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第九話 今できること

 「遠慮すんなよお! “全力”で魔法もスキルもなんでも来いやあ! まあ、俺も使わしてもらうけどなあ」


 エルゴッタさんが構えをとった。


 「行きます!」

 

 俺は手のひらをエルゴッタさんに向けた。

 

 「スプラッシュ!」


 俺が呪文を言うと手のひらの上に魔法陣が作られ、そこから水がジェットのように噴射された。


 「おお! 水魔法!」


 エルゴッタさんはそう言いながら、俺の水魔法を避けようとする。

 だが俺は単に噴射させるつもりで放ったわけじゃない。


 「ミスト!」

 開いた手のひらをグッと握るとそれに反応するように噴射された水が勢いよく爆散した。


 「おお?」


 爆散した水は周囲の空間を濃い霧として覆い始めた。


 「へえ? こんなことできるのかよお」


 エルゴッタさんは感心した様子で辺りを見回した。


 「これで俺の視界を封じるってところかあ? それはちょっと俺という武闘家を舐めすぎだぜえ?」


 笑いながらエルゴッタさんは俺を探している。

 俺が視界に紛れて不意を仕掛けると考えているだろう。

 実際そのつもりではあるが、もう一つの不意をつかせてもらう。


 「ミニ・クエイク」


 俺はボソリと呪文を呟いた。


 ボコッ!


 「うお!?」


 突如エルゴッタさんの右足裏から地面が盛り上がり、彼は体勢を崩した。


 (いまだ!)


 俺はすかさずエルゴッタさんに突っ込んだ。


 「はあ!」


 彼目掛けて俺は拳を放った。


 「あぶねえ!」


 エルゴッタさんは俺の拳に反応して腕でガードされて防がれた。


 「ぐうう! はあ!」

 「お!?」


 しかし俺はガードの上からゴリ押しでエルゴッタさんを拳で押した。

 そして“全力”で俺はエルゴッタさんをそのまま吹っ飛ばした。


 「うおおお!」


 嬉しそうな声を上げながらエルゴッタさんは吹っ飛んだ。

 だがそのまま地面に激突することもなく、受け身をとって即体勢を立て直した。


 「“攻撃力”すげえぜえ。それ“全力”かあ?」

 「はあ……はあ……ええ、もちろん」

 「俺を力押しで吹っ飛ばす人間なんて久々だなあ。でもまた疲れてるじゃねえかあ? もう終わりかあ?」

 「ご心配なく。ヒール!」

 俺は再びヒールをかけて疲労を回復させた。


 「MPが尽きない限り回復できますので」

 「おお、なるほどお。それで俺にゴリ押しで勝つつもりかあ?」

 「はい。今の私にはそれしかできないので」

 「はっはっは。ああ、いいぜいいぜえ。それでも構わねえ。今できることを惜しみなく使うのが戦いだからよお。となると長期の不利もゴリ押しで解決しちまうかあ? レベルとステータスの暴力ってやつだなあ」

 「ははは」と笑いながらエルゴッタさんは首を鳴らした。

 

 「ヒール一回一人にかけるのでMP50は消費するはずだから、おまえさんがヒールを使えるのは残り九十八回かあ、こうやって言葉にするとすげえ回数だなあ」

 「いえ、他にも魔法を使ったので九十六回になります」

 「お、そうかそうかあ。ってことは、後九十六回回復魔法使わせりゃあ俺の勝ちってことだなあ」

 それぐらいやってみせるという様子でエルゴッタさんは腕を回した。

 「それにしても疲労回復程度でヒールを使うなんてすげえ贅沢な使い方だよなあ。せめてミドルエイドとかの中級回復魔法の方がいいんじゃねえかあ? 使えるだろお?」

 「使えます。ですが、疲労回復を全快できるのはヒールしかありません」

 俺の中にインプットされた魔法の情報ではそれができるのはヒールだけだ。

 「全快って……ズーズも回復魔法使えるけどよお……確かヒールで疲労は全快しねえと記憶してるぜえ」

 「そうなのですか?」

 「たしかなあ」

 同じ魔法でも威力や程度というものが異なるのだろうか?

 だが俺の頭の中の情報では全快できるとある。どういうことだ?

