063 ヒロイン大戦争
では、そもそもスキルオーブとは何か。
それはダンジョンなどで極稀に得られ、消費することでスキルを獲得できる特殊アイテムの総称。
得られるスキルとしては基本的には身体強化(小)や思考加速など、ステータスに少し補正がかかる程度の補助的なものが多くなっている。
まあ、他のスキルと違って修練もせずに一瞬で得られるのだから、十分以上の性能だと言えるだろう。
(それに……幾つか例外も存在する)
ジョブスキルを上回る性能のエクストラスキルを獲得できるものはもちろん、他にも様々な種類のオーブが存在している。
中には、俺が最強を目指す上で必ず獲得したいものもあり……確率こそ低いが、【英知の書架迷宮】はそれが得られるダンジョンの一つだった。
(さて、今回はどうかな)
横たわるグランドオウルの死体に視線を向ける。
すると消滅後、そこには二つの球体が残されていた。
一つは透明で、もう一方は薄い黄緑色。
一方は普通の魔石だろう。しかし、恐らくもう一つは……
俺はその球体を拾い上げ、情報を確かめた。
――――――――――――――――――――
【スキルオーブ(低級)】
・低級のスキルオーブ。
・消費することで、風耐性(小)を獲得できる。
――――――――――――――――――――
「ドロップしたはいいけど、風耐性(小)か……」
風耐性(小)は文字通り、風属性への抵抗力が恒常的に増すパッシブスキルだ。
優秀なスキルではあるものの、俺が求めていたオーブとは違っていた。
……まあ、スキルオーブがドロップしただけでも運はかなりいい方なんだけど。
(それに、初めから一度や二度の試行で、狙い通りのものが出るとは思ってなかったしな)
狙ったスキルオーブが得られるかどうかは、確率が絡んでくる以上ゲーム知識だけでは解決できず、試行回数が物を言う。
中間試験が行われる【忘れられた星樹林】のように、定められた期間しか攻略できないわけではないし、急いで入手しなくてはならない理由もない。
時間をかけて、じっくりと試行回数を増やしていくとしよう。
「そちらはもしかして、スキルオーブですか?」
そんなことを考えていると、制服についた汚れを落としたリリアナがそう問いかけてくる。
「ああ。風耐性(小)が獲得できるみたいだ……ほら」
俺は頷いたあと、そのスキルオーブをリリアナに差し出す。
すると彼女はきょとんと首を傾げた。
「あの、これはいったい……?」
「今回の最大貢献者はリリアナだから、受け取るべきだと思って」
理由を説明するも、リリアナは納得できないように眉をひそめた。
「確かにボスを討伐したのは私ですが……総合的に考えた場合、このダンジョンのギミックを解除し、適切に指示をしてくださったアレンさんの方がふさわしいと思うのですが……」
リリアナの発言も一理あるだろう。
しかし正直に言うと、俺はただ親切で譲ろうとしているのではなく、ちょっとした打算があった。
「その部分については気にしなくていい。それに、他にも俺から頼みたいことがあるしな」
「頼みたいこと、ですか?」
「ああ。できればこれからも定期的にダンジョン攻略に付き合ってほしくて……そしてもしドロップした場合、俺に譲ってほしいアイテムがあるんだ」
「……ふむ」
リリアナは少しだけ考え込む素振りを見せた後、風耐性(小)のスキルオーブを受け取る。
「かしこまりました。ここまで言われて受け取らないのも、アレンさんの気持ちを蔑ろにしてしまいますからね」
「ありがとう」
「ただ、一つだけ。こちらについては私が受け取りますが、今後の攻略で得たアイテムに関してはアレンさん、私、ローズの三人で平等に分けさせてください」
「殿下、私の分は必要ありませんので、殿下が使用していただければと」
「そうですか? 個人的には承知しかねますが……まあその辺りの配分は後々相談させていただくとして、基本的な方針としてこちらでも構いませんか? でないと、私ばかりがアレンさんから施される形になってしまいます。これは将来のことを考えても、少々よろしくありません」
「将来?」
「こほん、口が滑りました。何でもないので忘れてください」
よく分からない発言も交じっていたが、リリアナの意図するところは理解できた。
俺としては攻略に付き合ってもらってるし、そもそも初めは学園の外に連れ出すための口実だったわけで、少し罪悪感が沸いてしまうが……
こうなった時のリリアナはどう説得しても退かない。
ゲームでそれを知っている俺は頷いた。
「分かった。じゃあ、それで頼む」
「はい、アレンさん」
ひとまずこれで、報酬の配分については結論が出た。
……のだが、なぜかリリアナは俺から視線を外さず、じっと見つめ続けていた。
「えっと、リリアナ? 俺の顔に何かついているか?」
「っ……いえ、申し訳ありません。少々考え事をしておりました」
「考え事?」
「ええ。自らの認識の甘さを恥じていたのです」
「……?」
脈絡のない発言に思わず小首を傾げると、彼女は静かに笑みを浮かべる。
「今回のダンジョン攻略や、ボス戦でのアレンさんについてです。様々なギミックを呆気なく攻略してしまった知識量はもちろん、取り巻きであるグリモアを颯爽と打ち払うお姿……どちらも私の想像を遥かに超えたものでした。そこに至るまで、果たしてどれだけの研鑽を重ねてこられたでしょうか。私もアレンさんに後れを取らないよう、一層邁進しなくてはならないと痛感いたしました」
「…………」
現時点での実力はリリアナの方が遥か上だし、持ち上げ過ぎだと思うのだが……
そう考えていると、彼女は続ける。
