069 星天宝具
試験開始の合図と共に、俺は迷わず一人で駆け出した。
リリアナやユーリといった好成績を狙う実力者たちも同様に、それぞれの目的地へと向かって散っていく。
(まずは、人前から離れるのが先決だな……)
幸い、ダンジョンのマップは完全に頭に入っている。
ゲームでの攻略ルートを思い出しつつ、俺は最短距離で目的地を目指した。
途中、何度か魔物との遭遇はあったが、基本的には無視。
無駄な時間を消費するだけでなく、ここで魔石を集めても意味はないからだ。
そうこうしているうちに、俺は下位エリアと上位エリアの境界線にたどり着いた。
「よし、まずはここを超えないとな」
『ダンアカ』で主人公を操作していた時、一年編ではシステム的に絶対超えられなかったポイント。
とはいえ、特に物理的な制限があったわけではないので、現実となった今、普通に足を踏み入れることが可能だった。
そのまま十数分ほど走り続けていると、突如として獰猛な咆哮が響き渡る。
「ガルァァァアアアアア!」
「――――ッ!」
灰色の毛並みを持つ、人型の狼――ワーウルフが3体、俺を取り囲むようにして出現する。
その見た目と能力は、以前戦ったワーライガーに近く、非常に強力な魔物だ。
確かここに出現するものだと、レベルは30前後だろうか。
素通りを試みることも可能だが、こいつらは足が速いため、そちらの方が余計な手間になる可能性もある。
「……仕方ないか」
いずれにせよ、試験のため数体は魔物を倒そうと考えていた。
俺は【エンチャント・ナイフ】と【ナイトブリンガー】を構えると、真正面からワーウルフを迎え撃った。
「ガルァァアアア!」
「シャァァアアア!」
雄叫びを上げながら、一斉に襲いかかってくる3体のワーウルフ。
だが、今の俺からすればその動きは遅すぎた。
かつてワーライガーに苦戦したのが嘘だったかのように、敵の攻撃を凌ぎながら次々と反撃を浴びせていく。
その結果――
「ァ、ァァァアアアアア」
ものの数分足らずで討伐完了。
断末魔と共に、3体は魔石のみを落として消滅した。
「よし、あとはこれを回収してっと……」
試験用に支給された魔法袋に、魔石を収めていく。
この袋は特殊なマジックアイテムであり、討伐直後の魔石しか入れられない。
つまり、事前に大量の魔石を用意して提出するといった不正が起こらないようになっているわけだ。
さらには、所有者がダメージを受けると中身が飛び出すという仕組みもあり、その特性を利用した魔石の奪い合いも可能となっているのだが……
「まあ、その辺りは今いいとして……」
そのまま、さらに突き進むこと数分。
俺はようやく、その場所に辿り着いた。
「……ここだな」
乱立する木々の中、ポツンと一つ、古びた祠が佇んでいる。
見かけた者は『ダンジョンの中に祠?』と首を傾げるだろうが、通常なら気にも留めないまま通り過ぎるはず。
だが、俺にとってはそうはいかない。
なにせここが、俺のずっと辿り着きたかった目的の場所なのだから。
「よし、やるか」
俺はゆっくりと祠に近付き、手を当てる。
そして【新星の迷宮】の時と同じように、魔力を込めながら言葉を告げた。
「“我、大賢者ヴァールハイトの意志を継ぐ者――
そして、禁忌の大魔術師ジオラスターの野望を打ち砕く者なり”」
前回よりも一文長い合言葉。
それを紡ぐと、祠全体が淡く輝き始めた。
直後、ズズズという音を立てながら祠が横にズレ、下へと続く階段が現れる。
「……ひとまず、これで第一段階は成功だな」
しかし、まだ気は抜けない。
深く息を吐いた俺は、最後の準備を整えて地下へと降り始めた。
ここから先は【零落の間】と呼ばれる空間。
ゲームでは主人公のソロプレイでしか入れなかった場所だ。
本編攻略に必須の場所でもないため、存在すら知らないプレイヤーも少なくないだろう。
そんな【零落の間】だが――ここではなんと、【星天宝具】の一つを入手することができる。
そもそも星天宝具とは、かつて大賢者ヴァールハイトが創り出したとされる、太陽系になぞらえた10の最強武器。
一つ一つが天地をひっくり返すほどの性能を持っていると言われている。
この地には、そのうちの一つ――星天宝具の中でも例外的立ち位置となっている長剣が眠っているのだ。
「……着いたか」
そんなことを考えているうちに、最下層まで辿り着く。
巨大な扉を開いて中に入ると、そこには圧倒的な光景が広がっていた。
円形の空間全体が荘厳な空気を漂わせ、日の差さない場所であるにも関わらず、天井には夜空が広がり――
そして、眩い無数の星々が瞬いていた。
『………………ゥゥゥ』
その中心に設えられた玉座に鎮座するは、漆黒の鎧に身を包んだ巨大な騎士。
名を、【影骸の守護者】。
ゲームにおいては、安全に討伐するためには60レベルは必要とされていた難関ボスだ。
アイツを討伐しないことには、せっかくの星天宝具も入手できない。
用意してきた策が通用するかどうかが、勝負の肝となる。
(さあ……ここからが本番だ)
俺は気を引き締め直し、シャドウセンチネルと対峙するのだった。
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