第五話 神の力
ウオホッホッホ!
「こんにゃろう! 笑ってやがるぜ!」
俺は目の前の進化したジャイアントコングを睨みつける。
あいつ、興奮した様子でその場で飛び跳ねている。
喜んでいるといえばいいか。
もう自分の勝利は決まっていると言っているようだ。
それに俺が吹き飛ばした腕が治ってやがる!
訳がわからないぜ!
コングって魔物に再生能力のような特筆すべき能力はないってガーレンさんは言ってたのに。
あるとしたらアンデット系の魔物らしい。
だが目の前のこいつは生気バリバリ。
どう考えてもアンデットじゃねえぜ!
体毛も真っ赤だ。もっと正確に言うなら真紅とでもいうべきか。
逃げたやつとは別個体かと思ったが、あのニヤケ面はさっき見たジャイアンコングと同じだった。
ある種の傲慢さとか慢心が見て取れる。
「この短い時間で何が起こったか知らねえが、ぶっ飛ばす!」
俺のステータス! 神の力を喰らってもらおうか!
「はあ!」
俺は地面を蹴って奴に向かいパンチをお見舞いする。
ウホウ!
「なに!?」
避けやがった!
奴は後ろに飛んだ!
あんな図体で身軽に動けるなんてすげえな……。
ウホッ!
今度は奴が俺との距離を詰めて、さっきよりも一回りデカくなった拳を突き出した。
「はん! やっぱり大したことはないぜ!」
攻撃速度は俺の目にはゆっくりだ。
これまで見た魔物の攻撃と比べれば一番速いが、それでも簡単に避けられる!
「これを避けて、お見舞いしてやら…………!?」
突然、俺の頭に重い衝撃がのしかかった。
大して痛みはなかったが、俺はその衝撃で地面に足をついてしまった。
「なんだ!?」
衝撃を受けた原因を考える暇もなく、すでに眼前に拳が迫っていた。
「くっ!」
俺は咄嗟に防御したが、奴の攻撃で100m以上吹き飛ばされた。
吹き飛ばされた最中にぶつかった木々たちは、倒れて行った。
おかげで俺と奴の間はスッキリした道が出来たようになった。
「ああ、びっくりしたぜ!」
腕が少し痺れるがそれ以外は大した痛みも怪我もない。
やっぱりS+のステータスというやつは伊達ではないということか。
「でも一応ヒールをかけておこう」
俺は自分に回復魔法をかけた。
ウホホホホホホ!
ジャイアントコングが笑いながら俺の前まで走ってきた。
ニヤリ!
俺が吹き飛んで地面に手をついたのを見て、勝利を確信しているんだろう。
「おうおう! 勝ったつもりか? かかってこいよ!」
俺はクイクイと手招きして挑発する。
グホホ!
それに応えるかのように奴は雄叫びを上げながら、両手で叩きつけてやろうと目一杯両腕を振り上げた。
「こいよ!」
俺は奴の攻撃を迎え撃つ構えを取る。
ウホ!
死ね。というような邪悪な笑みをしながら奴は両腕を俺に向かって振り下ろす。
「……」
ゆっくりと俺には見える両腕を見ながら、俺は意識を集中させる。
「……!」
見えたぜ!
そこだ!!
「おらぁ!!」
ブフォ!!
俺は背後にいたコングを裏拳で攻撃した。
コングは跡形もなく吹っ飛んだ。
ブホ!?
親玉であろうジャイアンコングは驚いた顔をする。
「やっぱりか」
さっきの衝撃。
あれは奴の仲間、というより手下のコングが後ろから俺を攻撃したんだ。
大したダメージにならなくとも隙を作ることはできるだろうからな。
油断したぜ!
ブオオ!
それでも攻撃を止めることはしない。
ギリリと歯軋りしながらくたばれという顔で俺に振り下ろす。
「あくびが出るぜ!」
俺は両腕の振り下ろしを避けるとそのまま懐に向かって、拳を打つ。
ブフ!!?
奴は相当のダメージを受けたのか。
口から血を大量に吐いた。
だが他の魔物と違って身体が四散することはなかった。
他の魔物よりも硬い。
「俺の攻撃でしなないということは等級A級以上。いやS級か?」
少なくともステータス的にはそれぐらいの強さの可能性がある。
等級Bの魔物がなぜいきなりこんなに強くなったのか。
「考えてる暇はねえ!」
このまま決めるぜ!
俺は吹き飛び倒れたジャイアントコングに向かってラッシュをかました。
「オラオラオラア!」
グホ! ウホオオオオオオ!
奴の腹に風穴が開いた!
グフ、ホ……
それと同時に奴は動かなくなった。
「ふう。どうやら倒したようだぜ」
ふと周りを見ると生き残りのコングたちが俺をじっと見ていた。
「ん?」
俺が奴らを見返すと、奴らは血相を変えてその場から全力で逃げ出した。
「ふう、少し疲れたな。今回はこいつの討伐だから依頼完了だ!」
そういえば、こういうのって素材とかってあるのかな。
魔物の遺体の一部から剥ぎ取って、ギルドに売るとかさ。
やべ、ガーレンさんにそれ聞いてなかったぜ……。
「とりあえず、討伐したっていうのがわかるように何か持って帰るか」
ジャイアントコングの腕をもぎ取り、そのまま森を後にしたのであった。
×
『はあ……たがが雑魚魔物如きじゃこれが限界か』
姿の見えない何者かが、ボソリとブラッドキングジャイアントコングの死体を見てつぶやいた。