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第四十七話 突然の襲来



 リーゼたちに宿へ案内された後しばらく宿にいたがディフェンの街を回った。

 リーゼらに案内をすると言われたが一人でいたいと言ったので今は一人だ。

 彼女は渋々と言った様子で了承した。

 さすがの要塞都市か。巨大な壁に囲まれており壁には侵略者に対しての設備が多くあった。

 街には兵士や冒険者たちが行き交い、武器や防具、その他戦いのための道具を売る商人も多くみられた。

 女性や子供などがあまりみられなかったが多くの非戦闘員はすでにディフェンを出て別の街や村に避難しているらしい。

 歩き回っている間に俺をクリエトの使徒だと知った人からは手を合わせられた。

 「使徒様! 我らをお救いください!」と道の真ん中で平伏する人もいた。

 そんな人たちをなんとか落ち着かせたりしながら俺はリーゼらと街を歩き回っているとジゲンツ領の領主ルリアが駆け寄ってきた。



 「使徒様!」

 そして今こうして話しかけられている状況なのである。

 「こうしてディフェンにてお会いできたこと恐悦至極でございます!」

 相変わらずの態度である。

 「そこまで固くならなくていい」

 俺は使徒様然とした態度でルリアさんに接する。

 「して、何用か」

 「は! 今このディフェンにて各領主たちが集まっております」

 ピシッと背筋を伸ばし大きな声でルリアさんは言った。

 「つきましては、領主らの議会へのご挨拶とお言葉を賜りたくお願いに上がりました!」

 今度は90度ぴったしの角度にお辞儀をした。

 ほんと面白いなこの人は。

 「ふむ。なるほど、いいだろう。では案内してもらえないか?」

 「は! もちろんでございます! ではこちらに……」



 ドオンッ!

 

 「!?」


 突然の爆発音にルリアさんはびくりと身を縮めた。

 だがそれも一瞬ですぐに元に戻る。


 「一体何が……!?」


 ボオン!!


 彼女が言い切る前に再び爆発音が聞こえる。

 今度はディフェンの壁の一部で爆発が見えた。

 壁の一部が崩れる音もだ。


 「まさか……もう来たというの!?」

 ルリアさんは驚愕に顔を染めた。

 「どうやら挨拶は今度のようだな。悪いが向かわせてもらうぞ」

 「は、はい! お気をつけて!」

 

 俺は素早さのステータスに意識を向けて最速で爆発の現場へと向かった。


 

 「なんて凄惨な……」

 爆発現場のディフェンでは風穴が開けられていた。

 ここまで分厚い壁が見事にその役割を失っていた。

 血の臭いが充満し、兵士たちがあちこちで倒れていた。


 「よー」

 俺はかけられた声の方向を向いた。 


 「お前はっ!」

 「またあったなー。使徒様よー」

 

 そこにいたのは魔族であった。

 そして奴はサリーアの町襲撃の際にいた二人組の魔族のうちの一人であった。

 「確か名前は……」

 「リークスだ。改めてよろしくなー」

 リークスは軽薄そうに笑った。

 奴の民族衣装には赤い血がついていた。

 

 「ここの人たちはお前がやったのか?」

 「おう、そーだぜー? おかげで血がべっとりだー。帰ったら身体あらわねーとなー」

 「あーあ、くせーくせー」と言いながら、彼は鼻をつまむ真似をする。

 

 「お前!」

 俺は奴を睨みつける。

 「おー、怖! 俺じゃ殺されちまうなー。おーいシュード!」

 「っ!!」

 奴がシュードという名前を叫んだ途端に後ろから殺気を感じた。

 俺はすぐにそこから脱した。


 それと同時に俺がいた場所がドンッという音と共に土埃が舞った。

 「ほう……避けたか」

 視界が晴れると、そこには巨漢の魔族であるシュードがいた。

 俺を後ろから思い切り殴ろうとしたのか、その拳は床を貫いていた。

 貫いた場所を中心にヒビが床に広がっていた。


 「魔王様ひいては邪神様の命により、お前を殺す……」

 シュードは俺の方へと向き拳を鳴らした。

 「今回は俺もいるぜー。2体1だ」

 リークスとシュードは構えをとる。

 リークスはどこからか棒状の獲物を取り出した。警棒みたいだな。



 「つーわけで、死んでくれや。使徒様よぉ!」

 リークスが地面を蹴って攻撃を仕掛けてきた。


 「ふん!」

 俺は頭目掛けて振り下ろした奴の獲物を掴んだ。


 「な!?」

 「オラァ!」

 

