060 【英知の書架迷宮】
リリアナとローズを連れてきたところまではよかったが、見たところ二人はあまり乗り気ではないようだった。
特にリリアナからは、先ほどまでの柔和な笑顔が消え失せている。
「その、ダンジョン攻略に協力してほしいと思って連れてきたんだが……迷惑だったか?」
不安に思いながら問いかけると、リリアナは首を横に振った。
「いいえ、決してそんなことはありませんよ。ただ期待していた通りと答えれば、嘘になってしまいますが……」
「……ふむ」
詳しくは分からないが、どうやらリリアナは別の場所に連れて来られると思っていたらしい。
迷惑ではないと答えてくれたものの、このままだと帰られてしまう可能性がある。
それだけは何としてでも避けたいところだ。
となると、ここはいっそのこと――
「先ほども申しましたが、せっかくのアレンさんからのお誘いですから。どんな場所であろうと喜んで――」
「俺への貸しにしていいから、今日は付き合ってくれないか? 後で何でも頼みを聞くから」
「――! では、そういうことでお願いします」
突如としてグイッと身を乗り出し、満面の笑みを浮かべたリリアナがそう告げる。
……あれ?
説得することに夢中になっていたせいでしっかりと聞き取れなかったけど、追加の条件を出さなくても受けてくれる流れだったか?
もしかしたら、余計なことをしてしまったかもしれない。
……まあ、どうあれ応じてくれるなら、今はそれでいいか。
「とりあえず、まずは中に入ろうか」
「ええ」
「かしこまりました」
そんなやりとりの後、俺たちはEランクダンジョン【英知の書架迷宮】のゲートをくぐる。
ちなみにセンサーについて、俺とリリアナは魔導学生証を、ローズについては従者用に渡されている身分証をかざすことで問題なく入場することができた。
ダンジョンの中は今まで見てきたような洞窟型や庭園型と違い、館の内部のような構造になっている。
高貴な人物が暮らしているのではないかと思わせるほど煌びやかな内装で、天井には美しい照明が灯され、床や壁には芸術的な装飾が施されていた。
歩き始めること数分。
俺はふと、臨時パーティーを組む上で重要なことを尋ねることにした。
「以前にも少し聞いたけど……二人のレベルやジョブについて、改めて聞かせてもらっていいか?」
「ええ、もちろんです。私は【魔法剣士】でレベルは45。剣も魔法も扱えますが、基本的には水属性や氷属性の魔法を得意としています」
「私は【斥候】でレベルは53。ジョブスキルの他にも、殿下をお守りできるよう防御用のスキルを幾つか習得しております」
リリアナについては『ダンアカ』で知っている情報通り。
ローズはゲームに登場しなかったため、ジョブを知るのはこれが初めてだった。
以前の【駆け出しの迷宮】で出会った際、バフォール相手に二振りの短剣で立ち回っていた姿を思い出せば【斥候】というのも納得。
レベルを含め、二人とも心強い戦力だ。
すると、リリアナが柔和な笑みをこちらに向けてくる。
「ちなみに、アレンさんについてもお伺いしても?」
「ああ、悪い。今のレベルは31で、ジョブは知っての通り【ヒーラー】だ」
「……先の交流戦を見てもしかしたらと思っていましたが、この短期間でさらにそこまで上げられるとは。さすがアレンさんですね」
「大げさだな」
リリアナから少しだけ気恥ずしいような称賛を受けながらも、俺たちはさらに内部を進んでいく。
その際、複数の魔物と遭遇したが、
「キィィィィ――」
「アイスショット」
「――キャゥッ!?」
「チュゥゥゥ――」
「双閃」
「――ッッッ!?!?!?」
ダンジョン自体の豪奢な見た目とは裏腹に、Eランクだけあって出てくる魔物はどれも強くない。
天井から襲いかかってくるコウモリの魔物や、床から不意打ちを仕掛けてくるネズミの魔物を簡単に討伐しながら、俺たちは順調に奥へと歩を進めた。
途中、リリアナが疑問を投げかける。
「しかし、ここに私たちを連れてきたかったのはどうしてでしょう? この程度の難易度であれば、アレンさん一人でも攻略は容易かと思いますが……」
「普通に攻略するならな……と、着いた」
「?」
ダンジョンに入ってから散策すること数十分。
立ち止まった先にあるのは、重厚な扉だった。
扉を開けて中に入ると、そこには広大な書庫が広がっていた。天井まで届きそうな本棚が幾重にも並び、その数は優に三桁を超えているだろう。
書庫内に一歩踏み入れながら、俺は説明を再開する。
「この書庫内にあるギミックをクリアすることで、より難易度の高い隠しエリアに行けるんだ。そこで二人の力を借りたくて」
「そういうことでしたか。しかしそのようなダンジョンがあると聞いたことはありませんが、アレンさんはどこでこちらの情報を?」
「……魔導図書館で調べ物をしている時に、ヒントらしきものを見つけてな」
以前、ルクシアに告げた時と同じ回答をする。
すると、リリアナは神妙な表情で頷き、
「なるほど。ローズに命じ、私たちが留学してくるまでのアレンさんの行動を調……こほん、噂を聞いた際に魔導図書館へ入り浸っていることは知っていましたが、そういった情報を集めていらしたのですね」
「何か今、変なこと言わなかったか?」
「あら、空耳ではありませんか。ですよね、ローズ?」
「はい。まったくもって殿下の仰る通りです」
二人が言うならそうなのだろう。
……ひとまずこの場はそういうことにしておいて、中の散策を進める。
書庫内部は豪華な調度品の数々で彩られていた。
所々に設置された魔力結晶の優しい光が、静謐な空間を照らしている。
そんな中を、本棚の間を縫うように進んでいくと、
「見つけた」
一際古めかしい本棚の前に、小さなフクロウの置物を見つけた。
「アレンさん、それがどうかされたのですか?」
不思議そうに尋ねてくるリリアナ。
一見しただけだと、本当にただの置物でしかないためその反応も当然だろう。
ただ、
「これがここのギミック本体なんだ。魔力を注いでやると――」
魔力を注ぐと、フクロウが淡い青白い輝きを放つ。
その光は徐々に強さを増していき、やがて図書館全体を包み込むほどの明るさとなった。
その直後――
『パンパカパ~ン! それではこれより超難問クイズを始めます!』
――いきなり、そんな愉快な音声が鳴り響くのだった。
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