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第四十五話 茶番



 外へ出た俺たちは森の少し開けた場所へ来た。

 「ここから私が風魔法であなたの分身を空高く勢いよく飛ばします」

 『それでオイラの分身が最高神様の元へ行って救援を呼ぶんだな?』

 「はい、そうです」

 『確認だけど、やっぱりお前のその力であいつらは葬れないのか?』

 「そうしたいのは山々なんですが、残念ながら奴らを消し去る力はありません。そもそも今私が持っている力自体が奴らからの借り物でしかない。ノクス様のおかげで奴らは肉体を失い、力自体は半減していますが、その状態の奴らを消し去るには私が持っている力では無理なのです。そうだったよなジーゼ?」

 俺はジーゼに聞いた。ジーゼと初めて対話した際に実は神の殺し方について聞いたのだ。

  ジーゼが口を開いた。

 『ああ、そのためには別の神様のお力が必要になってしまう。ノクス様や奴ら以外の力が込められた神魔法さえあれば、奴らを葬ることができる。ノクス様の黒魔法でも葬ろうとしても奴らはその力をわずかでも吸収してしまった。そのせいで黒魔法に対しての耐性が出来てしまっている。だから黒魔法では完全に消し去ることはできない』

 そういうとノクスは「そうか」と悲しそうな声で言った。

 「いわゆる免疫のようなものです。全く免疫のない状態で致死量の菌やウイルスをぶつければ、それで消し去ることができるのです」

 『だからそのために最高神様を呼ぶということだな。できれば近くの世界を管理している神に救援を送りたいところだったが……』

 ノクスは口ごもった。

 『こんな辺境あたりの世界を管理している神々じゃあいつらには対抗することは難しいだろうな。なんたって力を失う前のオイラが一番このあたりじゃ一番強い神だったからな』

 少し自慢げにノクスは言った。

 『んな自慢はいい。とにかく早く分身を作れ! 時間がないんだ!』

 ジーゼがノクスに催促する。

 『わ、分かったってば! いくぞ!』

 ノクスが両手から黒いオーラが出ると、オーラは徐々に小さな人影を作り始める。

 『ふう、これでよし』

 さらに小さいノクスが形作られた。

 『ヨシ! ハヤクオレヲトバシテクレ!』

 作られた小さな分身ノクスの甲高い声が耳に響く。

 「はい! いきますよ! 私が空に向かって右手を掲げますので、その手のひらの上に乗ってください」

 『コ、コウカ?』

 分身は恐る恐るちょこんと俺が掲げた右手のひらへと乗った。

 『行きますよ? ウインドチャージ!!』

 

 ギャルルル!

 

 俺が風魔法を唱えると右手に空気の渦が現れた。

 『オ!? オオ!?』

 分身ノクスは少し動揺している様子だ。

 「勢いよく行きます! 分身ノクス様もそれに乗じて奴らの追跡圏外へと飛んでください!」

 『オウヨ! マカセトケ! サイコウシンサマニコノコトヲツタエルダ!』

 分身ノクスはグッとサムズアップした。

 

 「では発射します! 3、2、1  ウィンドバースト!!!」


 バンッ!!!


 大きな音と共に右手の風魔法が勢いよくノクスを空へと飛ばした。

 分身ノクスはあっという間に豆粒くらいの大きさに見えるくらいまで遠くまで行った。

 

 「よし! あとはこのまま……   あれはっ!!」

 黒い豆粒を追いかけるように赤い光が勢いよくどこからともなく飛んできたのが見えた。

 「させない!」

 俺は黒魔法の力を指先に一点に集中する。

 「いけ!!」

 俺はスナイパーのように赤い光に向かって黒魔法の弾丸を飛ばした。

 それに反応したのか赤い光は数俊ほど止まった。

 その間に分身ノクスは豆粒ほども姿が見えなくなった。


 『おお! やったぞ! あとはこれで最高神様のところへと向かってくれれば!』

 「ええ、クリエトデストロのふたりはおしまいです」

 『でもやっぱりその間に世界が滅ぼされる可能性もあるよな?』

 「そこはもはや賭けでしかありません。私も命をかけて足掻いて見せます!」

 俺は不安な表情をするノクスにそう言った。

 『……そうだよな……どのみちこのままじゃ殺されちまうんだ。もうオイラが選んだことだ! それじゃ作戦通りにオイラはまた分身を作る! ヨシキ……でいいんだよな? 頼んだぞ!』