 俺は奴の腹目掛けて思い切り殴った。

 

 「ぶふぁっ!」


 口から血飛沫を上げながら奴は地平線の向こうまで盛大に吹き飛んでいった。

 

 「なに!?」


 リークスが吹き飛んだ光景を見てシュードは目を見開いた。


 「わかっているはずだ。俺とお前たちではレベルが違う。今ここで戦うのは止めにするべきだ」

 俺はこれ以上の無意味な戦いはしたくない。

 「何を言う。魔族と人間は殺し合う運命……神話の時代より定められしことだ……」

 それでも奴は戦意が削がれている様子はなかった。

 「なればこそ……戦って死ぬまでよ!」

 シュードは拳に赤黒いオーラを纏わせて突っ込んできた。


 「死ね! 聖の勇者よ!」


 俺はクリエトの神魔法により白い炎を纏わせた手で奴の拳を止めた。

 

 「くっ!」


 奴は歯を食いしばりもう片方の手で俺の顔を狙ってきた。


 「見えている。悪いが丸わかりだ!」

 俺はそちらの攻撃も防ぐと今度は地面へと叩きつけた。



 「がはっ!」

 追い討ちに腹に一撃をお見舞いした。


 「ぐっ、我ら二人をこうもあっさりと。やはり魔王様でないと勝てぬか……」

 それを言うと奴は気を失った。


 「へぇ。やるじゃんか。さすが使徒様って言えばいいか?」

 「ナグル……」


 気がつくと目の前にはこの世界で幾度とも殺し合いをした男。カンゴウ・ナグルがいた。

 

 「あれ? 俺様の名前知ってるんだ? ま、いいや。一応自己紹介だ。俺様の名前はナグルだ。一応魔王やらせてもらってるぜ?」

 「知ってるよ。デストロに唆されたんだろ?」

 「なんだよ、初対面のくせに俺のこと知ってるふうな口聞きやがってよ。俺はお前の名前知らないんだぜ?」

 「何度目か知らんが、一応こっちも名乗ってやる。俺の名前はヨシキ、ハルマ・ヨシキだ」

 「その名前、お前地球人、しかも日本人か?」

 「ああ、そうだ。お前と同じだよ」

 「へえ、となると転生者、いや転移者同士の対決になるってことか」

 ナグルは面白そうに言った。

 「お前、俺がわからないか?」

 「あ? お前を見るのは初めてだぞ? たった今会ったばかりで何が分かるってんだ?」

 やっぱり何も覚えていないか。

 「聞け。俺とお前はこの世界でずっとクリエトとデストロの茶番に使われていた。おかけでこの大陸の人間以外もう誰も残っていない。あいつらと俺たちのせいで皆戦争で死んでしまったからだ」

 「ああん? 何訳わからねえこといってやがる? 俺様を混乱させようったってそうはいかねえぜ?」


 そうだ。

 こいつはいつもこんな調子だった。

 人の話は聞かないし倫理観はぶっ壊れていると言っても過言ではない。

 俺がこれまでこの戦いは茶番だと何度言っても奴は聞く耳を持とうとはしなかった。

 かろうじて聞き入れそうなときでさえ、神共の邪魔でそれは叶わなかった。

 だが今回は違う。


 もう対話の必要はないだろう。

 今まで奴と協力して神を倒すべきだと思っていたことが間違いだったのだろう。

 このまま奴を通せば、ディフェンの人たちを容赦なく殺戮していくだろう。

 だから俺はあいつを殺すつもりで止める。

 始めから全力だ。

 

 「悪いが、俺は殺す気で行くぞ」

 俺は全速力で奴に近づき攻撃を仕掛ける。

 初めから神魔法を使い全力で奴を白い炎で焼き尽くす。


 「おっと!」

 奴は手のひらから赤黒い炎を出して俺の攻撃を防いだ。


 「いきなりか。初めて会ったんだから少しくらい話したっていいじゃんかよ」

 奴は呆れた様子で話しかける。

 「黙れ。お前と話すことは俺にはない」

 「そうかよ」

 

 ナグルは俺の顔に自分の手を掲げた。

 「じゃあ死ねや」

 赤黒い炎が俺の顔を包もうと手のひらから発生した。

 「くっ!」

 俺はすぐさま避けて距離をとる。

 「どうやら勇者ってのも俺様の敵じゃねえようだな」

 奴は俺を嘲笑しながらゆっくりと近づいてきた。

 

 「この感じなら俺様が全力を出す前に殺しちまうかもな。少しは喧嘩慣れしてそうな感じだが、その程度だろ? 殺し合いの中に身を置いたことがない奴に俺様は殺せねえよ」

 ナグルはニヤついた顔で俺に無防備を晒す。

 傲慢で絶対的な自信がある証拠だ。

 こいつはいつもそうだった。

 俺の中にある記憶の全てに、こいつの傲慢から油断する姿がある。

 

 ブォン!!


