第三話 クリエト教の教会
「ここが教会なのです!」
リーゼちゃんが教会を指差して俺に言った。
これもRPGでよく見るような教会だぜ。
ただ田舎町だからか俺がイメージしている教会よりも少し小さめだな。
「司祭様。失礼しますです」
「ん? おお、リーゼか。それにお二方も」
教会に入ると老年の男性がいた。
男性はリーゼちゃんたちを見るとにっこりとした。
おそらくこの男性が司祭様だろうな。
3人を見たあとに司祭様は俺と目があった。
俺はそれに合わせて軽くお辞儀をした。
「ふむ、どちら様でしょうか?」
怪訝そうというよりかは純粋に疑問に思っているという顔で尋ねた。
ま、当然だよな。
「はいです。こちらはヨシキさん。私たちプレクルミを助けてくれた命の恩人です」
リーゼちゃんが俺の紹介をしてくれた。
「はじめまして、ヨシキといいます」
俺は自分の名前を言って頭を下げた。
挨拶は基本だからな。
「なんと……あなたがリーゼたちを……感謝の言葉もありません。ありがとうございます」
司祭様は笑顔で深く頭を下げてお礼を述べた。
「そんな当然のことをしたまでです。頭をお上げください」
俺がそういうと司祭様は頭をあげた。
「あなた方が戻ったことは町のみんなが話していたのですぐに私にも伝わりましたよ」
司祭様が本当に良かったという顔で言った。
「はいです。すぐに顔を見せたかったのですが、はじめにギルドの方へと報告に行っていたのです。申し訳ありませんです」
「いやいや、気にすることはない。こちらもさきほどまで教会の仕事をしていて、すぐに会いに行くことができなかったからな。こうして無事に戻ってきただけで私は嬉しい」
リーゼちゃんの謝罪に司祭様は柔らかな笑みで答えた。
多分長い人生経験ってやつなのだろうが、深みってやつをこの人に感じるぜ。
「おっと、申し訳ありません。自己紹介が遅れました。私はサイロ。サイロ・マクダエルと申します。このサリーアの町の教会で司祭を務めております」
サイロさんと言うのか。
よろしくだぜ!
「さて、君たち。ここに来たのは顔を見せにきてくれただけではないようだね?」
サイロさんが言った。
「はい。実はヨシキさんについて調べてもらいたくて……」
今度はベルちゃんが口を開いた。
「調べる?」
サイロさんはハテナを浮かべた。
「彼とはマームの森で会いました。しかしヨシキさん自身の記憶がないそうなのです」
「記憶がない……。本当ですか?」サイロさんが質問した。
「はい……。すみませんが、あのマームの森という所で目覚める前の記憶がないのです」
俺は自分の記憶喪失設定を話した。
異世界転移なんて信じてもらえないと思うしな。
ベルちゃんは冒険者ギルドでの出来事とステータスの件、神の加護のことも話した。
もちろんその過程で俺のステータスも見せた。
サイロさんもやはり目を丸くして心底驚いている様子だった。
やっぱりこれはすごいということでいいんだな。
「……なるほど、それでヨシキさんについて神の御言葉をお聞きしたいということだな?」
「ええ、その通りです」
モニカちゃんが言った。
「分かった。すぐに儀式の準備をしよう。もちろん交信できるのはクリエト様次第ということになるがいいかね?」
「もし今日がダメなら日を改めてまた来ます」
「いいだろう。ではさっそく準備を始めよう。少し待っていてほしい」
サイロさんはそう言うと、どこか別の部屋へと入っていった。
「お待たせした。さあ、どうぞ」
俺は中へと案内された。
「おお」
中に入ると小さな正方形の部屋に真ん中には如何にもな魔法陣が地面に描かれていた。
綺麗に円が書かれており、外側に対称的に紋様が掘られていた。
まじで儀式って感じがするぜ……。
それによく見ると微かに魔法陣が光っている。
「魔法陣が光っているです! ということは……」
「ええ、儀式は成功しています。今、神と交信が可能になっていますよ」
マジか。こんなあっさり話せるようになるのか。
「今、少しクリエト様とお話をしました。ヨシキさんをここへ呼んでくれとのことでしたので…。ヨシキさん、どうぞ魔法陣にお入りください。どうやら二人きりでお話をしたいようですので、私は魔法陣からでますね。」
「は、はい」
この中に入ると声が聞こえるってことなのかな?
サイロさんと入れ違いで俺は魔法陣の中に入った。
『どうも。さっきぶりですね』
え!? この声って?
「え、もしかしてクリエト様って……」
『はい。わたしです』
マジかよ。俺を異世界転移した神さんじゃねえか。
早すぎる再会だ。
というかもう一度声聞けると思ってなかったぜ。
え、ってことはこれワンチャン記憶喪失の嘘がバレるか?
ちょっとそれは勘弁してもらいてーなあ。
「ああ、安心してください。魔法陣内での会話は外には聞こえませんから」
おお、とりあえずは安心かな。
『ここに来るまでの少しの間の動向はずっと見させていただきました』
「え、ずっと見てたってことか?」
『はい。死なせてしまったお詫びで転移して、はいおしまいでは神としての格を問われることになりかねませんので』
「そこらへんの事情は知らないが、要は俺を見守ってるって形でいいのか?」
『ええ、そのように考えていただければ結構です』
「へえ。俺一人ずっと見てるって神って結構忙しい存在じゃないのか? いいのか俺ばっかり見てて」
『それについては心配いりません。我々神の世界は色々と時空の仕組みが違うので、たとえ、そちらの世界で私への呼びかけを各地で同時にしたとしても、私は一斉に別々に対応することができます』
「え、なにそれ。すごくない?」
『法則が違うので』
うーん。よくわからん。ま、とにかくすごいってことでいいか。
『それでは春馬芳樹よ……』
あ、最初に俺が聞いた口調になった。
『あなたはこの世界で何をしたいと思っていますか?』
何やら真剣さが見える。
それは決まってるさ。
「冒険者になって、この町で楽しく暮らすぜ! あ! でもこの世界を旅するのも悪くないな! ま、それはおいおい考えることにするか」
もう冒険者になることは俺の中で決定事項だぜ!