 「はい! おまかせを!」

 




 ×

 『なんてこった! あの野郎!』

 デストロは遥か彼方まで行ってしまった黒い光を睨みつけた。

 『ありゃ分身ってところか。大方あの最高神ジジイに救援要請でも送ったか。ちっ! こりゃ面倒だな……』

 舌打ちをしてあとにデストロは下を見た。

 『さっきの攻撃、かなりの威力だ。あの臆病神おくびょうがみめ、まだそんな力があったとはな。だが……』

 デストロはニヤリと笑った。

 『もう逃げられねえぜ? 位置は分かったからな! やっとちょこまかとうるせえ蟻を潰せるってもんだぜ!』

 デストロは黒魔法の力の波動を感じ取り勢いよくノクスがいるであろう場所へ急降下する。

 『ノクス! てめえごとき、“仮の肉体”でも十分よ!』

 急降下しながら赤黒い光を帯びた身体が急速に作られていく。

 

 ドン!


 デストロの着地の衝撃であたりの地面に亀裂が走った。


 「さてと、臆病神のノクスくんよぉ。覚悟はできてるかぁ…って、ん? あいつは……」

 デストロの視線の先には、かつて戦った全盛期のノクスとボロボロになっているクリエトの駒の姿があった。

 「お、お前は誰だ!? この黒いやつの仲間なのか!?」

 (たしかヨシキだっけか? なんでここに……いやそれよりもこの状況はなんだ?)

 ヨシキは仮の肉体を得ているデストロの姿を見て驚いている様子だ。

 「くそ! ディフェンに転移したと思ったら、一体全体どうなっているんだ! いきなりこいつに襲われて、さらには別のやつまで!」

 ヨシキは訳がわからないと言った様子で騒いでいる。

 (ふん、なるほどわかったぞ)

 どんな手段を使ったかは分からないが、ノクスはヨシキをここに引っ張り出して倒そうとしている。

 (まったく駒を殺すなぞ、そんなことをしても意味がないのに。やはり馬鹿だ。だが……)

 デストロは空を見た。

 (分身を作って尚且つそれを勢いよく飛ばし助けを求めるのは想定外ではあったな。それにあの姿……まさかまだ自分の姿を維持できるほどの力が残っていたとは思わなかった)

 デストロはノクスを睨みつける。

 『ふん! 最期の足掻きのつもりか? どの道お前は死ぬ。大人しく怯えていれば、最期の時はずっと先だったかもしれなかったのになぁ』

 『私はもう逃げぬと決めた! これ以上この世界をお前たちの都合で好き勝手に荒らさせはせぬ!』

 ノクスが啖呵を切った。

 『はっはっは! お前がそれをいうか! お前だって同類のくせによぉ! お前自身やっていたことはそこまで俺たちと変わらねえだろ?』

 『黙れ! 私はもうお前らのような神ではない! 私は自分の間違いにやっと気付いたのだ! もっとも気づくのが遅すぎたがな……』

 『それでもやったことは消えねえぞぉ? あの最高神ジジイに助けを求めたところでお前も裁かれるんだ!』

 『……構わぬ! お前たちを止められるならな!』

 ノクスはデストロに向かい構えをとった。

 「く、くそっ! 一体どういうことなんだ!?」

 変わらずヨシキは膝をついている状態だ。

 身体にわずかだが黒魔法の残滓がひっついているのが見えた。

 『なるほどな。少なくとも駒を膝つかせるくらいの余力はあるようだな』

 『黙れ! 最高神様を待たずとも今ここで消してやる!』

 『それが出来ないから最高神ジジイに泣きつこうとしてるんだろぉ? 死ぬのはテメエだぁ!』

 直後、ほぼ同時に二人の神は地面を蹴り、攻撃を放った。

 わずか数俊の間に攻防の応酬が繰り広げられる。



 ◆

 

