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第七話 S級冒険者

 魔王と戦う決意してから5日が経った。

 俺は冒険者として依頼をこなしていた。

 「おお! ヨシキ! 戻ったか!」

 俺が依頼を達成して冒険者ギルドに戻ると、冒険者の一人が親しげに話しかけてきた。

 彼の名前はモブトさん。

 このサリーアの町周辺で活動している冒険者だ。

 「はい、モブトさん。無事に依頼を終えました。これがジャイアントオークの耳です」

 俺はモブトさんに討伐した魔物の耳を見せた。

 ギルドからは、それを討伐したと証明できるもので十分であると言われた。

 大体の冒険者は耳を切り取り持ってくるそうなので、俺もそれに倣ったのだ。

耳だけでいいのかと色々と粗があると思ったがそれは言わないことにした。

 「おお! マジか! なるほどこりゃでけえな!」

 彼はまじまじと興味深そうに耳を見ていた。

 「あの、これを受付に持っていかなくてはいけませんので……」

 俺はメルカちゃんのいる受付を指差した。

 「おお、そうだったな。すまんすまん。また一緒に飲もうぜ」

 「はい。ありがとうございます。その時は私が奢らせてもらいますね」

 「おうよ! 楽しみにしてるぜ!」

 実は昨日、同じ冒険者となったからと酒場にて彼に奢ってもらったのだ。(ちなみに酒場はメルカちゃんの両親が経営していた)

 彼はとても気さくで良い人だった。

 ブラッド種のコング討伐でお金は結構あったので払うと言っても、ここは奢らせて欲しいと言って譲らなかった。

 そこまで言われては俺もそれ以上何も言えなかったよ。

 だがこのまま奢られっぱなしは嫌だからな。

 今こなした依頼でだいぶ報酬がもらえるしな。

 マームの森調査を終えたら誘おうと思うぜ。

 森の調査……予定なら今日応援の冒険者が到着するはずだ。

 もう昼過ぎだが、時間的にはそろそろだろうか?

 俺はそんなことを考えながらメルカちゃんに依頼達成を報告した。


 「はい! ジャイアントオーク討伐、お疲れ様でした! こちらが報酬となります」

 「ありがとうございます」

 メルカちゃんの笑顔に癒されながら俺は依頼達成の報酬を受け取った。

 「そう言えばメルカさん。マームの森調査の応援として来る冒険者、今日この町に到着する予定ですよね?」

 俺は考えていたことを彼女に聞いた。

 「はい。そうですね。予定では今日のこの時間帯に到着するはずだと聞いております」

 彼女はにこりとして答えた。

 「分かりました。ありがとうございます」

 俺は礼を言う。

 「はい。あ、でも到着してすぐには出発しませんよ?」

 「分かっていますよ」

 ははは、とちょっとした冗談も言いながら俺は冒険者ギルドを後にした。


 

 「うーん。あれからステータスは変わらずか」

 俺のレベルは69。ここに来てからのレベルそのままだ。まだここにきてから1週間しか経ってないというのもあるが、まだレベルはアップしていない。

 依頼をこなしながらも、他の魔物の討伐も積極的に行い、レベルアップを促しているが、やはりすぐには上がらない。

 「ゲームに例えるなら、高いレベルなら多くの経験値が必要だし、そんなすぐにはレベルアップしないか」

 魔物を倒していけばレベルが上がる。

魔物だけでじゃない、ヒト相手でも……だ。それはこの世界では常識だ。

 他にも鍛錬や試合などでもレベルが上がるそうだ。

 経験値という概念はこの世界に無いらしいが、おそらくはレベルがアップするために必要な“ナニカ”がそれらを通して溜まって行くという感覚をこの世界の人々は薄々感じているのかもしれない。

 今言った中で一番早いレベルアップは魔物を倒すことらしい。

 これは、ひたすら鍛錬するよりも速度が早い。

 だから冒険者を生業とする人々は、ある程度鍛錬してレベルを上げたらさっさと魔物を討伐するようになるそうだ。

 初心者冒険者などはF級の依頼である薬草採取などで日銭を稼ぎつつレベルアップのために努力し、一匹のゴブリンを倒せるほどのレベル(大体10くらい)になれば、パーティを組んでE級の依頼をこなし始める。

 もしくはベテランの冒険者に連れられてということもあるそうだ。

兵士の場合は実践と経験を積ませ”レベルアップ”も促すという目的で魔物討伐を定期的に行っているらしい。

兵士が精力的に活動している地域では冒険者の需要が少ないため、必要最小限のギルド設備しかない所もあるそうだ。

 そしてレベルアップの速度はレベルが上がれば上がるほど遅くなる。

 まさにゲームのようなことわりだ。

 前の世界を生きてきた俺からすれば不自然この上ないことだが、この世界からすれば常識そのものなのだ。

 え? ここにきた時、何も疑問に思わずステータスオープンしてたって?

