第一部「夢現の狭間」その3
目次
第6章「情報整理」
MAP:白い部屋について
第7章「冗談でしょう?」
第8章「怪物殺し」
第6章「情報整理」
「では、私から情報共有を始めますね。
メモを取った方が良いと思うのですが…少しあの棚に置いてある箱の中を見てみますね。」
そういや、この部屋の事全く調べてねぇな…
まぁ、後でちゃんと調べるとするか。
「あっ、紙とペンがありました!他にも何か有るみたいですが、後で調べましょうか。」
情報共有っても、まともな情報はこのジョゼフィーヌとかいう奴しか持ってねぇだろうし、聞いといた方が良いな。
「これから私が分かったことと推測を交えて話しますね。
とは言っても情報が少ない上に、普通じゃ有り得ないことばかり起きているのであまり役に立たないかも知れませんが…まず1つめに分かった事は、ここでは何故か通信機器が使えないので、外部からの支援を受ける事はあまり期待しない方がいいと思います。
私の衛星電波時計と部隊に支給されている小型GPSが電波を受信できていないので、電話も使い物にならないはずです。」
「じゃあ、今、俺達が居る部屋は地下室ですか?」
「その可能性は低いと思います。
地下室なら通気口があるはずですが、ここには通気口が有りませんし、通気口がないのにも関わらずカビが生えていないからです。
これから私が話すのは、2つめに分かった事なのですが。
私は皆さんが寝ていた際に、この部屋の壁や床をノックして音の反響の仕方を調べていました。
その結果、この部屋は少なくとも1階以上の高さに位置している事が予測出来ました。」
「つまり、壁の向こうと床の下に空洞が有るって事っすか?」
「はい!そういう事になりますね。」
「他に何か分かったことは有るのか?」
「すみません…特に脱出に役立ちそうな事は分かりません。」
「いや…逆にこの状況でここまで推測出来るだけでも十分だと思いますよ?俺には絶対ここまで推理するなんて無理です。」
「そうっすよね。」
「あぁ、役に立つ情報だと思うぜ。」
「いえ、正確な情報ではありませんがお役に立てたなら幸いです!」
「じゃあ、他に何か情報を持ってるやつは?」
「何も…分かんないです。」
「俺も分かんないっす。」
「……だよなぁ。じゃあ、とりあえずこの部屋調べてみるか?」
「そうですね、とりあえず武器になる物や役に立ちそうなものを探してからこの部屋を出た方が少しは安心できますしね。」
「あの…じゃあ手分けして色々探してみませんか?それで何か見つかったら報告するとか…。」
「はい、そうしましょう!」
「じゃあ、そのペンとメモはあんたが持っててくれ。」
「はい、了解です!」
「それじゃあなんか探してみるっすか。」
今いる部屋について
・窓は無く、換気扇もない。
・地下では無い。
・部屋は全体的に白色で家具も基本的に白色。
第7章「冗談でしょう?」
この部屋の家具は、中くらいの大きさの棚、シングルベッド、四角の低いテーブル、床に敷かれたカーペットしかない。
家具が少ない上に、この部屋の全てが白色のみで統一されているせいか、余計に飾り気がない様に見える。
「なぁ、誰か一人は扉の近くで待機しとかねぇか?」
「え…何でですか?俺は全員で手分けして何か探した方が早いと思うんですけど。」
「そりゃあ、俺たち以外の誰かがこの部屋の外に居ないとは限らねぇだろ?用心するに越したことはないじゃねぇか?
