第六話 邪な影
「ヨ、ヨシキ様! その大きな物は一体なんですか!?」
受付のメルカちゃんが俺の持ってる腕を見て言った。
「いや、あの……ですね」
くっそ〜、恥ずかしいぜえ……。
ネット小説によくあった、すげえ強大な魔物の素材を持ってくるって場面をかなりの数見たものだが、実際にみんながざわついてこっちみてコソコソ話しているのを見ると、なんかすごいこの場から逃げたい気分だぜ……。
いや、本当すいません……。
討伐した時、かなり調子に乗ってました……。
町に入って冒険者ギルドに来るまで見る人みんな驚いた顔してたからなあ。
一部壮年の方や年配の方とかは、腕を見るや否やすごい怯えた様子だったりもしていたし……。
だがこれは討伐証明として仕方ないんだ。(と言い聞かせる)
本当は頭にしとけばよかったかもしれないが、生首はなんだかなあと思って……。
腕くらいならジャイアントコングの腕だとわかって証明できるだろって感じで持ってきたのだが。
メルカちゃんが目をすんごい見開いている。
俺が持ってるジャイアントコングの腕を見ている。
ギリギリ腕が入れるくらい扉が大きくて良かったのか悪かったのか……。
「おいおい! 一体なんだ!? この真っ赤なものは!?」
「あ! ガーレンさん!」
「支部長!」
ガーレンさんが奥からやってきて、俺とメルカちゃんはほぼ同時にガーレンさんに向かって言葉を発した。
「依頼の魔物を討伐しました。これが討伐証明になりますかね?」
俺は持っているジャイアントコングの腕を見せる。
ガーレンさんは口を開けたまま、腕を見ていた。
「……ジャイアントコングか? これが?」
「ええ、そうだと思います。あの森にいた主らしき魔物だったので……」
「う、うーむ……」
ああ、ガーレンさんがすごい難しい顔をしている。
「そうだな……その腕は……ギルドの裏庭の方においてもらおう……ヨシキ君、すまないが説明をお願いできるかな?」
「はい。もちろんです」
「ではまた支部長室までついてきてくれ」
俺はガーレンさんについていった。
「それじゃあ、説明してくれるかな? あれを討伐することになった経緯を」
「はい」
俺はガーレンさんにあのデカブツを倒すまでの経緯を話した。
もちろん自分がわかっている範囲で細かく伝えたつもりだ。
話を聞くうちにガーレンさんの顔が深刻なものに変わっていった。
「まさか……いや、しかし……そうだとしたら……」
ガーレンさんはぶつぶつと呟いている。
額から汗が一筋流れているのが見えた。
特に暑いわけではないから、冷や汗という奴だろうか?
「……その血のような赤い体毛のコングは他のコングも従えていたんだね?」
「ええ、というよりは操っているようにも見えました」
「……突然の進化……だが腕の体毛を見るに、アレは“レッド”ではない……なんということだ……」
またも独り言が続いた。
「ああ、こちらだけぶつぶつとすまない! これは教会へ行きサイロ様と話し合う必要性が出てきたな。それだけじゃない! 領主様にも話を通さねばならない!」
「りょ、領主様!? あの、領主様というのは……」
「ここサリーアの町の領内を治めている領主、ルリア・レース・ジゲンツ様のことだ。ここジゲンツ領は魔族連合と最も離れている田舎と言ってもいい場所。……だが、それもやはり邪神にとっては関係のないこと……ということか」
「……」
カイコン国という国は神さんから説明を受けて知っていたが、ジゲンツ領なんていうのは初めて聞いたぜ。
それに邪神なんて不穏ワードも出てきたし……。
神様だったら、ちゃんと説明してくれよお……。
いや、詳しく聞こうとしなかったのが悪いんだけどさ……。
あのときは興奮しててね……。
「ヨシキ君! 今すぐ教会へ行くぞ! ついてきてくれ!」
「は、はい!」
俺は早足で行くガーレンさんに、またついて行った。
ガーレンさんと俺は教会へやってきた。
「おや、ガーレン殿にヨシキさん……。慌てた様子でどうされたのです?」
ちょうど教会にサイロさんがいた。
俺たち二人を見て、只事ではなさそうだと駆け寄ってきた。
「実は、“ブラッド”個体が出現しまして……」
「な、なんだって!?」