 いやあ、あの時は嬉しさでそこらへん疑問におもうこともなかったし……。

 ……他にもそこに神の加護が加われば、ステータスの数値にもボーナスでかなりプラスされるということだ。

 魔法の適性もかなり補正される。

 俺の魔法適正Sは神の力の賜物っていうことだ。


 

 「あ、ヨシキさん! 依頼を終えたのですね! お疲れ様です!」

 俺がレベルアップについて考えているとリーゼちゃんが声をかけてきた。

 「リーゼさん、お疲れ様です」

 俺はリーゼちゃんに軽く会釈をした。

 「もうそろそろ、こちらにマームの森調査のための応援が来るということですが」

 「はい、そうなのです! ですので、今からギルドへ行って到着を待とうとしていたのです!」

 リーゼちゃんが俺が先ほどで出た冒険者ギルドをビシッと指差した。

 「なるほど。それじゃあ、私も戻って待っていてもよろしいですか?」

 「もちろんです。一緒に到着をお待ちしましょう!」

 「他のお二方はどうしましたか?」

 「他の二人もすぐ来るはずです。ではヨシキさん、一緒に行きましょうです!」

 そういうと俺はリーゼちゃんと一緒に冒険者ギルドへ行った。


 「おや、ヨシキさん。先ほど出て行かれたはずでしたが、いかがされましたか?」

 受付のメルカちゃんが俺が入ってきたのを見て、不思議そうに言った。

 「いえ、リーゼさんが応援の冒険者の方を待つということで、私も一緒にこちらで待つことにしたのです」

 「まあ、そうでしたか。それならお茶でもお出ししましょう」

 「いえそんな」

 「いえいえ、遠慮なさらず。ではお持ちいたしますね」

 ちょうど受付する人がいなかったからか、メルカちゃんは俺とリーゼちゃんにお茶を持ってきた。

 俺とリーゼちゃんはギルドのロビーにあるテーブルと椅子がある場所に行きそこに座りながらお茶を飲んでいた。

 「一体どのような方が来るのでしょうかね?」

 「少なくともA級以上ということは条件としてあるので、A級冒険者であることは確実です!」

 「S級が来る可能性もあるということですか?」

 「それはあるかもしれませんが、都市部でもS級は貴重な戦力です。よほどのことがなければ、都市部のギルドがS級を応援によこすとは思えないです」

 リーゼちゃんが少し暗くなった。

 「いえ、でも実際マームの森はA級の魔物が跋扈しているじゃないですか。よほどのことだと思いますけどね」

 「私たちが入った時は、A級がそこまで跋扈していることは想定されていなかったのです。私が焦って応援を待たなかったせいなのです……」

 リーゼちゃんは、しゅんとなった。

 「でもこうして生きているじゃないですか。次がありますよ。今度は私も参加しますから」

「いまこうしていられるのはヨシキさんのおかげなのです。本当に感謝していますです。正直今からでもまた森の調査に赴きたいのですが、今度こそ応援が来るまで待つのです」

リーゼちゃんはグッと握り拳を作り、「我慢しなきゃ」という顔をした。

「この町の人たちが大事なのですね」

俺は何気なくそう言った。

「はい、ここは私の育った町でもありますです! みんないい人ですし、この町を魔物に壊させはしないです!」

リーゼちゃんは決意の顔をした。

 「そうですね。ここにきて1週間ほどですが、皆いい人たちです。この力で恩返しできるなら、喜んで振いますよ」

 実際マジでそうだからな。

 わずか1週間という期間だけど、冒険者も気のいい奴らばかりだったし。

 ネット小説によくあったチンピラみたいなやつはいなかったよ。

 いや見た目だけならそういうやつもいたけど、それこそ人は見た目で判断はダメだよな!