「いや、待って下さい。その必要は無いかと思います。」
「何でだ?」
「確かに誘拐犯が居る可能性はあるかも知れませんが状況が状況です。今の内に急いで逃げる為に準備をした方が良いかと思います。」
「あぁ…確かに今がチャンスかもしれねぇな。この部屋は物が少ねぇから4人なら直ぐに探し物が終わりそうだしな。」
「じゃあ私は棚と箱を調べてみますね!」
「俺はベッドを調べてみる。」
「あ…俺は、テーブルとかカーペットの下とか調べてみます。」
「じゃあ、僕は流輝君の手伝いするっす。」
とりあえず、今は役立ちそうな物を探すしかない。
この棚には上段と下段の2つのスペースがあり、どちらにも箱が置いてある。
上段の箱は取り出してあるが、先に下段から調べてみるか。
下段の箱を開けてみると、役に立ちそうな物が入っていた。
箱の中には、カッターナイフ、ビニールテープがあり、箱の底には医療箱が入っていた。
カッターと医療箱は上段の箱を調べた後、全員に報告してから持っていくとしよう。
よし、次は上段の箱の中身だが。
文房具と小説だけか…
ん?この箱…横から見たときよりも底が浅いような気が…。
「えっと…すいません。コレ見てくれませんか?」
「カーペットの下に何か変な模様あったっすよ。」
2人がテーブルをどかして、カーペットを捲っていた。
「……何だこれ?」
コレは…赤色の…魔法…陣?
いや…ファンタジー作品の中でしか見た事も聞いたこともないのだが…1番近いものと言えばまさに魔法陣だろう。
五芒星を中心に綺麗な二重丸が描かれており、その内側と外側の円の間には謎の記号のような物が描かれている。
それにこの魔法陣は…血で描かれているのか?
「何でこんな…えっと…魔法陣?みたいな奴がこんな所に描かれてるんでしょうか?」
「流輝さんもそう思いましたか…」
「なぁ、こっちも見てくれ。ベッドの下に矢印が描かれてんだよ。」
「…本当ですね。」
ベッドの下には先程の魔法陣と同じ色の矢印が描かれていた。
そして、その矢印は私が調べていた棚の方を向いていた。
「おい、あんたが調べてた所は何かあったか?」
「あっ…あると思います!先程、開けていた箱の底の深さが合っていないのに気づいたのですが、もしかしたら何か隠されているかもしれません!」
「じゃあ、底の方を開けてみようぜ。」
「とりあえずカーペットとテーブル戻しとくっすよ。」
「はい、お願いします!」
彼は1人で軽々とテーブルを持つと元の位置にテーブルを置いた。
「ありがとうございます、本当に力持ちなんですね!」
「まぁ、体の強さだけが僕の誇りなんで。」
「じゃあ底の方開けてみようぜ。」
「はい、それでは開けてみますね!念の為に私が良いと言うまで上から覗き込まないで下さいね。」
「あ…はい、分かりました!」
上段に置いてあった箱をテーブルの中心に置いて箱の底に触れてみる。
…やはり底板の下に何かが隠されている。
恐る恐るダミーの底板を外してみる。
「…これはッ!!」
そこにあったのは何かが書かれた紙切れと、銀でできているであろう大口径のリボルバーだった。
第8章「怪物殺し」
「どうした?」
「何が入ってたんですか?」
「中を見てみて下さい…」
「…拳銃っすか?」
「はい…」
「何でこんなもんがあるんだ?」
「い…いや…流石にエアガンとかモデルガンとかじゃないですか?」
「1度だけ…手に持って調べても良いですか?」
「あぁ…頼む。この中で1番銃に詳しいのは、多分あんただろうしな。でも、引き金に触れたり銃口を俺達に向けるなよ?」
「はい…もちろんです。念の為に私の後ろに来て頂けませんか?」
「あ…はい。」
一体何故こんな物が?
箱の底へとゆっくり手を伸ばし、右手でグリップを掴んで持ち上げてみる。
なぜかとてもよく手に馴染む…重さも丁度いい。
普通ならもっと重いはずだが…
見たところ、型はUGB M.50の8.375インチだろうか?