ブラッドという単語を聞いた途端にサイロさんが目を見開いた。
「どういうことです!? 本当なのですか!?」
「ええ! ギルドの裏庭に証拠があります! どうかご足労願いますか!」
「わ、分かりました!」
今度はサイロさんと加わってギルドへ戻って行った。
い、忙しいぜ……。
「こ、これは……!」
サイロさんは俺が持ってきたジャイアントコングの腕を開いた口が塞がらない様子で見ていた。
「確かに……これは“ブラッド”ですね……」
少ししてサイロさんが呟いた。
「ジャイアントよりもさらに一回り大きな腕……これは“キング“の特性も併せ持っていますね……」
さらにサイロさんは腕を見ながら言った。
「な、なんと“キング”も!?」
サイロさんの言葉に今度はガーレンさんが驚く。
うーん、二人だけで会話が進んで俺が置いてけぼりだぜ。
「こ、これをヨシキさんが討伐したということでよろしいのですね?」
サイロさんが俺を見て尋ねた。
「はい、私がやりました」
俺はそのまま答える。
「これを討伐した経緯をすみませんが、教えていただけますか?」
「はい。分かりました」
俺はサイロさんにも、ガーレンさんに話した内容と同じことを話した。
サイロさんは話を聞きながら考え込んでいるようだった。
「…………なるほど、突然変わったと……」
「はい。私はそう思いました。いや、実際に変わった場面を目撃したわけではないので確実にそうだとは言い切れませんが……」
でも多分同じ奴だったと思う。あのニヤケ面が同じ感じだったからな。
「いや、そうなのでしょう。それに複数の特性を併せ持つ魔物、これはやはり邪神が介入してきたということ以外に考えられませんね……」
邪神の介入?
サイロさんが言った。
「やはりそう思いますか?」
ガーレンさんもやっぱりそうかという顔で言った。
「え、邪神って……どういうことですか?」
さすがに分からないままにするのは嫌なので、俺はサイロさんに聞いてみた。
「“レッド”のような明るい色ではありません。それよりも濃い真紅の血のような色の肌や体毛。この特徴は邪神によって力を与えられたものです。それらは“ブラッド”種と呼ばれています」
「え!?」
邪神が力を!?
あの時神さんが話したカバーストーリーに出てきた邪神と同一か!?
じゃあ俺はたまたま邪神の力を得たコングと戦ったってことなのか?
「その邪神というのは、私が解いたという邪神の呪いと関係が?」
「おっしゃるとおりです! 邪神デストロ。この世界に度々降りかかる厄災のそのものと言ってもいい存在です。あなたが解いてきたという呪いも、かの邪神がイタズラに振りまいた災害と言ってもいいでしょう」
サイロさんは深刻な様子で俺に説明してくれた。
邪神デストロ。俺のカバーストーリーにも出てきた邪神という名称。
それと同一であるそうだ。
俺を転移させてくれた神さん、クリエトと対をなす存在らしく、長い歴史の中で度々このブルハルト大陸を混沌に陥れたという。
直接降り立って荒らすのではなく、間接的に介入して誰かに力を与えては、そいつに好き放題させたらしい。
そして、より大きな邪神の力を受けた存在が魔王として君臨するようだ。
わずか15年前、魔王率いる魔族で構成された大軍勢と人間とで大陸全土を巻き込んだ戦争が勃発した。
4年に及ぶ戦い、双方に甚大な被害を出した末に魔王は倒された。
だがその犠牲はあまりに大きく未だに復興が完了したとはいえないらしい。
都市部は戦争前と変わらぬ栄えを完全ではないにしろ取り戻したようだが、そこから外れれば、戦火の傷跡が生々しく残っている場所も珍しくないらしい。
プレクルミのメンバーたちの両親も戦火の中で巻き込まれ亡くなったそうだ。
人口は激減し、働き手が極端に少なくなったことで大陸にある全国家の国力も大幅に低下。
魔物退治も、多くの場合人手不足や財政難そしてそれにより十分な修練を行えないという理由から自領の兵士のみではままならず、冒険者たちに頼らざるを得ないそうだ。
特に都市部から大分離れた田舎であるジゲンツ領なら尚更だとか。
なんとこのサリーアの町がジゲンツ領で最も栄えている町なのだという。
他は領主が住む町が同じくらいで、点々と村々があるくらい……。
「そうだったのですか」