 「私もヨシキさんの手助けをできるよう頑張るです!」


 ドンッ!


 リーゼちゃんとそのような会話をしていると、ギルドの扉が勢いよく開け放たれる音が響いた。

 「なんだ?」

 俺は思わず扉の方を見ると、3人の人影が見えた。

 「おう! 来たぜえ! 俺たちが来たからにはもう安心だあ!」

 大声で言いながらドカドカと大股で歩く大男が入ってきた。

 「はあ、やれやれ。おい、エルゴッタ! やめろって」

 困ったような顔をしながら大男に注意しているレンジャーの格好をした男が次に入ってきた。

 弓を携えていた。

 「……」

 最後に黒いローブに身を包んだ人が入ってきた。

 一言も発さず顔まですっぱりと覆われているため、男かどうか分からない。

 「ん?」

 大男が俺の方を見た。

 見るや否やニンマリとした笑顔で俺のいる方へとやってきた。

 「おおおお! リーゼちゃあん! 会いたかったよお!」

 どうやらこの大男は俺ではなくリーゼちゃんを見て駆け寄ってきたらしい。

 知り合いか? 大男の反応を見るにリーゼちゃんのことが好きなのだろうな。

 リーゼちゃんの方は……っと!?

 「…………………………………………………………………」

 俺がリーゼちゃんの方を見ると、見たことのないくらいのっぺらとした無表情を大男の方へと向けていた。

 目に光がないぞ。

 能面みたいだ。そのまま飾られてても不自然じゃ無いくらいに。

 いつも笑顔な子が、完全に表情筋が動くことを拒否している。

 それほどリーゼちゃんがこの目の前の大男に付き纏われて迷惑しているってことだろうか。

 少なくとも初対面だったらあんなを顔するはずがない。

 表情の豊かさを見せてくれるリーゼちゃんなら尚更だ。

 冒険者の口説きだって「ありがとうです」ってあしらう場面を何回か見たからな、この1週間だけでな。

 そんなリーゼちゃんがあしらうどころか、マジのマジで感情たる感情が落ちている。

 付き纏われているというのは勝手な俺の考えだから分からんが、この大男との間に何かがないとこの反応はない。

 リーゼちゃんが過去に何があったかなんて分からないし、詮索することでもないけど。

 そうとう嫌だということだけはハッキリと伝わる。


 「ここにいるってことはさ! 俺を待ってたってことだよねえ! 見てくれよお! この筋肉! リーゼちゃんたちが都市部から活動拠点を移してからも、鍛錬は怠らなかったぜえ! ますます腕も太くなってよお! レベルだって!」

 大男は腕の筋肉を見せつけた。

 本当に太い。丸太だ。ガーレンさんよりも一回りはデカいぞ。

 いや体格そのものがガーレンさんよりも一回りはデカい。

 ここまで来ると、俺が元いた地球だと人類を逸脱しているレベルだ。

 どんな格闘競技でも勝てる人間は絶対にいないと言い切れる。

 そんな雰囲気を感じさせた。

 本物だぜ……。

 俺でも圧倒されるぞ。

 

 だがそんな圧倒するほどのオーラを発する大男はリーゼちゃんの反応に気づいてない。

 嬉々として自分の力自慢といかにリーゼちゃんを愛しているかを語っていた。

 それもかなりの早口で。

 もう嬉しくてしょうがないという思いが顔に思い切り出ているぞ。

 

 「あの……」

 さすがにこのままじゃいかんよな。

 俺は大男に声をかけた。

 「それでよお! ……ん? なんだあ、おめえは?」

 初めて俺が隣にいることに気づいたようだ。

 怪訝そうに顔を歪めて俺に聞いてきた。

 「私は冒険者のヨシキ・ハルマです。マームの森調査に私も参加させていただくことになりました。よろしくお願いします」

 俺は自己紹介をして大男に頭を下げた。

 「ああん? リーゼちゃんたちと一緒にだあ? おいおいどういうこったあ! プレクルミと俺たちS級冒険者チーム“グーバンハー”との合同だって話だろお? ヤローが割り込んでくるなんで聞いてねえぜえ?」

 S級という単語が出てきた途端にギルド内がざわついた。

 な、S級冒険者!?

