010 最強の敵が来たので、チート解除しました
--------------------リチャードの視点。
「では、証明してみせよう――我が“支配”の真価を。」
クロス・イレオスの指がゆっくりと持ち上がる。空間が軋む音。まるで世界そのものが古びた扉のようにひしゃげていく。彼の周囲から立ちのぼる時空のひずみが、光すら飲みこみ始める。
次の瞬間、世界が“歴史”の檻に変わった。
俺とルビーは一瞬で何百年も過去の空間に閉じこめられていた。砂塵舞う廃墟、天を裂く雷鳴、そして押し寄せる無限の時間。目に見えぬ速さで景色が移ろい、時間が怒涛のごとく進んでいく。
「……早送りにもほどがあるな。」
俺は思わずぼやいた。おまけに風も強い。前髪が目に入るし、ルビーのツインテールも暴れてる。
「リチャード、これ——対処を。」
「もちろん。準備体操は済んでる。」
腰に下げた小さな装置に触れる。ごく普通の、見た目だけは。
起動する。淡い光が俺とルビーの周囲を包んだ。
時間の奔流がピタリと止まる。俺たちの立つ地点だけが静止した泡の中にあるかのように保たれ、周囲の変化が外野の喧噪のように遠ざかっていった。
「“時間遮断結界”、ね。旧式だけど効くじゃない。」
「新型は重くて持ち運びが面倒なんだよ。便利さが命、ってね。」
ルビーは微かに笑い、俺の肩越しにクロスを見た。
視界が急に暗くなる。第二波。
クロスが手を翳す。空間が折り畳まれ、俺たちのいる座標が消えた。位置の概念すら奪おうとする干渉。まさに“存在の剥奪”。
俺はため息まじりに懐から取り出す。
「はい、座標固定装置~。」
ボタンを押すと、足元に淡いリングが展開。地面が揺れるのも、空間が歪むのも、一切合切が嘘のように収まった。
「空間操作も封じてきたの?まるでマジシャンね。」
「俺のポリシーは、詐欺師並みに手札を持っておくことだ。」
ルビーが軽くうなずき、指先から小さな球体を放った。球はクロスの魔力干渉層に触れ、静かに弾ける。
それだけで、三重に折り畳まれていた空間が解かれた。
クロスの表情がわずかに動いた。おそらく、これでも“本気”ではないのだろう。だが、相手の計算が少しでも狂えば、それは大きな隙となる。
「次はどんな芸を見せてくれるんだ?」
俺は皮肉混じりに言いながら歩を進めた。ルビーがそれに並ぶ。
「お前たちは…一体、何者だ?」
「ただの仲良し時空オタクだ。」
クロスが腕を振る。今度は反転世界。昼と夜が逆転し、重力すら反対に流れる。俺たちの体が空へと吸い上げられていく。
が。
俺は空中で靴のかかとを軽く打ち鳴らした。
「“重力錨”ってやつさ。」
ズン、と鈍い音。俺たちはその場に“落ちる”ことなく、空中に静止した。
ルビーが視線だけで問うてくる。
「まだある?」
「あと三つくらいかな。温存しておきたいけど、彼がこのペースで来るなら――使いどころかも。」
クロスが口元を歪める。今までの威圧的な態度が、どこか苛立ちを含んだものへと変わっていく。
「想定外だ。ここまで…通じないとはな。」
「計算外もまた、戦いの一部さ。」
俺は軽く指を鳴らした。
最後に備えた切り札が、足元で静かに展開を始める。
これが発動すれば、クロス・イレオスの“支配”は完全に無力化される。
「さて、イレオスさん。時空を“支配する”のは悪くない。でもね――」
視線を真っ直ぐ向ける。
「俺たちは、“自由に遊ぶ”派なんだよ。」
その言葉と同時に、世界が再び回り始める。止まっていた空気が流れ、風が吹き、空が広がる。
時空の“支配者”が牙を剥く。その瞬間、真の戦闘が始まった。
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