027 アレンとルクシア
俺は出来る限り平静さを保ちつつ、彼女に問いかける。
「……見てたのか?」
「うん! ホントは私が倒しちゃおうと思ったんだけど、その時にアレンが見えたから任せた方がいいかなって。それよりお礼、貰っちゃったほうがよかったんじゃないの? アレンがいなくなった後、あの子寂しそうにしてたよ? 私だったらダンジョン実習なんて放ってついていったのに!」
「…………」
ようやく、ルクシアがここにいる理由が判明する。
本来、ゲームでは俺ではなく彼女がスリを倒し、あの少女からそのお礼を受け取っていたのだ。
ルクシアが語っていた内容も、嘘ではなく本当のことだったということだろう。
あそこで動いたのは、軽率な判断ミスだったかもしれない。
……とはいえ、見過ごすことができなかったのは事実だし、それを今さら反省しても仕方ない。
それよりも、優先して考えるべきことが他にある。
(これで何か、シナリオに影響が出るんじゃないか……?)
ルクシアがここにいる時点で、既に分岐自体はしているが、それについては俺が彼女と一緒にいることで対応可能。
問題は、ルクシアがあの少女(ルクシアの話によると貴族のご令嬢らしい)を救わなかったことで、今後のストーリーに何か影響しないかという心配で――
(……いや、案外大丈夫か)
――考えた末、そう結論を出す。
なぜそう思ったか。
それは『ダンアカ』本編に、今の話にまつわるストーリーが出てこないからだ。
仮にルクシアと因縁のある少女が出てきていたのなら記憶に残っているはずだし、そんなシーンがなかったからこそ、俺は今の今までルクシアの『お礼されちゃって~』発言が嘘だと考えていた。
恐らくは、ゲームではルクシアをダンジョン実習から排除するための、裏設定に過ぎない出来事だったのだろう。
なら、そこまで気にする必要はないはず。
ひとまずのところは致命的な影響を及ばないだろうと分かり、俺はホッと胸を撫で下ろした。
しかしそこまで来ると、他にも訊いておきたいことが生じる。
「というか、今の言い方だとまるで、俺の実力が前々から分かっていたみたいだな」
「え? そりゃ、その人の魔力を見ればある程度は分かるよ?」
「……もしかして、入学初日に話しかけてきたのって」
「もちろんそうだよ! Eクラスなのに、随分と魔力の圧が強い人がいたから気になって」
(……そういうことだったのか)
ようやく得心がいった。
あの段階で俺の21レベルは、ルクシアやユーリといった例外を除き、確かに学年全体でもトップクラス。
そんな存在がEクラスに紛れ込んでいたら目立ちもするだろう。
まさかとっくに、ルクシアに目を付けられていたとは……
考え込む俺を見て、ルクシアは告げる。
「ねえねえ、その様子だと、アレンはあまり自分の実力を知られたくないの?」
「……まあな」
この世界の中心はあくまで主人公。
ゲームのシナリオは、落ちこぼれだった彼が成長する中で、多くの人の注目を浴びて進行していく。
それなのに、グレイに次ぐ低得点で合格した不遇職が活躍し、下手に目立ってしまえばどうなるか。
良からぬところで歪みが生じる可能性が高い。
そうなると、いくら俺に『ダンアカ』の知識があっても、フラグ管理がしきれなくなる。
「そっか……でもでも、私にはもう隠さなくていいんじゃない? アレンがどういう理由でそう考えているかは分からないけど、どうせもう知っちゃったし!」
「……ルクシア」
あっけらかんと告げるルクシア。
無責任だと思わなくもないが……事実としてそうかもしれないと俺は考え直した。
ルクシアの実力は現時点でほとんど完成されており、グレイたちとも別軸で行動することがほとんど。
そのためか、少なくとも序盤において、ルクシアの意思決定がシナリオに与える影響は小さい。
(そうだ。考えようによっては、グレイやミク、トールたちにバレるよりよっぽどマシじゃないか)
彼らはRPGの主人公陣営らしく、心身共に現在進行形で成長中。
ちょっとしたきっかけで大きな変化が生まれるかもしれないが、その点ルクシアなら問題ない。
こう見えて口は堅いタイプだし、信頼できる相手だ。
「確かに、ルクシアの言う通りだな」
「っ! だよね!?」
ルクシアはパァッと太陽のような笑顔を浮かべる。
そんな彼女を見て、俺は「そうだ」と閃いた。
「そうだ、ルクシア」
「何?」
「隠していたことがバレたついでに付き合ってもらいたいところがあるんだが、いいか? リオン先生に知られたらまずいことになるんだけど……」
「っ! そういうのはね……大好物だよ!」
太陽の笑みから打って変わって、あくどい笑みを浮かべるルクシア。
そんな彼女を見て、俺も小さく笑みを零す。
この際だ。ルクシア相手に、変に遠慮することもないだろう。
本来の目的通り、隠しアイテムの入手に向かおう。
俺はそう決断した。
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