始まりの世界。-2
変わらない風景の中を長い時間歩いたのち、
(日も傾いてきたし流石に昼の間にどこか寝泊まりできるところを見つけたいな)
と思ったアウスは魔法で速度を上げることにした。ただし普通の魔法は使わない。というのも試したいことがあったからだ。
アウスが魔力を履いているブーツのつま先のあたりに少しだけ流してやると、ミスリル製の靴底が光りだした。そのまま歩き出そうとした、がかなりの速さで吹き飛んだ。なんとか頭から落ちることは回避したアウスは
(魔力濃度が高すぎるせいで効果も倍増してて使いにくいな...)
と思ったのですぐさま行動に移す。ブーツの効果を止めてから取り出したのは先ほど結界の展開に使った魔石だったもの。
「【魔法付与:魔力吸収】」
魔法を付与したそれを両方のブーツに括り付ける。もう一度魔力を流してやると今度は吹き飛ばずに素早く走ったり歩いたりできるようになった。
(周囲の魔力の状態に応じて効果を増幅させたり減衰させたりする機構をつけたほうがよさそうだな。)
ただ今の課題は町か村を見つけることなのでそれは一旦後回しにして強化された移動速度で進んでいく。
大分日も傾き橙色の空が広がるようになってきた頃、やっとの思いで街道にたどり着いた。
(あっちの方角に若干明かりが見えないか?)
アウスが目を凝らすと確かにそこには少しだけ明かりのともる村が見えた。もう時間もないので魔法を使って移動することにした。
「【魔法実行:空間転移】」
使った魔法は【空間転移】。空間と空間を入れ替える魔法で使用者が見える範囲で相対的な位置か使用者が記憶する場所の絶対的な位置に対して使うことができる。アウスもこの魔力の環境であまり使いたくはなかったがもう日が沈みそうなので仕方なく使った。夜になると太陽からの聖魔力が受けられずに魔物が出現しやすいからだ。そして村があるということは何らかの方法で夜も魔物の攻撃から逃れられるということだ。
そして移動した先は村のはずれ、入り口からは見えないところだった。思っていたところとは少しずれていたが失敗ではないだろう。ひとまず第一の問題は解決した。
(なんとか村に着けたはいいが、問題が山積みだな。)
というのもここは別世界。元の世界ですら場所によって言語が違うのに世界が違えば同じなわけがない。もしかしたら元の世界と近い枝分かれの世界でたまたま元居た地域に近いということもあるかもしれないがあまりそれも期待できない。さらに問題は言語だけではない。感覚や常識だ。これらを間違えれば法に触れて投獄、ということもないとも言い切れない。ともかくこの世界の社会について知ることが急務であった。
(とりあえず姿が見えないようににしておいたほうがいいだろうな。)
変に見つかって声を掛けられれば会話が通じず不審に思われるのは間違いない。
「【魔法実行:光透過、遮音、遮熱、魔力封印、冷却】」
一通りの隠蔽魔法の類を自身と装備品に付与したアウスは村の中へと入る。と同時にある魔道具も起動する。
(生活水準はそんなに悪くなさそうだが...魔法水準の向上で必ずしも生活の質が上がるわけではないのか?)
いろいろと見て考えているが、村の中に入った目的は視察がメインではない。
(人がいる。これなら大丈夫そうだ。)
手に持った魔道具を見て思うアウス。この魔道具は会話文と話者の意志を汲みとってその言語に対応する翻訳魔法を創るのに必要な素材を集めるものだ。効果範囲はかなり広い。そのままこの魔道具のように相手の意志を汲みとる魔法もあるのだがいかんせん頭の中で考えていることだけでは意思疎通に限界がある。
しばらくこれからのことについていろいろ考えていたアウスだが、持って来ていた保存食の夕食を食べたらだんだんと眠くなってきた。
(とりあえず明日になったら翻訳魔法が使えそうだからそれを待とう。)
そんなことを考えながらこれまた厳重な隠蔽とさらに防御魔法の施された簡易テントの中で眠るのであった。
毎週木曜・日曜投稿予定。そのほかの曜日もやる気があるときは投稿します。
コメントいいね高評価モチベーションの維持につながるのでお願いします。
他作品と似ている設定、名前、展開などがありましたらコメントにて教えていただけると修正するときに助かります。また、こんな設定入れてほしい、こういう世界に行ってほしいなどの要望も可能な限り答えさせていただきます。