068 中間試験開始
では、そもそもグレイとリリアナがキーパーソンなのはなぜか。
それは二人の行動と選択によって、ゲーム通りにシナリオが進行するかどうかが決まるからだ。
まず、グレイの方は単純に、ブルートを討伐できるだけの実力があるかどうかが課題になってくる。
ゲームにおいては、レイヴァーンの試練突破とブルート討伐には最低限の実力が必要であり、足りなければ無情にもゲームオーバーになる仕様だった。
ただ、そちらについては問題ないと考えている。
(この一か月間、グレイの成長を確かめるのにもかなり時間を割いたからな)
あの日、剣を交えた一件が彼の成長に有効だったのかは定かでないが、少なくともそれ以降、グレイは慢心することなく鍛錬を重ねていた。
ミクたちと一緒に毎日のようにダンジョン攻略へ向かっているようで、やり込んだゲームプレイヤーの周回プレイ時と同じか、それ以上の成長を見せていたのだ。
『ダンアカ』の知識がないグレイが――すなわち、いわゆる初見プレイの者が辿り着ける実力としては最高水準だと言っていいだろう。
当然、そんな今のグレイが、ブルートを討伐するために必要なステータスを有しているのは確認済みだ。
(ただ、それだけじゃ完全には安心できない)
一方でもう一人、俺が気にかけているのがリリアナだった。
彼女については単純に、本来の中間試験(一年編)にいないキャラクターだというのが大きい。
リリアナの実力はこの時期の一年生としては飛びぬけている。
そのためブルートが出現した際、グレイのそばにリリアナがいると、グレイの覚醒を待たずして彼女が討伐してしまう恐れがあるのだ。
今後のことを考えると、その展開だけは何としてでも避けたい。
グレイにはしっかりと、この場でシナリオ通りに成長してもらいたいのだ。
そんな事情もあり、今のうちにリリアナの動向を確かめておきたいなのだが――
俺の視線に気づいたのか、リリアナが柔和な笑みを浮かべて近付いてくる。
「あら。私のことを熱く見つめていらっしゃったようですが、どうかされましたか、アレンさん?」
「いや、リリアナは今日の試験で、どれくらい上を目指すのかなと思って」
「ふふ、面白いことを尋ねますね。もちろん、一番に決まっています……たとえ、どれだけ高い目標があろうと」
そう言って、彼女は蒼色の視線をある場所へと向ける。
その先にいたのは――
「むにゃむにゃ……もう食べられないよう……」
――さすがに中間試験当日だからか、寝坊せず(今寝ているが。それも立ったまま器用に)この場にやって来ているルクシアだった。
この一か月間、共に修行する中でルクシアがどれだけ規格外な存在であるかは、リリアナも重々承知のはず。
その上で一番を目指すということは、上位の2エリアを探索するつもりだと考えていいだろう。
(よし、それなら問題なさそうだな)
グレイとブルートの戦闘が発生するのは下位エリア。
しかもブルートの登場から討伐までは数分間の出来事であるため、他エリアや、ダンジョンの外にいる教師陣の救援が間に合うことはない。
イレギュラーを巻き起こす唯一にして最大の要因であるリリアナさえその場にいなければ、特に問題なくシナリオは進行するはずだ。
そう思い、ホッと胸を撫で下ろした直後だった。
「アレン」
「っ」
突然、名前を呼ばれる。
振り向くと、そこには他ならぬグレイ・アークが立っていた。
いきなり何だと警戒していると、彼は真剣な表情で続ける。
「今回の試験、君には負けない。この一か月間の成果を見せるよ」
「あ、ああ」
「……言いたかったのはそれだけだ。じゃ、お互いに頑張ろう」
それだけを言い残し、グレイは去っていく。
……突然のことに驚いてしまったが、ただの決意表明だったようで一安心だ。
「全員、準備はできているな」
直後、ゼントリヒの声が辺り一帯に響き渡る。
(っと、そうこうしているうちに、もう時間だな)
ふーと、深く息を吐き準備を整える。
すると、その時。
「…………」
「――――」
不意に視線を感じて見上げると、教師陣が並んでいる中にいる白髪の女性――リオンと目があう。
リオンは俺の健闘を祈るような、身を案じるような……そんな彼女らしくない表情を浮かべていた。
「…………」
俺は軽く頷きだけを返し、【忘れられた星樹林】に体を向ける。
そして、
「それでは――中間試験、初め!」
ゼントリヒの宣言と共に、全員が一斉にダンジョンの中へ駆け出す。
――こうしてようやく、中間試験が始まった。
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