014 帰還報告、からの絶望タイム
--------------------リチャードの視点。
クロス・イレオスとの激戦を終え、俺とルビーはシルヴァーナ様の城に戻った。
長かった。いやもう、時空の支配者とか聞いただけで胃が痛いのに、まさか本当に勝つとは思わなかった。ルビーがいなければ確実に俺、今ごろ時の彼方で迷子だった。
「リチャードさん。ルビーも……お疲れさま。」
シルヴァーナ様の声はいつも通り静かで、妙に落ち着いている。
いやいや、もっと驚いてもらってもいいのでは? 俺たち、時空を救って帰ってきたんだけど?
けれど、次の言葉でその空気が一変した。
「この世界の七割が、敵に制圧された。」
……は? 七割? え、七割ってほとんどじゃないか。
「しかも、敵の正体は不明だ。目的も、何もわからない。ただ、じわじわと広がっている。静かに、確実にね。」
わからない敵って一番厄介なやつじゃん……!
明確な悪の親玉とか出てきてほしい。こっちもやる気が出るから。
シルヴァーナ様は続ける。守りきれたのは、ダークエルフの王国だけ。しかも、「それだけ守れれば良い」と本気で思っているようだ。ちょっと待って、それは女王としてどうなの?
「戦神サラ、癒しの神レイナ、星の神かなえは、異世界ラグナヴィアにいる。帰還は難しい。」
あー、神々も出張中か。世界、いま完全に留守番モードじゃん。
「ゼウスたち天界の古代神は復活を果たしているが、天界の防衛に専念しているようだ。他の神々も足並みが揃わない。中には敵と対話を試みようとする者もいる。」
それ、会議が長引くタイプのやつ。神様たち、そろそろグループチャット使ってくれ。
さらに追い打ちをかけるように、異世界間のゲートはすべて封鎖中。開けるには、ラグナヴィアにいる次元竜アリスティアの許可が必要らしい。
「……無理ゲーか?」
思わず口に出た。ルビーが横で苦笑いしていたけど、これ、笑ってる場合じゃないだろ。
異世界ダンジョン『ディメンション・アーク』にいる冒険者ギルド「ブラック・スターズ」は音信不通。星6のダンジョンに入ったっきり、誰も帰ってこない。フェリシアもその中に含まれているらしい。
「アリアは?」と聞くと、剣と魔法の異世界ファンタジー『グランブル・イスタブリスタ』で敵に包囲され、謎の光に包まれたまま行方不明とのこと。うん、もうなんかイベントフラグ立ちすぎてて、バグってる感ある。
「ルミナさんは?」という質問には、さらに驚きの答えが返ってきた。
「日本という異世界で、父親と静かに暮らしているそうだ。OLをしているらしい。」
……ヒーローがオフィスレディに転職って、時代か?
一通りの説明を聞いたあと、俺は耐えきれず声をあげた。
「こんなに世界が追い詰められてるのに……なぜ、あなたたちは動かないんですか?」
目の前にいるのは、かつて世界の希望だったはずの人たち。シルヴァーナ様も、ロウィン様も、そしてヴァルカ様も。
彼女らが動けば、きっと流れは変わる。そう信じていた。少なくとも、今までは。
けれど、その問いに返ってきたのは――
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