 マジかよ……。

 俺もびっくりだぜ。

 いや、そうならマームの森調査においてはかなり頼りになるとは思うが。

 都市部のギルドはS級をよこさないかもって話してた矢先でなあ……。

 「俺が立候補したんだぜえ! 愛するリーゼちゃんのためにこの町周辺に巣食う魔物をぶっ飛ばしてやるって……」

 「おい、エルゴッタ! いい加減にしろって」

 レンジャー風の男が呆れた様子で大男を止めに入った。

 知性を感じさせるような雰囲気を持った男だ。

 この様子だと彼が実質この冒険者チームを取り仕切っている感じだ。

 「……」

 ローブの人は、離れたところで身長の半分くらいの杖を大事そうに持ちながらこちらを見ていた。

 ただフードで顔を覆っているため、どんな顔をしているか分からなかった。

 「………あ、クオルさん………」

 固まっていたリーゼちゃんが目に入ったレンジャー風の男にぴくりと僅かに反応しおそらく彼の名前らしき言葉を口にした。

 「お久しぶりです。リーゼさん。この馬鹿が本当に申し訳ないです」

 クオルさん(でいいのかな?)は深々と頭を下げて謝罪した。

 「おいおい、バカって……リーダーは俺だぜ?」

 「だったらちゃんとリーダーらしくしてくれ……いくら久しぶりだからって興奮しすぎだ……」

 大男の言葉に、勘弁してくれという様子でクオルさんが言った。

 「……」

 ローブの人はいつの間にか椅子に座っており、杖を大事そうに抱えながらぐったりとしていた。

 「あ、あのそちらのローブの方は大丈夫ですか? ぐったりしているような」

 「ああ、大丈夫ですよ。寝てるだけですから」

 俺の言葉にクオルさんがなんでも無いように答えた。

 「それはそうとあなたもマームの森調査の参加を?」

 「はい。ヨシキ・ハルマといいます。A級冒険者として参加させていいただくことになりました」

 「なんと、そうなのですね。申し遅れました。私はクオルといいます。こっちはエルゴッタ。そしてそこで寝ているローブの男はズーズと言います。よろしくお願いします」

 クオルさんは丁寧に頭を下げた。

 話が分かりそうな人でよかったよ。ただ苦労人の印象も受けた。

 大男のエルゴッタは不満そうな様子だ。

 それとローブの人は男であることも分かった。ズーズさんね。

 「その名前……ヨシキさんはポンニー大陸のご出身ですか?」

 「え? えと、まあ一応……」

 「……? 一応とは?」

 クオルさんはハテナを浮かべている様子だ。

 ポンニー大陸。そういや神さんのカバーストーリーで聞いたな。

 別大陸からやってきたっていう。

 その大陸の名前がたしかポンニーって名前だったな……。

 俺はその大陸からやってきたって設定だ。

 だが行ったことなんてないから実際ポンニー大陸ってどんなところなのかは知らない。

 まあ記憶喪失設定だから、それを言い訳にするか。

 「ヨシキさんは記憶喪失なんだ」

 俺が言う前に、後ろから声が聞こえた。

 この声はベルちゃんだ。

 見てみると、モニカちゃんと一緒に入ってきたようだ。

 「ああ、ベルさん。お久しぶりです」

 「クオルくんじゃないか。久しぶりだな」

 ベルちゃんに対してクオルさんが下の感じだ。

 こうみると姉弟のように見えた。

 「兄さんじゃない。久しぶりね」

 「おお、モニカ。久しぶりだな」

 クオルさんとモニカちゃんが気さくな感じで挨拶した。

 クオルさんとモニカちゃんって兄妹だったのか。

 そっちの方だったか。

 そう言えばよく見れば似ているかも。

 知性を感じるし、同じ藍色の髪だし。

 目も似ているな。

 二人を見比べていると、ベルちゃんの声が聞こえた。

 「おいエルゴッタ。お前またリーゼに迫っていたのか?」

 ベルちゃんが大男のエルゴッタをギロリと睨んでいた。

 「え、いや、俺は……」

 さっきの俺みたいな状態に今度は彼がなった。

 「見ろ! リーゼの顔を! どうせまた何も考えずに自分語りでも始めたのだろ!」

 「おっしゃるとおりで……」

 ベルちゃんの言葉にクオルさんが同意した。

 「……エルゴッタさん……お久しぶり……です……」

 なんとか表情筋を取り戻したリーゼちゃんがゆっくりとした動作でぺこりとエルゴッタに挨拶をした。

 だが嫌そうだというのが伝わってくる。

