062 VSグランドオウル&グリモア
まず戦闘の火ぶたを切ったのは、浮上したグランドオウルと、地で迎え撃つリリアナの両者だった。
「ホホォォー!」
「アイススピア!」
羽ばたきによる強力な風魔法と、リリアナの放った氷槍が激突する。
互いの魔法が相殺し合う中、幾つかの氷槍が風の障壁を突き抜け、グランドオウルの胴体に浅く突き刺さった。
「ァァァァァ!」
痛みに悶え苦しむように、グランドオウルは悲鳴を上げる。
「思っていたよりも浅いですね……もう少し、出力を上げさせていただきます」
冷静に呟くリリアナの様子を確認し、あちらは任せて問題ないと判断。
残された俺とローズの役目は、彼女の邪魔になる取り巻きを排除することだ。
そして目の前では、既にローズが戦いを始めていた。
「影走り、双閃」
「aaaaa!?」
残像を残すほどの素早い動きでグリモアに接近し、二振りの短剣で次々と討伐していく。
まさしく【斥候】というジョブ名に相応しい動きだった。
(あの様子なら、ローズ一人に任せても問題ないかもしれないが……)
彼女に全てを任せるつもりはなかった。
これは俺にとっても、貴重な経験値獲得の機会だからだ。
グランドオウルがリリアナにとって相性のいいボスなのと同様、グリモアも俺にとっては相性のいい魔物だった。
まず、グランドオウルと同時に戦うことを想定されているためか、レベルに対してステータスが低く設定されているのだ。
強いて言えば、魔法攻撃を得意としているためか、知力だけは平均よりも高いが――
「aaaaaA!」
「ruuuu!!」
――直後、言葉にならない叫び声と共に、二体のグリモアが火球と土針を放ってくる。
それを見た俺は、素早く唱えた。
「プロテクト」
直後、眼前に展開された二枚の防壁が、グリモアの魔法を完全に防ぎ切る。
――――――――――――――――――――
【プロテクト】LV2
属性:聖
分類:治癒系統の初級スキル
効果:MPを消費することで聖なる防壁を出現させることができる。
――――――――――――――――――――
ここ数日、ルクシアに協力してもらい鍛えていたおかげか、スキルレベルが上昇し複数枚を同時に展開することになっていた。
プロテクトはヒーラーのジョブスキルであり能力の減衰がないため、グリモアの魔法攻撃も真正面から止めることができる。
接近用の攻撃手段を持たないグリモアは、俺にとって非常に戦いやすい相手だ。
さらに、もう一つ。
「ファイアボール――ヒール―― 聖錬炎球!」
「ruuu⁉︎」
グリモアは本の魔物ということで、火属性が弱点となっている。
聖錬炎球だけで大ダメージを与えられる、文字通りの紙耐久であり――つまるところ、非常に経験値を稼ぎやすい魔物だった。
それも倒すたび、グランドオウルが補充してくれるのだ。
こんなに優秀な経験値獲得スポットはなかなか存在しないだろう。
「ホォォォーーー!」
その時、グランドオウルが突如として声色の違う雄叫びを上げる。
直後、グリモアたちが淡い光に包まれ、動きが素早くなった。
(……HPが80%を切ったか)
取り巻きへの強化魔法は、この段階で発動するはず。
リリアナも着実に戦いを優位に進めているようだ。
「とはいえ、まだまだ先は長い。気を引き締めて行こう」
そう呟き、俺は再出現したグリモアを迎え撃つのだった。
その後もしばらく戦闘は続き、俺はグリモア相手に経験値を稼いでいく。
そして戦闘開始から5分が経過しようとした、次の瞬間――
「ホホォォォォォ!!!」
突如として、ひと際高い雄叫びが響き渡る。
グリモアを纏う光が解除される中、その数倍の輝きをグランドオウルが纏った。
HPが30%を切り、全てのバフを自身に発動する最終形態に突入したのだ。
「ローズさん! あちらの援護に回ってください!」
「承知しました。ご武運を」
事前の打ち合わせ通り指示を出すと、ローズはリリアナを援護すべくこの場を離れた。
残されたのは俺だけになってしまったが、ここからはグリモアの再召喚もなければバフも切れるため、一人で十分に対応可能だ。
「さて、ここからは出し惜しみなしだ。ファイアボール――ヒール――瞬刃――放出!」
エンチャント・ナイフも駆使し、MPをふんだんに使って攻撃を浴びせていく。
そうして最後の一体を討伐した瞬間、頭の中にシステム音が響き渡った。
『経験値獲得 レベルが1アップしました』
『スキル熟練度獲得 【ファイアボール】のレベルが1アップしました』
『スキル効果が上昇します』
レベルアップと同時に、ファイアボールのスキルレベルまで上昇。
嬉しいが、感慨に浸るのは後だ。
「コォォォオオオオオオ!!!」
向こうでは、全身傷だらけになったグランドオウルが、風魔法を纏いながらリリアナに向かって急降下していた。
(遠距離戦では勝てないと判断したのか……)
このタイミングで速度に頼った突進を仕掛けてくるとは、まさに究極の賭け。
しかし今回に限って言えば、それは最悪の選択だった。
「エンチャント・スペル――アイススピア――瞬刃」
なにせリリアナは、【魔法使い】ではなく【魔法剣士】。
接近戦でも十分の実力を発揮する。
彼女は腰の剣を抜くと、エンチャント・スペルでアイススピアの効果を付与。
その刃は、まるで氷の結晶そのもののような輝きを放っていた。
「これで終わりです――フロストエッジ!」
「――――!」
青白い軌跡を描く一閃が放たれる。
真っ直ぐな軌道は、グランドオウルの突進と正面からぶつかり合った。
しかし勝負は一瞬。
次の瞬間、氷の刃は巨大なフクロウの体を真っ二つに両断してみせた。
「ォ、ォォォォォ」
断末魔の声と共に、その場に崩れ落ちるグランドオウル。
それを見届けたリリアナは鞘に剣を戻す。
「ふぅ、終わりましたか」
「お見事でした、殿下」
達成感に包まれるリリアナとローズ。
そんな二人の様子を横目に、俺は次の展開への期待を募らせていた。
実は俺が【英知の書架迷宮】の攻略を選んだのには、リリアナや俺が経験値を稼ぎやすいという他に、もう一つ大きな理由があった。
ここには、一部のダンジョンでしか手に入らない特殊アイテム――スキルオーブがドロップするのだ。
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