第一部「夢現の狭間」その5
目次
第11章「深淵の檻」
第12章「銀の弾丸」
第13章「魔法の扉」
あとがき
第11章「深淵の檻」
「マジかよ…」
「初めて見たっすね。」
「………」
「流輝さん!?」
危ないところだった…
念の為に彼の後ろに立っていたが…本当に気絶してしまうとは…
「おい!流石にメンタル弱すぎんだろ!?」
「いえ…流輝さんは温厚な方で私と年齢も近く、比較的に平和な日本で生活していたはずなので…こういった経験も少なく耐性は低い方かと…」
「…これ本当にどうなってんすかね。」
「何もわかんねぇな、もしかしたらただの悪い夢か?」
「……はっ!?」
「あ!流輝さん、大丈夫ですか?」
「あ…い…あ…あ…その…」
はっきりと声が出ていない上に頬が紅潮している…
「何か不調はありませんか?はっきりと喋れていない所や頬が赤くなっているところを見ると…大丈夫そうには見えませんが…少し失礼しますね…」
「あ…いや…」
「熱は…無さそうですね?」
「はい!大丈夫です!!」
「あ…気絶したばっかりなのでいきなり動くのは良くありませんよ?」
なぜそんなに私から離れてしまうのだろうか?
まるでバネのような飛び上がり方だったが…
「あの…すいません。私が何か良くないことを…?」
「頭良くない僕でも分かるんすけど、多分恥ずかしいんじゃないっすか?」
「そりゃあそうだろうな…気絶したところを抱き締められるってだけでも情けなくなるには十分だしな。」
「あはは!そんな事でしたか!倒れそうな人を助けるのは当たり前ですよ!」
「いや…それもあるんですけど…」
「では、他に理由が?」
「そ…そりゃ、初対面の美少女に…人生で初めて抱き留められて…膝枕までされるなんてドキドキするに決まってますよ!!」
…え?
本当に体調には何ともないのか…
単純に感情的な問題が…?
「青春っすね。」
「まぁ、お前みたいな陰キャにはこれから先二度と無い体験だろうな。」
「と…とりあえず、流輝さんは何ともないんですね?なら良かったです!」
…彼にあんな思いをさせてしまっていたとは。
しっかりと受け止めるために後ろからハグのような形になったところや、足をクッション代わりにしていたのがまずかったか…
いや…仕方なかったとは思うが彼への配慮が足りていなかったか…
ここは話を切り替えよう!
「み…皆さん!窓の外を見て下さい…今は廊下の光で少ししか様子が分かりませんが…水にインクを落としたような動きや、煙と霧の混ざった様な動きに、大量の虫や触手が這いずり回る様な動きだったりと不規則な動き?だったり変形を繰り返して…あっ!今度は垂れ幕のように揺れ動いてますね…」
「あんた…目が良いんだな、俺にはそんなに細かくは分からねぇぜ。」
「はい、私にも理由は分かりませんが、私は一般的なの方達と比べて夜目が利く方なんです!」
「そういえば別の窓はどうなってるんすか?」
「この窓から見える景色と同じでした…階段の方に窓があるので見てみますか?」
「そうしようぜ、ずっとここにいても何にもならねぇしな。」
「階段はすぐそこですよ!ここから廊下の反対側に不自然な空間があるのですが…そこの手前側に階段と窓があります。」
「不自然な空間って?」
私は質問に答えながら廊下を彼等と一緒に進んだ。
「それが…普通は部屋が無いところに廊下は作りませんよね?ですが、その空間はドアも何も無いのに廊下があるんです。まるで部屋でもあったかのような感じで…」
「あ、階段に着いたっすね。」
…やはりと言うべきか、窓の向こうには先程の景色と同様に奇妙な闇が広がっていた。
「こ…こっちの窓にもってことは…ここの外は夜みたいな…感じなんですかね?」
「多分そうなんだろうな…にしても不気味としか言えないな。」
「まぁ、見ても何も起きないんであんまり気にしないでも大丈夫だと思うっすよ。」
「確かに…今んとこ実害はねぇしな。」
なるほど…
やはり窓の外から強く感じるこの感覚は私にしか無いのだろう。
あの部屋を出た瞬間から感じているこの感覚は…
一言で表せないが…まるでこの世に存在してはいけない異質な何かが私に視線を向けたかの様な…
とにかく、邪悪なモノが存在しているという事を証拠も無しに確信してしまう程のおぞましい何かを感じた…
凄まじい邪念に…人を人とさえ思っていない様な無感情な殺気と視線…
まるで、目の前に止まった煩わしい虫を何も考えずに潰そうとしているかの様な…そんな殺気と視線を向けられている様な感覚だ。