邪神デストロ……。
もしかしてだけど神さんが俺に力を与えて転移した理由って単なるお詫びだけじゃないかもしれんな。
「ええ、邪神の脅威は完全に取り去ることは未だに叶いません……。しかしまだ傷も完全に癒えぬうちに再び邪神の災厄がやってくるなんて……早すぎる!」
サイロさんが絶望的な表情で言った。
「……我々は一体どうしたら……」
ガーレンさんも深刻な様子だ。
「このまま何もしないなどありえません! まずはクリエト様にこのことを!」
「そ、そうですね! まずはクリエト様に!」
どうやら神さんと交信するという話になった。
「ヨシキさん! あなたもお願いします!」
「はい! もちろんです!」
俺たちは再び教会へ向かった。
「あ、司祭様です! それにガーレンさんとヨシキさんもいるです!」
「急いでいる感じがする。何か深刻そうだな?」
「一体何があったのかしら?」
教会へ向かう途中、プレクルミのみんなとばったり会った。
リーゼちゃんはブンブンと手を振っている。
「ちょうどいい、君たちもきてくれ!」
ガーレンさんが手招きした。
「「「え?」」」
プレクルミのみんなも行くことになった。
「ええ!? じゃ、邪神がまたこの世に現れたかもしれないのですか!?」
「そんな……嘘でしょう!? もしかしたらまた魔王が……」
「邪神め! またあの地獄を味合わせるつもりなのか!!」
合流したプレクルミにこれまでの経緯を説明した。
プレクルミのみんなは驚きや憎悪などの感情を強く見せた。
「皆さん! 今より儀式の準備をいたします! 少しお待ちください!」
教会に到着するや、サイロさんは儀式部屋に入り交信の準備に入った。
「あたしたちは家で休んでいたから分からなかったが、ヨシキさん。あなたブラッド種を倒したんだって?」
ベルちゃんが俺に聞いてきた。
その顔には本当なのかという疑わしさが見える。
「はい。倒しました。証拠ならギルドの裏庭にブラッド種のコングの腕があります。後でそれを見ましょう」
「ヨシキさんの討伐対象だったジャイアントコングが突然ブラッド種に変異したということなのよね?」
モニカちゃんが言った。
「はい。逃げた先ですでに変異を終えていたので直接見たわけではないのですが、恐らくそうです」
俺がそう言うとモニカちゃんが口を真一文字にして目を細めながら考え込み始めた。
「使徒様……あ、いえ! すみませんです! ヨシキさんはそのブラッド種も倒したということなのですね! すごい! すごいです!」
リーゼちゃんは俺のことを使徒様と言ってすぐに訂正した。
一生懸命腕を振ってすごさをアピールしている。
神さんとの交信後、使徒様ってなんか身体がむずがゆくなるから畏まらなくていいって頼んだ。
それに最後まで抵抗したのはリーゼちゃんだった。
敬虔な使徒様に失礼を働くなんて聖女としてあってはならないことなのです!
って俺をあくまで使徒として扱おうとしていたからなあ……。
「いえ、私じゃなくて、その……神様の御加護の賜物ですので……」
「なるほど! 感謝感謝ですね!」
俺はそう言った。
実際そうだ。
最初はそれでも褒められるのは嬉しいと思ってたけど、今は素直に喜べないっていうか。
ま、当然だよな。神の力であって俺自身の力じゃないし。
ただリーゼちゃんはにっこりとしている。
なんか俺がそう言うたびにこんな顔をしている気がするな……。
ま、でも俺はこの力で好きに生きるつもりだぜ。
好きに言っても、本当に好き放題するって意味じゃないけどな。
「みなさん! 準備が整いました! すぐに交信が可能です! どうぞ!」
どうやら準備が終わったようだ。
俺たちは儀式の部屋へと入っていった。
今度はガーレンさんも含めて、神さんとの交信するための全員魔法陣の中にいる。
『……最悪の事態です……まさかこんなにも早く邪神の手が再びこの世界に伸び始めているとは……』
ガーレンさんとサイロさんが呼び出した理由を説明、そして俺がブラッド種を倒したという経緯も話した。
神さんは深刻な様子だ。
というよりその言い方だと邪神が遅かれ早かれ来るというのは知っていたような口ぶりだな。
やっぱり俺って魔王と戦うためにここに来たってことか?
