019 ダイスが未来を決める?『時忘れの塔』の選択肢
--------------------リチャードの視点。
午後。
俺たちはようやく目的の村、グリューデンに到着した。
「なんか、思ったよりサイバーな村だな……」
木造家屋の壁にホログラム、村長の家にWi-Fi完備、畑には自動草刈りゴーレム。
完全にファンタジー要素が電子の海に飲みこまれてる。
「たぶん、異世界転移した誰かが電化進行させた村ね」とエルフィーナ。
ああ……誰だよ、文明開化させた勇者は。
そして問題の占い屋は、村の中央、やたら派手なドームの中にあった。
扉を開けると、内部は金と紫を基調にした、まるでサーカスのような空間。
中央に立っていたのは――
「お待たせしましたわ、旅の運命、全スキャン済みですの!」
喋ったのは、スピーカー搭載の水晶球(※本体)。
その後ろでティーセットを準備してるのが、黒髪の巫女服を着た少女(※補助係)。
どう見ても主従逆転してる。
「私は未来予測ユニット、ミスティリア。この世界の“可能性の交差点”をご案内しますのよ」
水晶球のくせにテンションが高い。あと語尾が微妙にイラッとする。
「……つまり、未来が見えるってことですか?」
「ええ。“フォーチュンロール”を使えばね。あなたたちの未来の可能性を一度だけ、最大値で引き寄せてあげる」
「フォーチュンロール?」とユイナ様が小首をかしげる。
……なんか美味しそうな名前だけど、未来が決まるらしい。
「簡単に言うと、未来のダイスを一度だけ振り直す能力ですの! まあ、“出目操作”とも言いますわね!」
ユイナ様が興味津々で覗きこむ。
「ねえ、それって私の“超ラッキースター∞”と併用できる?」
「ふふん、あなたの幸運補正なら、たぶん“世界軸そのもの”も書き換え可能ですわ。ついでに作者の予定も狂いますわ」
今、軽くメタ踏み抜かなかったか。
「では、誰が一番に“未来ダイス”を振りますの?」
ミスティリアがきらりと光を灯した。
すると――全員が、俺を見た。
「えっ、俺!?」
「この旅の“鍵”を握るのは、あなたでしょう?」とエルフィーナ。
「ま、確かにリチャードがどう動くかで色々変わるしね」とルビー。
「リチャード……信じてます!」とクロエ。
「じゃあ早速振ってみて!」とユイナ様。
……この人、もうノリがバラエティ番組の司会者だな。
仕方なく、俺はミスティリアの前に立った。
「“未来を照らせ、ダイス・オブ・ソウル!”」
水晶球の内部で、光の数字がくるくると回転していく。
――ピタリと止まる。
現れたのは、謎の一文。
【運命の鍵は、“夜の門”で開かれる】
「……なにそれ。もっと具体的なの、なかったの?」
「すみませんわ、未来ってだいたい詩的なんですのよ」
ああ、これ絶対、後でめんどくさいイベントの予告だ。
しかも“夜の門”って名前からして不穏しかない。
「ちなみに、その“夜の門”は、北の魔境“エルドラフト”にある“時忘れの塔”の中にございますの」
やっぱりか!
めっちゃ面倒な場所じゃん! 俺、もう胃が痛いぞ!
その時、補助係の巫女少女がふわりと前に出た。
「……私、案内できますよ」
「え?」と俺が聞き返すと、彼女は淡く微笑んで言った。
「“夜の門”は、私の“生まれた場所”ですから」
……またひとつ、謎が増えた。
胃の奥がきゅっと縮むのを感じながら、俺は無理やり冗談に逃げた。
なぜどんどん“秘密持ちヒロイン”が増えていくのか。
俺の未来は、もうどこに向かってるのか分からない。けれど――
「よし。じゃあ次は俺たちが未来を変える番だな」
口から出たその言葉に、自分で驚いた。
……いや、かっこつけたけど、多分これ、ラッキースター∞の補正だ。
――というわけで、俺たちの次なる目的地は「時忘れの塔」。
新たな仲間(という名の謎少女エレナ)とともに、再び旅が加速する。
そして、俺の胃は今日も静かに悲鳴を上げるのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。