あの部屋を出た瞬間ほどでは無いが今もそのような感覚がある。
今まで私は様々な依頼を受けて世界中で任務をこなしてきたが、これほどまでに強い恐怖と悪寒を感じた事は無かった。
大量の死体が埋められた場所や大量殺人が起きた場所など、いわゆる曰く付きの場所でまれに負の感情や怨念の込もった視線のようなものを感じた事があるが…
今、私が感じている異質な感覚はそれら全てを遥かに凌駕している…
「…おい!…おい!!」
「あっ…すいません!つい考え事に集中してしまって…」
「もう分かるわけねぇもん考えてたってしょうがねぇだろ?とりあえずその階段降りようぜ。」
「はい、そうしましょう!」
第12章「銀の弾丸」
「今思ったんすけどさっきの窓割ったら外出られそうじゃないすか?」
「え!?い…いや…やめときましょうよ!絶対ヤバいですよ!!」
「そうですね…確かに窓を割ることは可能かと思われます。ですが、地形情報も無いまま高所から飛び降りるのはとても危険なのでやめておいた方が良いと思います。」
なんとかなりそうだけどそんなもんなんすね。
「それに、この闇も超常現象の内の1つかと思われます。なので、見ているだけなら命に関わる害が無くても…その闇と接触した時に何かが起こるかも知れないのでこの案はあまりお勧めできません…」
「確かにそうっすね。」
そこまで考えてるんすね。
「じゃあ、ここの外に出たところでどうやってこの暗闇をやり過ごすんだ?」
「少々申し上げにくいのですが…それは一か八かの賭けになるかと思われます。恐らく私達にできる最善策は、役に立ちそうな物を集めながら出口を探すことです。最悪なパターンは…この闇が何らかの致死性を有している場合です。」
「え〜っと…つまりは毒ガスみたいなことですか?」
「はい、分かりやすく言うとそうなりますね…ただ暗いだけなら、灯りは様々な方法で用意できるので私が皆さんをナビゲートするだけで済むのですが…」
「情報が無い…って事だよな?」
「…そうなりますね。」
難しいことばっかり言っててもう何も分かんないな。
「とりあえず考えても仕方ないんで行動した方がいいと思うんすけど。」
「そ…そうなんですけど…俺はそんなに割りきれないですよ…」
「でもやってみないと分かんないっすよ。ここ出るんだったら絶対にこの変なのと向き合わないといけないんすから生きるか死ぬかのどっちかっすよ。」
「そうだな。もうやるしかねぇんだからさっさと覚悟決めとけよ。」
「あ……はい…」
「大丈夫ですよ!頼りないかも知れませんが…私が皆さんを最後まで守りますから!」
ジョゼさんは本当に良い人だな、何だか頭が良くて色んなことが出来て人を気遣う所にカリスマ性を感じる。
今までも誰かを助けてきたんだろうな〜
星次君は落ち着いててしっかりしてるし、流輝君は臆病でも礼儀を忘れず誰かに当たったりしない。
この子達を見てるとあの子達のことを思い出すな〜
馬鹿だけど僕が一番年上だからしっかりしないとな。
…あの子達って誰だったっけ?
まぁ何でも良いっすね。
「おい、あんた何で銃の弾を…」
「流輝さん、手をこちらへ。」
「え…?ど…どうしたんですか?…わっ!?何で手を乗せて…」
「知っていますか?銀の弾丸は邪悪なものを退けるという言い伝えがあるんです。その理由は諸説ありますが、どんな理由であれ、それが人々の心の支えとなり、不安という名の怪物を葬り去る希望の弾丸を創り上げたはずです。1つだけしか差し上げられませんが…これを持っていて下さい!これは必ずお守りになってくれるはずです!」
「あ…ありがとうございます!でも…俺がこんな貴重なものを…」
「貰っておいた方が良いっすよ。それはジョゼさんが流輝君の為を思って手渡してくれてるんすから。」
「さっさと貰っとけ。これ以上ビクビクされても面倒なんだよ。」
「は…はい、これから先もずっと大切にします!」
「少しここに留まりすぎましたね…先を急ぎましょうか。それでは春喜さんは私の後ろを着いてきてください、先に私が少しづつ階段を降りるので合図したら降りてきて下さい。」
「OKっす。」
第13章「魔法の扉」
左側の壁に背をつけてリボルバーを構えながら、音を立てないように慎重に折り返し階段を降りていく。
あれだけ話をしていたらもちろん下階まで声が聞こえているだろうが、少しだけでも私達が階段を降りるタイミングを測りづらくしなければ…