うーん、聞いておきたいぜ。
『ブラッド種の出現は、もはや邪神が戻ってきたという証拠に他なりません。全ての人間国家にこのことを知らせねばなりませんね』
「では、我々がこのことを」
『いえ、私が知らせましょう。その方が早いですからね。もしかしたらすでに魔王が出現している可能性もあります。各国に警戒と軍備の増強を呼び掛けねば』
「畏まりました」
俺も含め全員が片膝をついた。
なんてことだよ。
異世界で楽しく暮らすつもりが邪神とか魔王とか……キナくさい方へ。
まいったぜこりゃ。
「あの、最後にクリエト様にお聞きしたいことがございます」
俺は神さんに口を開いた。
『なんでしょうか?』
「いえ、その……」
『分かりました。皆様、すみませんが彼と二人きりにさせてもらってもかまわないでしょうか?』
「はい。分かりました」
神さんの言葉にサイロさんがそう言うと、みんなと魔法陣から出ていってくれた。
神さんもサイロさんも察しがいいな。
助かるぜ。
『それでお聞きしたいこととは?』
「神さん。あんたもしかしてだけど、俺に魔王を倒させるために殺してここに転移させたんじゃないよな?」
ストレートに聞く。
『……半分当たっています。あなたに魔王を討伐をしてもらいたい。そのために私はあなたをこの世界をへと連れてきました』
「まじかー。やっぱそうかー」
話が美味いと思ったよ。
チートで楽しい快適なスローライフや冒険の旅とか出来るもんだと思ったよ。
いや、加護をもらった時点で察するべきだったか。
まじで手違いで死なせてしまったお詫びとして神の加護をもらったもんだと思ってて。
ネット小説ってそういうのあるじゃん?
『ですが、あなたを死なせてしまったこと……それは本当に偶然の手違いでした』
「あ、そうなのか」
『そして死なせたお詫びとしてあなたの魂を連れていきより良い人生を送れるように転生させるつもりでした』
「お詫びするというのは本気だったんだ」
『ですがあなたの魂は、より強い神の力を受けることの出来る性質を持っていたのです。ですから私はあなたに加護を与えて、肉体を復活させこの世界に転移させたのです』
そうだったのか。
「でもなんでそれを黙ってたんだよ?」
『あなたがこの力を悪用しない人間であるのか? それを見極めるためです。そのためしばらく様子を見させてもらいました』
「マジかよ。じゃあ、俺がふさわしくないって判断したらどうするつもりだ?」
『即刻、神の加護を取り上げます。悪用しこの世界の人々に害をなそうとした瞬間、あなたの力は完全になくなり、ただのレベル1の一般人となるでしょう』
「ええ! じゃスライムにも勝てないってか!?」
『剣さえあればスライムには勝てるでしょうが、それ以外の魔物には抵抗虚しく殺されるでしょうね。この世界は戦闘訓練や鍛錬を行なっていない村人でさえ成人ならレベル10〜15はありますから、あなたは瞬間的にこの世界での最底辺のステータスとなります』
「こ、怖え。いや、元々そのつもりはなかったが、マジで気をつけないとな!」
『手違いであなたを死なせてしまった上、試す真似をしたことについては謝罪いたします。ですが、この世界にはより加護を受け取れるあなたが必要なのです。厚かましいことは理解しています。どうか、どうかこの世界のために戦ってはくれないでしょうか?』
神さんの声に必死さがあった。
確かに俺は手違いで死んだ上に試されていたのだろう。
『無理なことは承知の上です。もし本当に無理なのなら、あなたを再び安全な世界へと転生させることもできます』
なるほど、断ってもこのまま取り残すってことはしないようにしてくれるのか。
だが!