 うーん。知るべきことがまたひとつ増えたぜ。

 「あ、でもリーゼちゃんならできるかもしれないなあ、後で聞いてみようっとお」

 エルゴッタさんはリーゼちゃんの方を向いて笑顔を見せた。

 だがリーゼちゃんはエルゴッタの方へと目線を向けもしなかった。


 「まあ、こうやって駄弁ってると日が暮れちまうなあ。それじゃあ“全力”のゴリ押しってやつお願いするぜえ」

 ちょいちょいとエルゴッタさんは手招きした。

 

 「今度は真っ向から行きます。私のMPが尽きるまで付き合って頂きますよ」

 「おお、いいぞお! 来なあ!」

 「行きます!」

 俺はエルゴッタさんに向かっていった。


 「バイスピード!」


 俺は速度上昇の魔法を自分にかける。

 走る速度が倍になり、その速度に乗って“全力”の“素早さ“で拳を突き出した。


 「ぬお!? 強化したか!」

 

 俺の拳は紙一重でエルゴッタさんに避けられた。

 だが俺はすかさず、次の攻撃を加える。

 疲労が尋常じゃない速度で溜まっていくが知ったことではない。

 俺にはヒールがあるからな。


 「ちい! おまえさんの素早さにバイスピードはかなりきついぜえ! こっちもバイスピードだ!」

 

エルゴッタさんも自身に強化魔法をかけたらしく、俺の攻撃が悉く防がれた。

だが徐々にエルゴッタさんの防御の手が鈍くなっていくのが見てとれた。

あとは時間の問題であろう。

彼の額から一筋の汗が流れていた。

俺は攻撃してく中でステータスと疲労感についても、自分なりに分析した。

 

 ステータスの数値は意識して出すものだ。


 少なくとも攻撃力、防御力、素早さと言った数値は意識する必要がある。

 そしてそれには精神力、もしくは気力を消費する。

 自身の持つ数値を全開するなら、その分気力を消費するのだ。

 この気力はステータスではなく、本人自身の由来のものだ。

 まだHP、MPはどういう扱いかは分からない。


 「ヒール! バイスピード!」


 俺は自身に魔法をかけながら攻撃の手を緩めない。

 強化魔法は一定時間しか効果がない。

 だから切れ目を狙って再び掛け直すのだ。

 回復魔法も同様だ。

 疲労で動きが鈍くなる前に回復する。

 常に全快の状態での攻撃を休むことなく加えていく。

 エルゴッタさんも顔に焦りが出てきたように見えた。。

 

 「く! カウンターもできねえ! なるほどこりゃあ武闘家やる必要もねえわけだなあ! ゴリ押した方がいいと思うのも当然だぜえ! だが!」

 

 ガシ!


 「!?」


 う、腕を掴まれた!

 俺は腕を振り解こうとする。


 「やっと捕まえたぜえ! 喰らいなあ! 武の極地:報拳ほうけん!」

 「ぐぁ!」


 すでに拳が目の前にあった。

 とでも言うしかないほどの速拳が俺の顔面を打ち抜いた。

 

 「な!? 吹き飛ばねえ!」


 俺は危うく吹き飛びそうになったがなんとか踏みとどまり、“全力”の“防御力”でダメージを減らして、やって来るはずの痛みを無くした。


 「たった今“全力”の“防御”をしましたからね!」

 「……! へえ、なるほどお。“使い方”を思い出してきたってことかあ? いいぞお」

 