 (分身とはいえ、デストロと渡り合っているとは)

 俺はノクスの分身とデストロの戦いを見ていた。

 『オイラが存在するのに必要最低限の力以外の残っているほぼ全てを分身に注いだんだ。ま、ジーゼの力も借りたんだけどさ』

 『そのおかげで俺はもう霊体のようにヨシキの外へ出ることはしばらくはできないけどな』

 俺の中でノクスとジーゼの声が響く。

 『だけどこれでとりあえずはオイラの身の安全は保証されたってことでいいんだよな! レジスタンスの皆も安全な場所に転移させたしな!』

 「ええ、ですが完全ではありません。奴らが私の中にいるあなたに気づく可能性は決して低くはありません。そのために私の中で再び身を潜めてください。彼らに関しても黒魔法を用いて一時的にブルハルト大陸の端も端にある場所へと避難させています。」

 『いわれなくてもそうさせてもらうよ。オイラはまた隠れさせてもらう』

 「ノクス様、作戦へのご協力に感謝いたします」

 『よ、よせやい。オイラは出来ることをしただけだし……』

 ノクスは照れくさそうな様子で言った。

 『ともかくあの分身をデストロが倒すことで奴らの中ではノクスは完全に消したと思い込むだろう』

 ジーゼが口を開いた。

 「ああ、そして最高神様に助けを求めた今、奴らは計画を早める」

 『魔族と人間の大衝突が近い内に起こるだろうな』

 「もうやつらもゆっくりと茶番を楽しむ真似はしないってことだ」

 俺はこれまでの那具流との戦いを思い出した。

 これまでも俺は那具流との戦いで大陸全体を巻き込み、その大陸に住む人々を死なせてしまったのだ。

 俺はもうこんなことはしたくない。

 ここで止めなくては奴らは別の世界でまた同じことをする。

 次の標的な地球になる可能性だってある。

 家族……はどうでもいいが、俺がお世話になった人たちが殺されてしまう。

 それは絶対に阻止せねばならない。

 

 『ヨシキさん!』

 「!」

 聞き覚えのある声が後ろの方から聞こえた。

 脳に響くような声じゃない。

 (ということは)

 俺は後ろを振り向いた。

 『よかった! 無事だったのですね!』

 デストロは対照的に真っ白な人型がそこにいた。

 「そ、その声は……クリエト様? 一体そのお姿は?」

 俺はまるで初めて見たかのように目の前のクリエトに質問した。

 『話はあとです! 今すぐここから脱するのです!』

 「く、クリエト様!」

 クリエトは俺の腕を掴むと地面に真っ白な魔法陣が出現した。

 「うわ!」

 目の前が真っ白になった。

 

 数俊後、視界が晴れると高く聳え立つ外壁と開かれた巨大な門が目の前に現れた。

 「こ、ここは?」

 『要塞都市ディフェンの入り口です! 早く中へと入りましょう』

 クリエトは俺の腕を引っ張って、共に門をくぐった。

 

 「ここがディフェン……」

 俺は周りを見渡す。

 円形の外壁がぐるりと都市を囲んでいる。

 この外壁が敵の襲撃から守ってくれるのだろう。

 街を行き交う人たちは兵士や冒険者などの戦いに心得のある者たちがかなり多く見受けられた。

 これから戦いが起ころうというのだから、それは当然か。

 本当は争う必要のない無意味な戦いだというのに。

 