 「おお! リーゼちゃあん! 本当に久しぶりだなあ! 俺、最後に会った時からずっと焦がれてたぜえ!」

 エルゴッタがちゅちゅっと唇を窄めながら、喜びをこれでもかと表現している。

 ぶっちゃけキモい……。

 この初対面の数分間で、すでに俺の中では“さん”づけはしてないぜ……。

 「ハハ……ハハハ……」

 リーゼちゃんが壊れた機械みたいにカタコトな笑いをしている。

 声が無機質を感じさせるくらい渇いている。

 「エルゴッタ、もうやめておけ! まったく……。ところでクオルくんたちはなぜここに?」

 「エルゴッタの強い希望で、俺たちがマームの森の調査の応援としてきました」

 「はあ……。なるほど、よく都市部のギルドが許したな。S級をこんな田舎に寄越すなんて」

 「本来ならそうでしょうが、こいつが駄々をこねるんで……ギルド側が折れたのですよ……」

 やれやれといった様子でクオルさんが頭をふった。

 何かと事情があるようだ。

 「最近S級に昇格したことはお前がモニカに書いた手紙で知ったが、それでさっそく問題行動を起こしては世話がないな」

 「ただでさえS級が少ない中で、別の支部へ移られても困るのでしょう。どうしても無理なら俺は別のギルド支部へ拠点を移すってコイツが言ったら、ギルドの方も慌てましたよ……。それで少しの間田舎に派遣するくらいならって……」

 「ははは! 俺の熱意が伝わったってわけよお!」

 エルゴッタは得意そうに笑っている。

 だが周りは反比例して呆れている様子だ。

 それでも嫌悪感というものはあまり感じなかった。

 だがリーゼちゃんにはかすかにだが憎悪のようなものを感じた。

 やっぱり何かあるのかも。

 

 「それで兄さんたちがマームの森の調査の応援に来たということでいいのね?」

 「ああ、それでいい。B級の魔物が跋扈している森だと聞いている。プレクルミに俺たちもいれば問題はないだろう。……ヨシキさんも」

 クオルさんは俺の実力に懐疑的なようだ。

 まああったばかりだし当然だ。

 実力というよりは加護の力だけどな。


 「その情報はもう古いぞ」

 そう言いながらガーレンさんが俺たちのいるところへやってきた。

 「おお! ガーレンのおっさん! 久しぶりだぜえ! なんだあ? 少し痩せたんじゃねえかあ?」

 「変わってねえよ。まったくお前は相変わらずだ。応援に来る冒険者がまさかお前たちだとはな」

ガーレンさんとエルゴッタは知り合いのようだ。

かなりフランクな調子でやり取りをしている。

「てっきりS級は都市部の職員方が離してくれないかと思ったが……」

 「なあに、俺の熱意がギルドに伝わったのさあ。リーゼちゃんが困ってるのに、俺が何もしないわけにはいかないだろお?」

 エルゴッタはリーゼちゃんにウインクをするが、彼女はジト目で返した。

 「全く懲りてねえようだな。だがリーゼに馬鹿なことやろうとしたら俺が叩きのめすからな?」

 ガーレンさんが拳をコキコキならしている。

 「しないって! 俺がそんなことしたか?」

 「したよな? 一度」

 ベルちゃんがエルゴッタを睨みつけた。

 「なに?」ガーレンさんも睨みつけた。

 「うっ! いやあ、あれはさあ……違うっつうかあ……」

 「お前、一度も謝ってないのか?」

 クオルさんがエルゴッタに言った。

 「いや、あの時謝ったけど……なんだろうかなあ……なあリーゼちゃん……あん時は悪かったってえ。まだ怒ってるのか?」

 「…………あれに関してはもう怒っていないです……ですが……」

 リーゼちゃんがしばしの沈黙の後にエルゴッタに口を開いた。

 「……それ以上に許せないことがあるです……」

 リーゼちゃんが怒りの目をエルゴッタに向けた。

 怖いぜ……。初めて見たぜ……。

 「な、なあ! それってなんだ? 教えてくれないか?」

 エルゴッタは必死な様子だ。

 「自分の胸に聞いてみるです!!」

 リーゼちゃんが強くいうとプイッとエルゴッタから顔を逸らした。

 「ご、ごめんってえ……」

 エルゴッタは悲しそうに手を合わせていた。

 最初にあった威勢はどこへ行ったのか。

 少ししてリーゼちゃんがエルゴッタと目を合わせた。

 「それでも一緒にお仕事をするからには、そこに私情を持ち込むわけにはいかないです。依頼遂行中は私もああだこうだと言いません。エルゴッタさんもその間は余計なことは無しでお願いするです!」