 エルゴッタさんはニヤリと俺を見た。

 俺のステータスの使い方の考察は大体合っているかもしれない。

 そういやさっき武の極地って技名を叫んだな。

 エルゴッタさんのスキルにあった武の極地というやつを使ったに違いない。

 俺は距離をとって回復魔法を自分にかけた。


 「ヒール! ……もう一回行きますよ!」

 「へん! 何度でも来なあ!」


 エルゴッタさんの額に汗が滲んでいるのが見えた。

 だが彼はそれでも好戦的態度を崩さず俺に向かってくるように挑発してくる。


 「しゃっ!」



 そこからはゼロ距離でのインファイトであった。

 拳の応酬で俺はあまりあるMPを使い疲労を回復し、エルゴッタさんはスキルである武の極地を使用して隙をついて攻撃を行っていた。

 だがその度に俺は“全力”で“防御”するか“素早く”避けた。

 ステータスの使い方を理解し始めた俺にエルゴッタさんも余裕でいることができなくなったらしく、食いしばりながら俺の攻撃をいなしていた。

 だがその防御をすり抜けて攻撃が通るようになり、その回数も徐々に増えた。


 「はあ……はあ……くうっ!」


 今度はエルゴッタさんが疲労で息が上がるようになった。

 もはや攻撃に回す力も残っていないらしく、防御で精一杯の様子だ。


 「これで終わりです!」


 俺はエルゴッタさんの防御を通り抜けて、最後の拳を叩きつけに懐へ踏み出した。


 「……待ってたぜ……この瞬間を!」

 「!?」


 だがエルゴッタさんはニヤリと笑みを浮かべ始めた。


 「スキル、起死回生!」


 エルゴッタさんが叫ぶと、俺の顔と腹部に同時に衝撃がやってきた。


 「ぶっ!」


 俺は予期せぬ反撃により尋常ではない痛みで攻撃を止めてしまった。


 「俺の勝ちだあ!」


 怯んだ俺にエルゴッタさんはすかさず追撃に出た。


 がっ!


 「!?」


 だが突如彼の足に何かが引っ掛かる。


 「なんだあ!?」


 エルゴッタさんが足元を見ると、地面に小さな突起ができていた。


 「まさか、おまえさん!」

 「……うまくいったようです!」


 そうである。俺は攻撃を受けたと同時に土魔法ミニ・クエイクを発動していたのだ。

 追撃に来るであろうエルゴッタさんの足めがけて。


 「これで本当に終わりです!」


 バランスを崩した一瞬の隙をついて俺は今度こそエルゴッタさんにアッパーをお見舞いした。


 「ぶふわぁ!」


 エルゴッタさんは高く吹き飛びそのまま地面に落ちた。


 「……かあ、いってえ……」


 仰向けに倒れたままエルゴッタさんはそのまま立ち上がらなかった。


 「はあ……やべえ……HPかなり持ってかれたぜえこりゃあ……なるほどなあ。いやこりゃあ俺の負けってとこだな」


 攻撃を受けた顎をさすりながら、エルゴッタさんは敗北宣言をした。



 エルゴッタさんとの決闘は終わりを告げた。



 「エルゴッタさん……」

 仰向けのまま俺を見てくる彼に俺はそれしか言えなかった。

 こんなのは勝ったとはいえない。

 単なるゴリ押し。殺し合いじゃない決闘だからできたこと。

 MPを自分のためだけに無駄に浪費して勝っただけ……。

 技も何もあったもんじゃなかった。

 ……情けないぜ……。

 これで魔王と戦って勝つなんてイキってた自分が恥ずいぜ。

 神さんからもらったこのステータスの力があれば、楽勝だと思ってたのだ。

 だが違った。

 ステータスにはゲームとは違う、この世界独自のルールが存在するようだ。

 それを理解せずに魔王に挑んでいたと思うと背筋が凍る思いだ。


 「ヨシキさん!」


 リーゼちゃんが俺の方へ駆け寄ってきた。

 「決闘勝利おめでとうです!」

 彼女は俺に笑顔で言うと俺に何かの液体が入った小瓶を渡してきた。

 「魔力回復ポーションです! どうぞこれでMPを回復してくださいです!」

 「ああ、ありがとうございます……」

 俺は小瓶を受け取った。


 「リーゼちゃあん、俺には何かないのお?」

 むくりと上半身を起こすとエルゴッタさんがリーゼちゃんにそう言った。

 「そうですね……エルゴッタさんもお疲れ様です……ヒール!」

 リーゼちゃんが回復魔法をエルゴッタさんにかけた。

 受けたダメージは回復したらしく、すくっと立ち上がった。

 「ううん! リーゼちゃんからの回復魔法で元気100倍だぜえ!」

 好きな人物から受けた魔法であると言うことからテンションが上がったエルゴッタさんは小刻みに踊り始めた。

 「……ヨシキさんの方が私よりもはるかに効き目のあるヒールができるですよ?」

 「いやいやあ、リーゼちゃんのヒールは特別なのさあ! 気力も全開だぜえこりゃあ!」

 「……はあ」

 リーゼちゃんはただため息を吐くだけだった。


 「あの、エルゴッタさん!」

 「ああん? なんだあ?」

 俺はエルゴッタさんに声をかけた。

 このままではダメだ。

 俺は魔王討伐のためにもっと強くならなきゃいけない。

 だから俺は……


 「エルゴッタさん……どうか俺を……弟子にしてください!」


 俺は彼に向かって深く頭を下げてお願いをした。


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