 『ふぅ……ここまでくればもう安全ですね』

 クリエトがそういうと真っ白な肉体が瞬時に光の粒子となって消えた。

 「消えた!?」

 俺は初めて見たかのように驚いたふりをする。

 『驚かせてしまい申し訳ありません』

 俺の耳奥に響き渡るようにクリエトの声が聞こえた。

 「一体何が起こっているのですか!? それにあの黒いやつはなんなのです!?」

 『本当に申し訳ありません! こちらとしても想定外のことだったのです!』

 クリエトはかなり動揺していることが声色で分かった。

 『転移前にあなたはサイロと握手をしましたね?』

 「え、ええ」

 『おそらくですが、それが原因です』

 「どういうことですか?」

 『残念なことですが、サイロは裏切り者だったのです!』

 「サイロさんが裏切り者!? あの人はクリエト教の司祭でしょう!?」

 『彼はずっと私を騙していたのです。本当に予想外でした。彼は黒き神を信仰する恐るべき邪教の信徒だったのです』

 「えぇ!?」

 『申し訳ありません。ただただ私の失態を詫びることしかできません。しかし今後絶対にこのようなことは起こさないことを誓いましょう!』

 「あの、彼はどうなったのですか?」

 『今はこちらで拘束しています。情報を聞き出したのちに処刑します。ご安心を』

 「!?」

 クリエトの一言に俺は目を見開いた。

 そ、そんな! このままじゃサイロさんが!

 『本当に……デストロとの決戦前にこのようなことが起こるとは思いませんでした』

 「あのクリエト様!」

 『ん……なんでしょうか?』

 若干クリエトの口調にイラつきが見られた。

 「あの黒いやつは一体誰なのです!? まさか黒い神!? 転移後に私は奴に襲われたのです! 一体やつは……それに赤い人型のやつが現れたと思ったら急に二人で戦い始めた! 何が起こっているのです!」

 俺は怪しまれないように必死な様子を演じて質問をする。

 どれも答えは分かりきっているが、ここで聞かねば不審がられてもおかしくはない。

 『…………そうですね。あれを見てしまった以上は説明をしなくてはいけませんね。はぁ……私としてもまさか生きていたとは思わなかったものでしてね。それにこのような手段に出るということも』

 少しの沈黙の後にため息混じりでクリエトは言った。

 『しかしここにずっと立っているわけにはいかないでしょう。まずはみなさんがいる場所へと向かいましょう』

 「は、はい」

 俺はクリエトの声に従って歩き出した。


 

 俺はクリエト教の聖堂へと辿り着いた。

 そこにプレクルミの皆とクオルがいた。

 「ヨシキさん!」

 リーゼが俺を見るやすぐに駆け寄ってきた。

 「大丈夫でしたか!? お怪我は!?」

 「ああ、大丈夫だよ。怪我もヒールで治っているしさ」

 ここに来る道中で俺はヒールをかけて身体を回復させた。

 そんな必要はなかったが怪しまれないために行ったのだ。

 「ヨシキさんが裏切り者の策略により黒の神のいる場所へと転移され命の危機に瀕しているとクリエト様はおっしゃいました! まさか……サイロ様……いえ、サイロが裏切り者だったなんて!」

 リーゼはサイロさんを呼び捨てにするとこの上なく悔しそうな顔をした。

 「かの者はデストロを産みしあの黒き神の信奉者だったのです! ヨシキさんを消すために黒き神の元へと転移させたとクリエト様からお聞きしましたのです!」

 リーゼの瞳孔は開いておりどこまでも冷酷に見えた。

 彼女はクリエト教徒だ。その神が言ったことだ。疑うことなんてないだろう。

 クリエトとの言ったことが彼女にとっての混じり気のない真実なのである。

 「そうだったのか……あの人がそんな……」

 俺はリーゼの言葉にショックを受けたかのように答えた。

 「気持ちは分かります。私も悔しいです。間近にいながらかの者の企みに気づかなかった私の不甲斐なさをただただ恥じるばかりです」

 彼女は俯きながら拳を強く握りしめた。

 『ヨシキさん、彼らと共にこの教会の儀式部屋へと向かってください。そちらで先ほどの黒い神への説明と今後のことについて皆と共有しなくてはなりません』

 「分かりました」

 俺がクリエトの言葉を告げると、皆と一緒にこの聖堂の儀式部屋へと移動した。

 


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