…踊り場に着き、壁に背をつけたままゆっくりと階段を覗き込むと目の前には壁があり、左右に廊下が伸びていた。
彼らに手招きして、踊り場よりも少し手前の方で止まるように手を広げて合図する。
先程の様にまた左側の壁に背をつけて階段を降りていく。
階段の半分まで降りたところで、上を見上げて彼等に手招きをし、踊り場で止まるように手を広げて合図する。
右側を向きながら階段を降りて行く。
…最後の一段で足を止める。
レッグポーチから一番端に透明な糸が通された手のひらサイズの鏡を取り出す。
この鏡は壁際から通路を確認する為に組織内で作ったオリジナルガジェットだ。
正方形の展開図の様に小さな鏡が6枚繋がっており、これを折り曲げて小さなボックスにしたあと、通されている糸を指に括り付けて通路に投げるという簡単な仕組みだ。
鏡を廊下の右奥に投げて鏡面を覗き込み、廊下の左側の様子を見る。
…普通のドアが1つと、そのドアを正面に見た時に向かい合うように設置されているスライドドアが2つ。
スライドドアはどちらとも開いている。
廊下にトラップと遮蔽物は無し。
左手に結んだ糸を手繰り寄せ、鏡をポーチへと戻す。
後は右側の廊下を…
「春喜さん。」
「なんすか?」
「私を信用して頂けるなら…1回のクリアリング、つまり安全確認を許可して頂けませんか?」
「良いっすよ。」
「ありがとうございます。それでは20秒以内には戻りますね…」
1つ深呼吸をしてあらゆるパターンを脳内でイメージし、どんな状況にも対応できるようにする。
廊下の奥行、ドアがありそうな位置、敵性存在…
よし、行こう。
体を軽く前傾姿勢にして全力で加速し、最後の一段をとばして右側の廊下にリボルバーを構えながら壁際まで低く跳ぶ。
飛び出してから壁際に着地するまでの数秒間で私は右を向いて、廊下の奥行、ドア、部屋、遮蔽物が無いか確認する。
廊下の奥行きは短く、一番奥に設置された閉まったドア以外に何も無いのが確認できると、すぐに右足を伸ばして予定より早くつま先から廊下に着地すると同時にターンして後ろを振り向き、射撃姿勢をとる。
ここまでで1秒が経過した。
やはりスライドドアが開いてたのは、階段から誰かが降りた瞬間に部屋から飛び出して攻撃するためだったのだろうか?
…射撃姿勢をとった時から2秒経過したが、左右の部屋からは何も出てくることは無かった。
先にあの2つの部屋をクリアリングするべきか…
ここからは音を出してでも素早く動こう。
先ずは左側の部屋を見てすぐに振り返って右側の部屋を見よう。
先程のように身体を傾けて全力で走り、左右にリボルバーを構えてクリアリングする。
右側の部屋には洗面所と浴室があり、浴室は内側から鍵が掛かっている。
左側の部屋にはキッチンとリビングがあり、身を隠せるようなものは特に無さそうだ。
…どちらの部屋にも誰も居ない。
一体どういうことだ?
考えられるのは残りの2つの廊下の奥のドアと、スライドドアの間にある正面のドアが別の場所に通じているか、敵が潜んでいるかのどちらかになる。
先ず正面のドアは…開かないな。
それにしてもこのドアは奇妙だ。
まるでアンティークの様なドアで、台形の上に丸が乗っているかのような形の鍵穴がある。
そういえば日本にある古代遺跡の形にも似ているな。
確かこの鍵穴は…ヴォード錠という名前だったような…?
このタイプなら向こう側が覗けるはずだ。
私は鍵穴を覗いて向こう側を確認してみた。
…これは…窓の外の闇か。
つまりここが玄関になっているのか!
闇が鍵穴からこの中には入って来ていないということは…気体では無く…一応は本物の闇なのだろうか?
…今はそんな事を考えるている場合ではない。
確かヴォード錠の内部構造は作りが簡単だったはずだ、ちょうどレッグポーチの中にピッキングツールがある…少し試してみよう。
……!?
何で…鍵穴に…こんなに細いピックが1mmも入らないんだ?
…透明な膜…バリアの様なものに阻まれているのか。
なるほど…これも超常現象という訳か。
10秒も皆を待たせてしまった…
ここは後にして彼等をリビングの方へ集めよう。
最後のドアは彼等と一緒に移動するついでに見るとして…玄関のドアの鍵穴については後々考えるとしよう。
あとがき
ここまで読んで頂きありがとうございます!
これからは1階の探索になるので、次回もぜひお楽しみに!
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