表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/68

010 最強の敵が来たので、チート解除しました

--------------------リチャードの視点。


「では、証明してみせよう――我が“支配”の真価を。」


クロス・イレオスの指がゆっくりと持ち上がる。空間がきしむ音。まるで世界そのものが古びた扉のようにひしゃげていく。彼の周囲から立ちのぼる時空のひずみが、光すら飲みこみ始める。


次の瞬間、世界が“歴史”のおりに変わった。


俺とルビーは一瞬で何百年も過去の空間に閉じこめられていた。砂塵さじん舞う廃墟はいきょ、天をく雷鳴、そして押し寄せる無限の時間。目に見えぬ速さで景色が移ろい、時間が怒涛どとうのごとく進んでいく。


「……早送りにもほどがあるな。」


俺は思わずぼやいた。おまけに風も強い。前髪が目に入るし、ルビーのツインテールも暴れてる。


「リチャード、これ——対処を。」


「もちろん。準備体操は済んでる。」


腰に下げた小さな装置に触れる。ごく普通の、見た目だけは。


起動する。淡い光が俺とルビーの周囲を包んだ。


時間の奔流ほんりゅうがピタリと止まる。俺たちの立つ地点だけが静止した泡の中にあるかのように保たれ、周囲の変化が外野の喧噪けんそうのように遠ざかっていった。


「“時間じかん遮断しゃだん結界けっかい”、ね。旧式だけど効くじゃない。」


「新型は重くて持ち運びが面倒なんだよ。便利さが命、ってね。」


ルビーはかすかに笑い、俺の肩越かたごしにクロスを見た。


視界が急に暗くなる。第二波。


クロスが手をかざす。空間がたたまれ、俺たちのいる座標ざひょうが消えた。位置の概念がいねんすら奪おうとする干渉かんしょう。まさに“存在の剥奪はくだつ”。


俺はため息まじりにふところから取り出す。


「はい、座標固定装置~。」


ボタンを押すと、足元に淡いリングが展開。地面がれるのも、空間がゆがむのも、一切いっさい合切がっさいうそのように収まった。


「空間操作も封じてきたの?まるでマジシャンね。」


「俺のポリシーは、詐欺師さぎしみに手札を持っておくことだ。」


ルビーが軽くうなずき、指先から小さな球体を放った。球はクロスの魔力干渉層に触れ、静かに弾ける。


それだけで、三重に折り畳まれていた空間が解かれた。


クロスの表情がわずかに動いた。おそらく、これでも“本気”ではないのだろう。だが、相手の計算が少しでも狂えば、それは大きなすきとなる。


「次はどんな芸を見せてくれるんだ?」


俺は皮肉混じりに言いながら歩を進めた。ルビーがそれに並ぶ。


「お前たちは…一体、何者だ?」


「ただの仲良し時空オタクだ。」


クロスが腕を振る。今度は反転世界。昼と夜が逆転し、重力すら反対に流れる。俺たちの体が空へと吸い上げられていく。


が。


俺は空中で靴のかかとを軽く打ち鳴らした。


「“重力じゅうりょくアンカー”ってやつさ。」


ズン、と鈍い音。俺たちはその場に“落ちる”ことなく、空中に静止した。


ルビーが視線だけで問うてくる。


「まだある?」


「あと三つくらいかな。温存しておきたいけど、彼がこのペースで来るなら――使いどころかも。」


クロスが口元をゆがめる。今までの威圧的いあつてきな態度が、どこかいらちを含んだものへと変わっていく。


「想定外だ。ここまで…通じないとはな。」


「計算外もまた、戦いの一部さ。」


俺は軽く指を鳴らした。


最後に備えた切り札が、足元で静かに展開を始める。


これが発動すれば、クロス・イレオスの“支配”は完全に無力化される。


「さて、イレオスさん。時空を“支配する”のは悪くない。でもね――」


視線を真っ直ぐ向ける。


「俺たちは、“自由に遊ぶ”派なんだよ。」


その言葉と同時に、世界が再び回り始める。止まっていた空気が流れ、風が吹き、空が広がる。


時空の“支配者”が牙をく。その瞬間とき、真の戦闘が始まった。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