「こうなったからには、デー……こほん、おでかけではなくダンジョン攻略に連れてきてもらえたのも、良い機会だったかもしれませんね」
「だったら俺としても嬉しいが……」
「――ですが」
ホッと胸を撫で下ろしかけた瞬間、リリアナがグイッと身を乗り出してる。
普段は静かな蒼色の瞳の奥にメラメラと情熱のようなものが見えた気がした。
「それはそれとして……攻略前にアレンさんが仰られていた貸しについて、覚えていますか?」
「あ、ああ。もちろん」
「ではさっそくですが、こちらを行使させていただければと」
そう告げた後、リリアナは深い笑みを浮かべ――その条件を口にするのだった。
◇◆◇
――約1時間後。
鍛錬場には、俺、ルクシア、ユイナの他、リリアナとローズもいた。
俺が放課後、二人と鍛錬していることを(なぜか)知っていたリリアナは、ぜひ自分も参加したいというのがお願いの内容だったのだ。
「――というわけでして。私も参加させていただけますでしょうか?」
「…………」
「おぉ~」
突然現れたリリアナに、ユイナとルクシアは各々の反応を見せていた。
ユイナは無言で呆然とした表情を浮かべ、ルクシアは抜けた声を漏らす。
数秒後、先に声を上げたのはルクシアだった。
「私は別に平気だよっ! ユイナはどう?」
「あ、も、もちろん構いません!」
「ありがとございます。ルクシアさん、ユイナさん」
「あ、でもでも一つだけ訊かせて! アレンとリリアナって、そんなに仲がよかったの?」
ルクシアからの問いに、リリアナはなぜか頬を赤くし、
「実はアカデミー入学前、アレンさんには命を救っていただいたことがありまして……」
頬に手を当てながらそう答えた。
どうやら細かい事情は皇室が関わってくるので説明できないが、その辺りまでなら伝えてもいいと考えたらしい。
すると、その説明を聞いた二人は――
「ほえ~、アレンがリリアナを!?」
「この前アレンくんが言っていたのって、そのことだったんだ……」
再び、各々に驚いた反応を見せていた。
特に以前、俺から関わりがあることを伝えていたユイナは納得したように頷く。
「そっか……なら、私と同じなんですね」
「同じ……というと、先日のダンジョン実習のことですか?」
「はい、そうです……ってあれ? あの時リリアナさんはまだいらっしゃいませんでしたが、どうして知って――」
「噂に聞いただけですよ。それよりもその際は、最終的にルクシアさんがお二人を助けたとのことでしたが……」
「えっと、それはその……アレンくん」
ユイナは困ったように俺の方を見た。
リリアナに対しどう説明すべきか分からないのだろう。
(……これはいったん、共有しておいた方がいいだろうな)
俺は少し考えた末、リリアナにもワーライガー戦の経緯を話すことにした。
どうせ彼女に実力はバレているし、このメンバーで鍛錬をする以上、隠しておく方がリスクが高い。
そんな判断だったのだが、
「なるほど。やはりそういうことでしたか」
俺からの説明を聞き得た後、リリアナはそう言って笑みを浮かべた。
(……こいつ、もしかして)
その様子を見て、俺は気付く。
先ほどの素っ頓狂な態度は、こちらから情報を語ってくれるよう誘導していた……というよりは、判断を委ねていたのだ。
俺が引き続き隠し通したいと考えれば、それ以上訊いてくることはなかったはず。
リリアナらしい狡猾な立ち回りには、思わず感嘆の息を零したくなった。
まあ、いずれは説明すべきことだったし、それならそれで都合がいいか。
そんなことを考えていると、
「そうですか……ならば正真正銘、私もユイナさんも、アレンさんに命を救われた者同士ということになりますね」
「は、はい。そうですね……」
俺にとっては気恥しい話題で、リリアナとユイナが意気投合していた。
かと思った直後、
「えいっ!」
「うおっ」
叫びながら、いきなり俺の背中に飛び掛かってくるルクシア。
彼女はそのまま羨ましそうな声で告げる。
「そっか~。ユイナもリリアナも、アレンに救ってもらったんだ……むぅー、私だけ仲間外れだっ!」
「いや、それはお前の方が圧倒的に強いから……」
「それならリリアナだって同じだよっ!」
確かに、と納得しかけた時。
「不公平だ~、だからアレン、いつか私のことも救……」
「ルクシア?」
突然動きを止めるルクシア。
かと思った次の瞬間――
「――お腹空いた!」
「うるさっ」
ルクシアは俺の背中から、全力でそう叫んだ。
自由奔放にも程がある。
とはいえ、確かに普通なら晩御飯を食べる時間だし、そうなるのも仕方ないかもしれない。
「まだ食堂は空いてるだろうし、鍛錬前に腹ごしらえでもするか?」
「そうしよう! れっつごー!」
「降りないのか……」
ユイナとリリアナも誘おうかと思ったが、何やら二人は盛り上がっている様子で、声をかけるのも憚られた。
頑なにしがみついてくるルクシアを連れ、俺は食堂へ向かうのだった。
ちなみに、俺がいなくなった後の鍛錬場では――
「颯爽と私を助けてくださったアレンさんの姿は、それはもう勇ましく……」
「わ、私を守ってくれた時だって、すごくかっこよ……すごかったですから!」
――と、二人は不思議な意地の張り合いに到達していたらしい。
そして、
「殿下、ユイナ様。アレン様がルクシア様を連れて一時退出されましたが……」
「「……あ」」
そんな素っ頓狂な声が、鍛錬場に響いた。
その後、俺とルクシアの帰還後、無事に鍛錬は再開。
中間試験までの一か月間は、凄まじい勢いで過ぎ去っていくのだった。
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