『……ふふ、そうですか。分かりました』
神さん、なんか嬉しそうだな。
『では、4人をこの魔法陣にお呼びください。彼女らにあなたのことを説明しなくては』
「え? 異世界転移のこと説明するのか?」
『いえ、それは言いません。ですがあなたが記憶喪失という設定を交えて、カバーストーリーをお話しします』
「まあ上手く説明してくれよ。手違いで死んでお詫びで来たなんで恥ずかしいからよお」
『おまかせを。ではお呼びください』
「分かった」
俺はプレクルミの3人とサイロさんを魔法陣へと呼んだ。
神の声を聞いたリーゼちゃんはすごい興奮していた。
身体を揺らして感情を露わにしおり、同時にたわわな部分も揺れに揺れた。
ベルちゃん、モニカちゃんはすごい畏まった態度になった。
まあ、仮にもこの世界での神なんだから当然か。
神さんは4人に説明をした。
カバーストーリーはこうだ。
俺は元々別大陸からやってきた旅人で神から世界を見て回り、邪神の呪いを見つけて取り除いていくという使命を帯びていた。
邪神の呪いとは邪神が送り込んだ手のものが持つ世界を混沌に陥れる力であり、それが漏れ出るだけでも周囲に甚大な被害を与えるのだという。
多くの呪いを取り除き、そしてその最後の使命を果たすためにこのマームの森にて、それを取り除くために戦ったが、敵の死の間際に特殊な魔法を受けてしまい記憶喪失になり気絶したということらしい。
これで俺の使命は完了したことになり、俺が町にずっといてもOKな言い訳ができたってことだ。
いや、それでも苦しい理由だと思うけどな。
以上が俺のこの世界での設定だ。
だが邪神の呪いっていうのは作り話じゃなくて、マジであるものらしい。
そして邪神というのも実在するようだ。
4人の反応を見るに嘘ではないないだろう。
「……そうだったのか……」
「大変だったのね……お疲れ様だわ」
「うう! 長い間戦ってこられたのですね! 本当にすごいです!」
「ふむ……………そういう」
神さんの話が終わると4人の反応はさまざまだった。
『そういうことになります。皆様方……どうかヨシキさんの暮らしを支えてはもらえないでしょうか?』
「もちろんです!」
リーゼちゃんが元気よく言った。
他の3人も同意した。
「それでは……」
そういうと声が聞こえなくなり、魔法陣の光も消えた。
「……まあ、そういうことらしいので、よろしくお願いします」
俺は改めてみんなに言った。
「はい! よろしくお願いしますです! 使徒様!」
え!? 使徒様!?
リーゼちゃんがなんか崇めるような態度で俺に深々と頭を下げた。
そりゃあんな言い訳じゃあ神の使いなんて扱いになっちまうか。
「ちょっと! あの! そういうのはいいので! 大丈夫ですよ!」
「いえ! 使徒様の長き戦いでの疲れがいやせるように、このリーゼ・シュトラウス……一生懸命にがんばるです!」
ああ、リーゼちゃんが張り切ってるよお。
こりゃ罪悪感だぜ……。
俺はただ手違いで死んだ一般人なのによ。
力も加護で強化された貰い物だしな。
今からでも言うか……。
いやもうこれ言い出せないな……。
やはり俺は小心者で卑怯なんだ……許してくれとは言わないぜ……。
「あたしたちもできる限りのことをしたいと思います。使徒様」
「私もです。使徒様」
ああ! ベルちゃんやモニカちゃんまで!
「いや、あの! 本当に別にそういうのはいいので! 大丈夫ですから!」
俺はなんとか崇めるような態度をやめるように言った。
その後はサイロさんに別れを言ってから教会を後にしたのだった。
▼
その夜、皆が寝静まった頃。
教会での儀式部屋で一人、サイロが魔法陣の中にいた。
魔法陣は光り輝いており、儀式中であることが伺える。
「それでは頼みました。彼の監視をお願いしますね」
神の声が聞こえる。
「はい。おまかせくださいクリエト様」
「彼が聖の勇者に相応しいか。どうか見極めてください」
「分かりました」
サイロは答えた。
そして神の声は消えて、辺りは暗くなった。
真っ暗闇にただ灯の日が揺れるだけだった。
×
「う、うーん? ああ?」
なんだ?
俺様は死んだはずじゃ?
「……んだよここ?」
地獄か?
だとしたら納得だが。
「……荒廃した大地。それしかねえな」
見渡す限り、緑もねえ。
ぺんぺん草もねえじゃねえか。
あっても枯れ木がまばらにあるだけだ……。
『くっくっく。困惑してるようじゃねえか?』
「あん!? 誰だ!」
『お前の頭に直接語りかけてるんだ。探してもいねえよ』
は? 何意味わからねえこといってやがる?
『なあ、お前世界を支配したくねえか?』
「は?」
俺様は素っ頓狂な声をあげていた。
そのときの俺様は、こっから壮大で偉大な歩みが始まるとは思っていなかった。