 「!!」


 俺はすぐさま素早さと攻撃力の全力を使い奴の顔に神魔法の力を込めた拳をお見舞いする。


 「ぬぉっ!!」


 奴は後方へと吹き飛んだ。

 いや吹き飛んだわけじゃないな。

 わざと後ろに自分から飛ぶことで俺の攻撃のダメージを軽減したな。

 思ったほどの手応えを感じなかったからな。


 「ぐぁあ! あちぃ!」

 

 奴は自分の顔に纏った白炎に悶え苦しんでいる。

 だがそれも奴の持つ神魔法による赤黒い炎で白炎を飲み込むことで消してしまう。


 「い、いてぇ! お、俺様の左目をてめぇ! よくも!」


 見るとナグルの左目が白炎にやられた影響か焼け爛れてなくなってしまっていた。

 

 「くそ! だけどな!」


 だが、焼け爛れた皮膚から赤黒い炎が発生し左目全体を包み込んだ。

 炎が消えた頃には左目は元通りになっていた。


 「この通りよ! 俺様の邪神の魔法さえありゃ、お前の神の力なんざ怖くもねえってわけさ!」


 すっかり元通りになり、ナグルは自信満々な表情をした。

 

 「やっぱり短期の決着は無理か……」

 俺は思わず舌打ちをしてしまう。


 「ま、なるほど少しはやるじゃんかよ。なら、もう本気で殺っちまうか。デストロのやつもうるせえことだしな」

 「まさか……」


 俺が言い切る前にナグルは自らの力を開放した。

 赤黒い禍々しいオーラが周辺の壁を破壊する。

 

 「全力だあ!」

 オーラの余波によりナグルの周りのディフェンの壁は吹き飛んでしまった。

 付近の都市の建物にも被害が行ってしまっていた。


 「それじゃあ、殺すか」

 オーラは完全にナグルを包み込んだ。

 この状態になったら神の力を使わないと触れることすらできないんだ。

 ちくしょう。こうなっちまうと俺も全力を出さざるを得ない。

 だがこれじゃ、今までの戦いの二の舞だ。

 大陸中を巻き込み、敵味方関係なく神の力の余波に殺されてしまう。

 ナグルはそういう奴だ。

 魔王になろうとも、平気でそいつらを巻き込んでしまう。

 俺はずっとこいつと戦ってきたが、仕留めることは一度もできなかった。


 だけど、


 (ノクスの分身体が最高神のところまで行ければ)

 時間稼ぎ。

 それが今回の戦いの目的である。


 ここで俺がナグルと戦うことになるのはかなり早い。

 今まではもっともっと後になっての戦いだったからな。


 「だったら……」

 俺は神魔法を解放し、全身全霊の素早さのステータスを発揮して奴の顔を鷲掴む。


 「むっ!?」


 俺は地面を蹴って地平線の向こうにまで全力で飛んだ。

 「何をしてやがる!」

 

 突然のことで対応が遅れたナグルが我にかえり、俺に反撃をしてくる。

 

 (ここまでくれば)

 俺はナグルの攻撃を避けて奴から距離を取る。


 「くそっ。なんだってんだ!」


 今俺たちがいるのは、荒れ果てた大地が広がる場所であった。

 俺がとにかくディフェンから離れるために魔族側の方へと飛んだ結果である。

 ここはとにかく何もない。

 あるのは荒れ果てた大地と枯れ果てた木がまばらにあるだけ。

 こんなところに魔族は住んでいるのか……。


 「ちぇ、何をするかと思えば、魔族連合のところまで自分で飛ぶとはよ」

 「ここなら思い切りやれるからな。お前には死んでもらう」

 「おお、そうかよ。ようやく全力でやる気になったか」

 ナグルは嬉しそうだ。

 こいつは支配云々よりも戦いを楽しみにしている奴だからな。

 こいつ自身は気づいていないっぽいが。

 

 「お前を殺し、クリエトも殺して、俺は覇者となってやる。そして俺を頂点とした永遠の繁栄を築いてやるのさ!」

 ナグルは高笑いしながら、自分の野望を語る。


 「つーわけでいくぜぇ! 勇者さんよお!」


 ナグルは全力で俺に距離を詰めてきた。


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