「言ったはずだぜ? 俺はこの世界で生きるってな! 魔王が出たとしても俺がやっつけてやるぜ!」
俺は握り拳を掲げた。
それに利用されるぐらいが俺にはちょうどいいさ。
それが世界のためってなら尚更だぜ!
『よいのですか?』
「ああ! 俺はとっくにこの世界で生きるつもりだからな! それにあんたの加護を沢山受け取れるんだろ?」
『は、はい。ですがそれだけでは不十分です』
「不十分?」
『さらに修練し経験を積み、レベルを上げていけば、それだけまたより多くの加護を受け取れるのです』
「レベルに比例してさらに加護を受け取れるのか! 階乗的に強さが上がるんだな!」
『ええ、その通りです』
「OK! いいだろう! その時が来るまで、俺は冒険者をしながらレベルアップに励むとするぜ!」
『分かりました。邪神はすでに動いているでしょう。どうか警戒は怠らぬように』
「分かったぜ! この世界のこと任された!」
『ありがとうございます』
そう言うと俺は神さんとの話を終えた。
「ヨシキさん。あなたは魔王と戦ってくれると?」
サイロさんが聞いた。
「ええ、そのために加護をいただいたのです。クリエト様がそうおっしゃいました」
「そうだったのですね! このリーゼ・シュトラウス! 魔王討伐のために精一杯お手伝いしますです!!」
リーゼちゃんの目が燃えていた。やる気に満ち溢れている。
「ですが、しばらくはより加護を受け取れるようにするために、冒険者をしながら修練に励もうと思います。なのでみなさんよろしくお願いします」
「むしろお願いするのはこっちだ! 魔王討伐のため、私も出来る限りの協力をさせてもらう!」
「私もよ! 私に出来るのは雑用ぐらいだけど遠慮なく頼ってちょうだい!」
ベルちゃんもモニカちゃんもすごい決意に溢れていた。
「こりゃあ、俺も気合を入れないとな! 俺も支部長として出来る限りの支援はするぞ!」
ガーレンさんがムキムキの腕をグッと突き出した。
「ヨシキさん……。分かりました。私が出来ることは少ないですが、出来る範囲で手助けをさせていただきます」
サイロさんはニコリと笑った。
「ありがとうございます。これからよろしくお願いします」
俺は深々と頭を下げた。
▼
「ふんふんふーん♪ もうすぐサリーアの町に着くぜえ!」
サリーアの町へと向かう馬車の中、揺られながら鼻歌混じりで上機嫌な男が外の景色を見ながらそう言った。
彼を含めて3人の男が馬車にいた。
「エルゴッタ、お前まだ諦めてなかったのか」
男の一人が呆れた様子でため息をついた。レンジャーの格好をしており横には弓が置いてある。
「あたりめえよお、クオル! S級になった俺を見りゃあリーゼちゃんも見直すに決まってるからなあ!」
エルゴッタと呼ばれた男は自信満々に拳を突き出した。
彼は武闘家然とした格好をしており引き締められた肉体と拳に絶対の自信を持っているようだった。
「はあ、やれやれ。言っとくが俺たちは応援として行くんだからな? そこんとこ忘れるなよ?」
クオルと呼ばれた男は、また呆れた様子で首を横に振った。
「ふわあ……うるさいなぁ、静かにしてよリーダー……」
気だるそうな魔法使いの格好をした少年のような幼さを残した見た目の男がつぶやいた。
「おいおいズーズ! まだ昼だぜ? ったく寝るのがほんと好きだなあおめえは!」
「……zzz」ズーズと呼ばれた男は大きな杖を大事そうに抱えながら寝息を立て始めた。
「もう寝てやがる。ま、いいや」
エルゴッタは見えてきた町を見ながらにんまりと舌なめずりをした。
「待ってろよ、リーゼちゃん。さらに魅力的になった俺を見せてやらあ」
彼の頭にはファイングポーズをとった自分にリーゼがうっとりと抱き締めている姿が浮かんでいた。