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066 最後の指導

 【解放のスキルオーブ】。

 それは、各キャラクターが()()()()()を獲得するための強化パーツである。


 では、そもそも【進化スキル】とは何か。

 『ダンアカ』において、それは各キャラクター専用の固有スキルのことを指す。

 それぞれのキャラクターに設定された対象スキルのレベルを10まで上げた後、解放のスキルオーブを使用することで幾つかの進化候補が表示され、そのうちの一つを選択すると新たなスキルを習得。

 基本的には元のスキルから火力や効果範囲が強化されたものが多く、それゆえに進化スキルと称されているわけだ。(いわゆる中級スキルや上級スキルとは別枠)


 そしてそのシステムはメインキャラだけでなく、モブクラスメイト全員――つまりアレンにも適用されていた。

 クラスメイト全員をパーティーに入れられるという『ダンジョン・アカデミア』の売りを活かすためだろう。

 とはいえ、全ての条件がメインキャラとモブキャラクターで同じというわけではなかった。



「グレイやリリアナみたいなメインキャラは対象スキルが複数あったけど、アレンみたいなモブには1つしか設定されてなかったんだよな……」



 例えばアレンの場合、選択可能な対象スキルは【ヒール】のみ。

 そして、ヒールを進化させることで獲得できるスキルは全部で3つあるが、そのどれもがピーキーな性能であり、【ヒーラー】が持つそもそもの弱点が解消されているわけでもない。

 そのため、前世ではわざわざ貴重な【解放のスキルオーブ】を消費し、アレンの進化スキルを解放するような物好き(プレイヤー)はほとんどいなかった。


「だけど――現実ここでは違う」


 俺はヒールの3つの進化系統に、それぞれ大きな可能性を見出していた。

 これまでと同様、ゲームでは試せなかった手段を用いれば、驚異的な効果を発揮するはずだ――と。


 そんな中でも、まず獲得しようと考えている進化スキルが1つ存在する。

 そのスキルは単体だと大して効果がないが、中間試験が行われる【忘れられた星樹林】で手に入る()()()()()()()()()()()()()と組み合わせることができれば、限られた状況において一気に最強格へと躍り出る。



 それこそ、()()()()()()()を超え――()()()()()()()()へと、だ。



「俺のレベルは39で、ヒールのスキルレベルが9……発動条件を満たせるのももうすぐだな」


 この最強への一手を組み立てるために、まだやるべきことはある。

 だが、このオーブを手に入れたことで、大きく前進したことは間違いない。


 俺は希望を胸に、ダンジョンを後にするのだった。



 ◇◆◇



 ――――数時間後。


「ハアッ!」


「――――!」


 鍛錬場に、木剣同士がぶつかる音が響き渡る。


 今日は中間試験が行われる前日ということで、講義は午前で終了。

 その足で【英知の書架迷宮】を攻略した俺はアカデミーに戻り、リオンから試験前最後の指導を受けていた。

 ダンジョン攻略直後に修業とは、我ながら厳しいスケジュールだと思うが……【解放のスキルオーブ】を獲得できたからだろうか、今は活力の方が優っていた。


 そんなこんなで、木剣を交わすこと約一時間。

 ふと、リオンは剣を下ろした。


「ここまでにするとしよう。明日は試験当日だ。これ以上疲労を溜めるのもよくないだろう」


「はあっ、はあっ……ありがとうございました」


 汗を拭いながら礼をする俺を見て、リオンが続ける。


「身体能力も技量も、まさかたった一か月間でこれほどにまで成長するとは……凄まじい研鑽だな、アレン・クロード。お前のような例は、私が知る限り過去に一人もいないぞ」


「それは……リオン先生やルクシアたちのおかげですよ。俺一人じゃ、ここまで強くなれていません」


「……そういえば、ルクシア・フォトンやリリアナ・フォン・アイスフェルトたちとも、時折一緒に動いている様子だったな」


 思い出したように告げるリオン。

 その後、真剣な黒い瞳で俺を見つめた。


「以前、お前は私に師事する理由として、強くなるためだと答えたな」


「はい」


「実際、お前は成長している……私の想像を上回るほどのスピードで。故に、改めて聞かせてくれ――そうまでして強くなった先に、お前は何を望んでいる?」


 その問いに対し、どう答えるべきか一瞬だけ悩む。

 しかしこの一か月間、リオンと同じ時間を過ごした記憶があるからだろうか……その言葉はスッと俺の口から零れた。


「――――最強に、なることです」


 俺に降りかかる全ての死亡フラグをへし折るため――とまでは言えなかったが、それでも、心の奥底に眠る率直な気持ちを告げる。

 するとリオンは驚いたように目を見開いた。


「最強……? これはまた面白い単語が出てきたな。どうすれば計れるものかも分からんが、誰か超えたい相手でもいるのか?」


「えっと……」


 さすがにここで、未来のグレイと答えるのはおかしいだろう。

 悩んだ末、俺はここで例として挙げても不自然ではない人物を口にする。


「その……学園長、とか?」


「……お前は学園長に何か、恨みでもあるのか?」


「いや、そういうわけではないんですけど。単純に今、俺が知っている中で最強はその人なので」


「ふむ……具体的に誰か超えたい相手がいるというよりは、ただ純粋に、文字通り最強を求めているだけか……青く、それ故に眩しい目標だな、アレン・クロード」


 リオンは、彼女らしくない微笑みを浮かべると、そのまま続ける。


「それにしても、最弱職の【ヒーラー】の身で最強を目指すか……普段なら眉唾物だが、お前ならあるいはと思わせてくれるな」


 そう言い切った直後、リオンの表情が僅かに陰ったように見えた。


「できることなら、私もその行く末を見届けたいところだが……」


「心配なさらずとも、在学中の3年間で達成するつもりですよ」


「そうか……そうだったな。しかし、お前は自分の言っている意味が分かっているのか? 学園長を超えて最強を目指すということは、その道中で必然的に私も超えなくてはならないが……お前の成長がいくら早かろうと、たった3年で先を譲るつもりはないぞ」


「それは――やってみないと分からないでしょう?」


 俺の返答を聞いたリオンは僅かに目を見開いた後、クスリと小さく笑う。


「ああ、違いない。しかし、まずは直近の課題……明日の中間試験だ。そこで私みずからお前に指導してやった成果を、しかと見せてみろ」


「……分かりました」


「今、口ごもらなかったか?」


「気のせいかと」


 この流れで『試験中寄り道する予定なので好成績は無理です!』とは言えないため、何とか誤魔化し切る。

 そんな風にして最後のやり取りを交わした後、俺はこの一か月間の指導に対し、改めて感謝を伝えるべく深く頭を下げた。


 そして――――



 ◇◆◇



 ――――翌日。

 とうとう、中間試験当日がやってくるのだった。


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『ゲーム中盤で死ぬ悪役貴族に転生したので、外れスキル【テイム】を駆使して最強を目指してみた』



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