 「あ、はい……」

 ビシッと指を向けて言ったリーゼちゃんの言葉にエルゴッタは弱々しく答えた。

 デカい体が今だけは縮んで見えた。

 「さて、話はいいか? ちょうどみんないるようだし、ついてきてくれ」

 ガーレンさんが俺を含めた7人を支部長室へと案内した。

 


 「まずは応援として来てくれたことに感謝する。ありがとう」

 ガーレンさんがグーバンハーの3人に頭を下げる。

 「おうよ! 俺に任せとけえ!」

 「エルゴッタ! すみませんガーレンさん」

 「……」

 クオルさんが謝る。

 ズーズさんは何も言わずに俯いたままだ。


 「ガーレンさん。先ほど情報が古いと言っていましたよね?」

 クオルさんがガーレンさんに質問した。

 「ああ、プレクルミが先行で調査した時にな……」

 ガーレンさんはマームの森調査についてのことを話した。

 森に入ってから俺と出会って脱出するまでの経緯。

 そして俺のこともだ。


 「……おいおいリーゼちゃあん! マジかよお! 俺の到着を待っておけば、リーゼちゃんにそんな苦しい思いをさせなかったのに!」

 話を聞いたエルゴッタはリーゼちゃんに心配の声を上げる。

 ちなみにエルゴッタとリーゼちゃんの席は一番離れているように配慮されている。

 「……面目ないです……」

 さすがにリーゼちゃんは反論の余地がないためか、俯いてしまった。

 「それでヨシキって言ったな? おめえがリーゼちゃんたちを助けたって?」

 「はい。そうです」

 怪訝そうに見てくるエルゴッタに俺は言った。

 「ふーん。いきなりのA級ねえ? そんな強えようには見えねえけどなあ?」

 腕を組みながら俺をジロジロ見てくるエルゴッタ。

 まあそうだよな。

 エルゴッタは武闘家だそうだ。

 あの体格と筋肉を見る限り本物の武闘家だ。

 鍛錬も怠ってはいないだろう。

 振る舞いはあんまり褒められたものではないけど。

 「ヨシキくん。ステータスを見せてあげてくれないか?」

 ガーレンさんが俺に言った。

 「はい、分かりました。ステータスオープン」


 ブオン!

 

 ============

 ヨシキ・ハルマ

 レベル:69

 職業:武闘家

 HP:10000/10000

 MP:5000/5000

 攻撃力:1424

 防御力:1231

 素早さ:1987

 器用さ:1122

 運:1000(最大値)


 魔法適正:

 火:S

 水:S

 風:S

 土:S

 光:S

 闇:S

 回復:S

 強化:S


 スキル:

 神魔法

 

 称号:

 神の加護を受けし者

 ============ 



 「な、なにい!?」

 「これは……」

 「……!」

 グーバンハーのメンバーは驚いている様子だ。

 特にズーズさんは我関せずのような態度だったのに、俺のステータスを見た途端に前のめりとなった。

 「な、なに……これ?」

 ズーズさんが初めて声を発した。

 中性的な声だった。

 仮に女性であると言われて声を聞いても、そうなのかと思ってしまうな。

 ただ顔はフードですっぽり覆われているからまだどんな顔かは分からないな。

 「おお……あのズーズがこんなに興味を持っているとはなあ……まあ当然かあ」

 エルゴッタがズーズさんを見て言った。

 「全部Sって……それに神魔法ってなんなの? 神の加護って? それに回復や強化もS

って……神様の力ってことなの? なんなのさそれ?」

 ズーズさんが俺の方に身を乗り出して矢継ぎ早に俺に質問してきた。

 すごい早口だ。

 「それによお、武闘家だあ? おめえ、俺と同じ武闘家だってかあ? しかもレベルが69!? ステータスがS+級なんざ大戦争で戦った“7人の勇者”かってんだよおめえはよお!」

 今度はエルゴッタが俺に詰め寄ってきた。

 あと7人の勇者っていうワードが出てきたな? なんだそれ?

