絶望的状況
「当てよう、君の正体。超常対策秘匿機関だな」
ずばりと所在を当てられてしまう。だが葵はポーカーフェイスを崩さない。
「沈黙は肯定とみなすよ」
葵と三人の距離は2メートル。この距離での逃走は不可能に近い。
下手な動きもできない。
「仮に。もし仮に私がそのなんたら機関の人間だったらどうなるの?」
「そうだな。場合によってはここで始末させてもらうかな。始末するのは簡単だ。少し質問をさせてもらおうか」
「どうぞ」
「では聞くが、赤城。君は何故心神振興会に近づいた」
「興味があったから」
「そうか。なら君は何と契約している」
「知らないわ」
「知らない?契約している相手のことを知らない訳がないだろう?」
葵は二度目の問いに無言で返す。
「黙秘するということかな?」
「お前、いい加減何か喋ったらどうなんだ!?」
黙って聞いていた本部が腹を立てて今にも葵にとびかかりそうな勢いを高木が制している。
情報を漏らしてはならない。敵につかまったら何も喋らずに死を待て。死をもって祖国を守れ。
そういう風に公安で教わった葵は表情を変えずにただ黙っている。
「まぁいいさ離さないのならこのまま死ぬといい」
高木は背後にあるコンテナに手を触れる。
「悪く思わないでくれよ」
高木が振り返ると同時にコンテナは空へと吹っ飛んだ。
吹っ飛んだコンテナは倉庫の天井にぶつかる寸前にグラリと揺れて葵の頭上向かって降ってくる。
ズドン!
と音がした。
だがそれはコンテナの落ちた音でなく、倉庫の外から聞こえてきた音だ。
コンテナは今まさに葵に直撃しようとしている。
だがそのコンテナが地面に落ちることはなかった。
重く閉じられている倉庫の扉がねじれながら開いていく。
開いた扉の向こうには先ほど出ていったハイエースが止まっていた。止まっていたというよりかは、タイヤの半分までが地面にめり込んでいた。
そしてその行為をした者は既に倉庫内にいた。
「流石だな葵。まさかこうもあっさり心神振興会に近づいていたとは、状況的に助けに入ったが。不要だったか?」
誰も気が付かぬうちに葵と三人の間に割って入っていたのは祁答院杏良太。
超常対策秘匿機関の第一部隊所属にして、全人類最強の男と呼ばれる。
To be continued.