ああ、イケメンに転生して女の子を泣かせたい!
今日も安心安全な?? しろかえでです。
別に下手な鉄砲を数撃ってる訳じゃない。
そりゃあ!! ほんの少しだけ惚れっぽいところはあるのかもしれないけど……それは“ペットロス”ならぬ“片想いロス”に陥らない為で、本意ではないのだ!!
“レピキュリ”でミルフィーユ・オ・フランボワーズのサクサクなパイ生地を食みながらフランボワーズソースの酸味とクリームの甘さを苦い涙と共に噛みしめる……
「ねっ! 失恋にはピッタリでしょ?」
頬杖をつきながら奈夕映が口にするのはエスプレッソ……彼女にかかればそのエスプレッソの吐息すら甘やかで……私はつい、ひがみっぽくなってしまう。
「失恋なんかした事ないくせに……ああ分かった!! こうやって私みたいに失恋したコの愚痴をいっつも聞いてるのね!ご苦労さんだねぇ~ そう言えばサッカー部の吉崎センパイはどうしたの?」
奈夕映はとても“いい子”なので私の戯言にすっごく困った顔で申し訳なさそうに小声になる。
「お断りしたの……『私も心に想っている人がいますから』って……」
ホント!こんな私なんかにマジレスしなきゃいいのに!!
私は自分自身が嫌になりながらも奈夕映にしつこく絡んでしまう。
「『心に想っている人がいますから』なんて嘘ついて!! 美女って残酷!!」
奈夕映は何か言いたそうだったけど、エスプレッソと共にゴクリ!とそれを飲み込んで、また“いい子ちゃん”的な事をのたまう。
「私は……真央があんなオトコに袖にされたのがとても悲しいの! でもヒトの気持ちなんてどうする事もできないから……ゴメンね」
「もういいわ! ここ、奢ってくれたら」
「もちろん! 奢らせて!!」
心の中で『“読モ”のバイトやってる奈夕映はそれなりに“身入り”が良い筈』なんて呟きながらミルフィーユをムシャムシャ頬張っている私は我ながら本当に酷い奴だと思う。
そう思うからこそ更に輪をかけてミルフィーユをモシャモシャやってると、奈夕映の指が伸びて来て私の左の口角辺りをチョン!と触った。
「クリーム付いてた」
そう言って自分の指先をチロッ!と舐めた奈夕映は何と言うか蠱惑的で……私の心は異次元へと飛ばされた!!
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“オレ”はベッドの上でリボルバーの弾倉を開き、鈍色に光る弾を込めている。
激しい夜を共に過ごしたブロンドの女が寝返りをうってオレのジーンズの太ももに足を絡め、たわわな胸をオレの背中に押し付ける。
砂塵を巻き上げた風が建付けの悪い格子戸をガタガタと鳴らし、ヤツらの来襲をオレに告げた。
「足りねえな」
身を起こして両のホルスターにリボルバーを挿し、女の腕を払って弾丸ベルトを体に巻き付ける。
途端に甘いぬくもりは影を潜め、女のキスも懇願も涙も……すべてベッドに置き去りにしてオレの血潮は闘いの為だけに機能する。
「今、コーヒーを沸かすから! せめてそれだけでも……」
「悪いな!お前の事は味わい尽くした。古い革袋の酒や出涸らしのコーヒーに興味は無い」
枕の下から1本、壁に縫い付けて置いた蛇の頭からもう1本……抜いたブーツナイフを元の鞘に戻してオレは格子戸を押し開ける。
かかとに付けた拍車の音に反応してブルルッと頭を振り近付いて来た愛馬にこそ、オレはキスをくれてやり、女の足と心をドアの敷居に縫い付けた。
地平線の向こうに砂煙が立ち、愛馬が耳を傾ける。
もうじき、アホウどもが間抜けな喧騒を引き連れてやって来る。
相手をする義理はねえが集るハエはぶっ叩く!!
オレは愛馬にまたがりカウボーイハットを目深にした。
そして武者震いする愛馬と呼吸を合わせ、放たれた矢の様に一直線に飛んで行った。
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「真央!」
と声を掛けられて“私”は我に返る。
目の前の奈夕映の目は潤んでいて……今にも涙が降り出しそうだ。
「ごめんなさい私!あの、ホントに……」
イイ女は涙までもが美しい。
だから泣かせる価値がある。
すっかりイケメンが乗り移ってしまった私は垂れた前髪を掻き上げると奈夕映の顎を摘まんで引き寄せた。
そして、テーブル越しに奈夕映のくちびるを奪い、苦いエスプレッソと甘い涙を味わった。
おしまい
というわけで、他愛のない話でございます<m(__)m>
妄想癖のあるコは扱いづらい??(^^;)
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