「実弾が入っているか確認しますね。」
シリンダーラッチを前にスライドさせ、シリンダーを出すと、シリンダーの中には5つの弾丸が装填されているのが確認できた。
リボルバーを傾けてシリンダーから弾丸を取り出す。
左手に弾丸のずっしりとした重みを感じる…
「これは…本物です。」
「何でこんな所にあるんだ?」
「なぜここにあるか分かりませんが…このリボルバーは普通の物ではありません。恐らく、このリボルバーと弾丸は銀でできています。」
まず、M.50そのものが普通のリボルバーとは違うのだが。
このダブルアクションリボルバーに装填する弾丸は50口径のマグナム弾で、命中精度も高く、その威力はグリズリーを一撃で仕留めるという話が有名だ。
このリボルバーの短所は一般的なリボルバーと比べると、弾丸とリボルバーの大きさや構造上の関係からシリンダーに込められる弾丸が1発分少ないところや、銃の扱いに慣れてない人にとっては反動が大き過ぎるというところだろうか。
「メッキじゃないんですか?」
「文房具入れの中に入っていた磁石を近づけてみますね。」
「それで銀か分かるんすか?」
「はい、純度の高い銀は少しだけ磁石と引き合う性質を持っているので、磁石のくっつき方で分かります。といってもそれだけでは不確定要素もあるのですが…」
皆が後ろから見守る中でゆっくりと磁石をリボルバーと弾丸に近づけてみる。
「……一気にくっつかないって事は鉄じゃなさそうじゃないですか?」
「確かに…何か…ちょっとだけカチンってなっただけですぐに外れるしな。」
「はい、恐らく鉄では無さそうですね…」
なぜこんな高威力の弾丸を放つ銃を銀で?
銀の硬度は低く、銃の素材とするのには向いていないというのに…
「とりあえず…強力な武器が手に入ったってことでいいのか?」
「本来ならそうなのですが…私がこれを持つにも身の潔白を証明できていませんし…」
「じゃあそれはジョゼフィーヌさんに持ってもらって、誰かが他の武器持つとかどうっすか?」
「でも他に武器なんてあるか?」
「そういえば、先程調べた箱の中にカッターナイフと医療箱が有りましたよ!…ですが、私が持っても宜しいのでしょうか?」
「確かに…あんたを信じきれてないところもあるが…それを持ってあんたが先頭に立ってくれないか?それなら俺達も少しは安心できる。」
「はい、分かりました!私が皆さんを守ります。」
そうだ、今は分からないことだらけでも私が彼等を守らなければ…
「じゃ…じゃあ、カッターと医療箱は誰が持ちます?」
「そうだな…」
「では私の後ろに春喜さんがカッターナイフを持ってついてきて頂くのはどうでしょうか?医療箱の方は、星次さんか流輝さんに持ってもらい、後ろから着いてきて頂く事になりますが。」
「何でこの順番なんだ?」
「この中で1番最後に目覚めたのは春喜さんのはずなので、皆さんから見ても少しは信頼できるはずですし力も強い方かと思うので、私が皆さんを撃とうとした時に私の首を斬って頂ければ1撃で私を仕留められると思います!」
それにもし、私と彼が仲間だった場合は最後尾の2人に対して発砲しずらくなるという訳だ。
「お…おう。何か…覚悟というか発想が…」
「あの…はい…合理的なんですけど…」
「…お前もそう思うよな…これが一般人との違いじゃねぇか?」
私は何かおかしな事を言っただろうか?
少しでも皆に安心してもらうための提案だったのだが…
「何か不安がありますか?」
「いや、ちょいと合理的過ぎて驚いたんだよ。俺はそれでOKだ。」
「じゃあ…俺が…医療箱を持ちましょうか?一応は手当てについて習ったこともありますし…」
「はい、助かります!」
「じゃあ、誰が何を持つのかとかは決まったが…」
「この紙が気になりますよね…」
「読んでみようぜ。」
あとがき
今回も読んで頂きありがとうございます。
ついでに感想等もお待ちしております。
それでは次回をお楽しみに!