとピリッとする。


「……この扉、夜の門の紋章が刻まれてる。古代の封印式、重ねがけね。」


「夜の門……空間を“夜”に変える術式、だったか。」


ルビーがうなずく。いつの間にかバトルアクスを肩に乗せ、何事もない顔で立っている。絶対、力の入れどころが違うけど……まあ、安心感はダントツ。


「扉を開けた瞬間、内部の時間感覚がずれるわ。気をつけて。」


……要するに、「入ったら二度と出られないかもしれない系。」ってことだな?

怖っ。


でも──行くしかない。


俺たちは、門をくぐった。


塔の中は、静かだった。


音が全部、遠くのどこかで鳴っているような感覚。

床は滑らかな黒い石で、天井は……見えない。空間そのものが迷子になっているような場所だった。


エレナが結界を張ってくれたおかげで精神は安定しているけど、「ここ、絶対に健康に良くない。」って体が全力で警告してきてる。


「なあ、そろそろ“出迎え”とかない? 出るなら今のうちに出てきて?」


そう言った直後だった。


「……ようこそ、観測者たち。」


──声がした。


塔の奥、扉の横。

まるで最初からそこに存在していたかのように、ひとりの少女が静かに佇んでいた。


年はたぶん、ユイナ様と同じくらい。

細身、灰色の外套がいとう。目元には布のような飾りがかかっていて、それが妙に懐かしい空気をまとわせている。


そして何より、“そこにいること”があまりに自然すぎて──誰も、気づけなかった。


「なんか……君のこと、知ってる気がするんだけど?」


「記録者の巫女──“ルリ”。かつてこの塔で補助係をしていた者です。」


ルビーが一歩前に出た。


「補助係? この塔の?」


「はい。観測記録の整理、精神負荷の軽減、迷宮内の調整……全てを、私が行っていました。」


……どんだけ働かされてたんだこの子。

この世界にもブラックはあるのか。


エルフィーナが問いかける。


「あなた、なぜ今もここに?」


「観測が止まったあと、塔そのものが“眠り”につきました。私は、そのまま取り残されたんです。……あなたたちが来たのは、約三百二十七周期ぶりくらい、でしょうか」


こよみが異次元過ぎて全然ピンとこない。」


思わず口にしたけど、ルリは微笑んだ。


「でも、ようやく来てくれた。あなたが──リチャード、ですね?」


「え、俺? なんで名前知って……。」


「あなたの記録は、私の“最初の仕事”でした。

忘れていても、私は知っています。あなたがここに来る未来を。」


……うわ。なんか物語の核心に触れてるっぽいやつ来た。


「リチャード、これ……完全に巻きこまれ型主人公ですね。」


クロエがにやにやして言う。ちょっと待て、それ俺のツッコミ枠じゃなかったっけ?


「では、案内します。あなたの記録の最深部へ──扉は、すでに開かれています。」


その時──塔の奥で、なにかが“ゆっくりと目を覚ます”ような気配がした。


鼓動こどうが、逆から打ち始めるような奇妙な感覚。

空間がひっくり返るような、懐かしいような、でもやっぱり怖いような。


「行きましょう。すべては……記録にかえるために。」


ルリが静かに微笑んで、俺たちは──歩き出した。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