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043 ほっこりお弁当

 ユイナが入れてくれたお茶を一口飲んでいると、ふと彼女が切り出す。


「それにしても驚いたな。まさかアレンくんが、リリアナ様に直接お呼びされるなんて。あの後、教室中ですっごい騒ぎになってたんだよ?」


「……そうだったのか」


 まあ確かに、一介の平民に皇女様が話しかけたとなれば、他の奴らからしたら衝撃だろう。

 最強ルクシア異端グレイならともかく、俺なんてクラスじゃただ片隅にいるハズレジョブのヒーラーだからな。


 とはいえ、ユイナになんて説明するべきか少し悩む。

 当然ながら先日の一件は外部に広めていい内容ではなく、全てを説明する訳にはいかないからだ。

 なので、ここは……


「実はアカデミーに入学する前、彼女と話す機会があって。その時のことで少し用があったらしい」


「……そうなんだ。すごいんだね、アレンくんって」


 大袈裟ながらも気さくな反応を見せてくれるユイナを見て、ふとこの一週間のことを思い出す。

 ワーライガーからユイナを助けて以来、彼女と話している時によそよそしさというか、ぎこちなさのようなものを感じることがあった。

 もしかして何か失態を演じてしまったのかとも不安に思っていたが……

 今の反応や食事に誘ってくれたことといい、俺の杞憂だったのかもしれない。


 そんなこと考えていた矢先、ユイナは大切そうに包みを解き、弁当箱を開ける。

 中には卵焼きに唐揚げ、おひたしなど、素朴ながらも丁寧に作られた色とりどりの料理が並んでいた。


「こんなに色々と作って来てくれたんだな。改めて遅れて悪かった。今日はルクシアもいないし、友達と先に食べててくれてもよかったんだが……」


「う、ううん、待ってるのも嫌じゃなかったから、全然大丈夫だよ! ……それにシフォンもミリャも、頑張れって応援してくれたし」


 最後の方は小声で呟くように言われ、よく聞き取れなかった。


「? 何か言ったか?」


「な、何でもない! それじゃ、食べよ!」


 慌てて話題を変えるユイナ。

 頬が少し赤くなっているように見えた。


 それはさておき、まずは卵焼きを口に運ぶ。

 すると優しい甘みが口いっぱいに広がり、思わず顔がほころんだ。


「うん、旨い」


「ほんと? ならよかった……」


 安堵したように胸を撫で下ろすユイナ。

 実際、彼女が作ってくれたお弁当はとても美味しかった。

 普段の食事はアカデミーや寮で食べており、貴族も通うだけあって食材・調理・味もしっかりしている。

 しかしこのお弁当にはそれらとは違う、どこか懐かしさを感じる安心する美味しさがあった。


 パクパクと箸が進み、気が付けばあっという間にお弁当箱が空になっていた。


「ごちそうさま。本当に旨かったよ、わざわざありがとう、ユイナ」


「お粗末様でした。えへへ、そう言ってくれて嬉しいな……」


 ユイナは少し照れくさそうに微笑むと、おずおずと続ける。


「また作ってきたら、一緒に食べてくれるかな?」


「ああ、もちろん」


 その言葉を聞いて、ユイナの表情が一気に明るくなる。

 ここ一週間のぎこちない態度が気のせいだったかと思う程、今の笑顔には不自然さのかけらもなかった。


 そんなやりとりをしつつ、俺はユイナとリラックスしたお昼休みを過ごす。

 午前中はリリアナの登場など色々と忙しなかったが、その疲労をリフレッシュすることができた。


(あとは午後を乗り切るとするか!)


 さすがに今日はもう、何事も起きることはないだろう。

 そう考えつつ、俺は両腕を上げ、うーんと体を伸ばすのだった。



 ◇◆◇



 ガラガラ


 お昼休み後、俺とユイナが教室に戻ると、一斉にこちらへ注目が集まる。

 ユイナの言っていた通り、俺がリリアナから呼び出された経緯を気になっているのだろう。

 しかし教室内にはリリアナがいるということもあり、このタイミングで話しかけてくる人はいなかった。


(……変な空気だな)


 そんな感想を抱きながら席につくと、すぐに担任のリオンが入ってくる。


「では、午後の授業を始めるぞ」


 それからしばらく経った時のことだった。

 授業中だというのに、突然扉が開く。


「ごめんなさーい! 遅れましたー!」


 入ってきたのはピンク色のセミロングを揺らし、宝石のように輝く青色の瞳を持つ少女――ルクシア・フォトン。

 リオンは呆れたように視線を細めた後、ルクシアに向けて告げる。


「何度目の遅刻だと思っている、ルクシア・フォトン。今回の理由は何だ」


「いっぱい寝てました!」


「……そうか、ならいい。早く席に着け」


(((いいんだ……)))



 想定外の回答に、教室中の心が一つになるのを感じる。

 ルクシアは右手で後頭部をかき、申し訳なさそうに「えへへ」と笑いながら自分の席へと向かい――ピタリとその動きを止めた。


「…………」


「……?」


 彼女の視線の先にいたのはリリアナだった。

 ルクシアはじっとリリアナを見つめ、それを受けてリリアナは何だろうかと言わんばかりにきょとんと小首を傾げる。


 すると、その直後――


「知らない人がいる!!!」


 ――ルクシアは驚きの表情を浮かべ、盛大にそう叫ぶのだった。

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『ゲーム中盤で死ぬ悪役貴族に転生したので、外れスキル【テイム】を駆使して最強を目指してみた』



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嵐の予感がします!
最初の題名の死にゲー、不遇職、ヒーラーという三重苦に引かれて読み始めたのでタイトルが戻って良かったです ハーレム要素はサンドウィッチセットのパセリくらいで良いと思う女性読者です バトル描写や主人公の機…
知らないのは遅刻したからやで
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