 そういえばモニカちゃんが大戦争の時の勇者云々とか言っていたような?

 しまった神さんから詳しいこととか聞いてなかったな。あとで聞いておく必要があるな。サイロさんに頼んでみよう。

 「どーせ加護だけだぜえ。本当に武闘家としての技が備わっているのかあ? ステータスのゴリ押しとかだろお? それで武闘家とか名乗られても困るよなあ?」

 「ええ、それは……事実ですね……」

 俺は肯定した。

 そう言うしかない。

 事実ゴリ押しだ。

 全部ワンパンで済んでいたからな。

 あのブラッドのコング以外は。

 「本当に武闘家として相応しい力を持っているのかを見せてくれねえかあ? なあおい。俺と決闘しようぜえ」

 「え?」

 俺は一瞬何を言われたか理解できなかった。

 「何を言っているんだ、このバカ!」

 ベルちゃんもさすがに声を上げた。

 モニカちゃんとリーゼちゃんも困り顔をしている。

 決闘? 本当にいきなりなんだこの筋肉だるまは。

 「おい、決闘っておまえな! それにステータス見ただろ! S+に神の加護! いくら記憶喪失とはいえ只者じゃないのは明白だ! お前の方はステータスはSだ! お前が負ける方が可能性として大だ!」

 隣に座っていたクオルさんが必死にエルゴッタを止めていた。

 「ならよお。ちょっとした手合わせでもいい。おめえの戦い方ってのを見せてくれよお。リーゼちゃんたちが言っているんだ。強いのは本当だろうさ。でも俺は俺の目で見てえんだ。そうしねえと気になっておっさんの話も入らねえやあ」

 エルゴッタの目には先ほどのおふざけがない。

 真剣そのものだ。

 「なあ、やらねえか?」

 「……いいでしょう。やります」

 「ヨ、ヨシキさん!?」

 先ほどまで様子を見ていたリーゼちゃんが声を上げた。

 「マームの森調査前に何をしているのです! エルゴッタさん余計なことはしないでとあれほど……」

 「ごめんよおリーゼちゃん。でも同じ武闘家ってなら腕を見ねえと気が済まねえのさあ」

 「ヨシキくん、本当にいいのかい? 言っとくがこんなバカの言うことを聞く必要はないんだぞ?」

 ガーレンさんが心配そうに俺に言った。

 だけどさ

 「いえ、やりますよ。私も武闘家の技を見てみたいです」

 あのブラッド種との戦いから俺も思うとこあるしな。

 「おお、やるかあ? いいねえ。そうこなくっちゃあ! それじゃあ俺のステータスも見せてやらねえとなあ。ステータスオープン!」

 エルゴッタが勢いよく言った。


 ブオン!

 

 ============

 エルゴッタ・ゴッタニシタッタ

 レベル:51

 職業:武闘家

 HP:6991/6991

 MP:151/151

 攻撃力:1101

 防御力:991

 素早さ:1441

 器用さ:891

 運:121


 魔法適正:

 強化:A


 スキル:

 極地(きょくち)

 起死回生(きしかいせい)

 封天龍牙(ほうてんりゅうが)


 称号:

 格上殺し

 ============ 


 「おお」

 これがステータスSか。

 スキルとかなんかすげえ。

 かっこいいぜ……。

 それに格上殺しの称号。

 ガーレンさんから聞いたけど、称号って何かを達成したり条件が重なったりすると手に入るらしい。

 そして称号によって何かしらの影響をもたらすそうだ。

 うーん、なんかやばそうだ。

 レベル差があっても油断できないな。

 「おうおうどーした? レベル差が20近くもあって楽勝とでも思ってるかあ? 舐めねえ方がいいぜえ? 神の加護がどんなもんか知らねえからよお、その神の力ってやつ見せてくれよなあ。よし表出ようぜ」

 「分かりました」

 「二人とも……」ガーレンさんが俺たちを見る。

 「すみませんガーレンさん」

 「おうおういいから行こうぜ!」

 俺はガーレンさんに頭を下げて、外へ出るエルゴッタについていった。

 それにつられるように全員もついてきた。


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