ヴェスタ・ニコラス
北太平洋上空。
そこには一隻の船が空を飛んでいた。
空を停滞する巨大な戦艦の甲板には白いカソックを身にまとう一人の男が立っていた。
男は南の空より飛来してくるものを静かに待つ。
「ニコラス様。超巨大な魔力反応がこちらに迫ってきます。この濃度は間違いなく厄災のそれです」
「わかっているよ。僕の目は君ら凡夫と違ってとてもいいからね。こっちは邪魔な厄災をとっとと片付けたいのに余計な邪魔をしやがって。おかげで計画を修正する羽目になってしまうんだから」
既に日は落ちており冷たい風が甲板をかけぬける。
「衝撃に備えな」
突如として巨大な影が戦艦に衝突する。
黒い鋼刃な肉体が月明かりに照らされ、赤い眼光がニコラスをにらみつける。
「龍もどきがあまり強がるなよ。僕はあのどうしようもない滅龍とは違う。ひれ伏せ」
ニコラスがアナザー・ワンを指さし、その指をゆっくりと下へと下げる。
すると急にアナザー・ワンの体は甲板に押し付けられる。
まるで上から押さえつけられるような感覚がアナザー・ワンを襲う。
「すべての現象には何かしらの力が働いている。この意味わかるかな?」
アナザー・ワンは体中から深紅の炎を噴射しだす。
すると空に無数の亀裂が走り、海上を行き交う海賊船の艦隊は見えない糸にでも引っ張られるように空へと浮き上がる。
「空間がきしんでいる。空間もろとも消滅させる気だね」
ニコラスはアナザー・ワンへと近づくとその角をつかみ片手で軽々と持ち上げる。
「僕という存在を相手にしているということをよく思い知るといい」
徐々にニコラスはアナザー・ワンをつかむ力をあげていく。
鋼刃な鱗にひびが入りだす。
それでもアナザー・ワンは技の発動をやめようとはしない。
空間がきしみだし空に浮き上がった帆船がアナザー・ワンへめがけてゆっくりと動き出す。
空に走る亀裂よりまばゆい光が戦艦を照らす。
「まったく君というやつは本当に身の程を知らないな。まだ口をきこうとしないのかい?それは僕の大切な時間を奪う行為だ。僕という偉大な者に対する礼儀がなってない」
ニコラスは一気に力を込めてアナザー・ワンの角を砕く。
砕かれると同時にアナザー・ワンは一気に飛翔してその場から飛び立とうとする。
だがまるでその場に体が肯定されたかのように指一本動かすこともできない。
「角から手が離れれば逃げられると思った?君をつかんでいたのは角を持っていた右の手じゃない。何も持っていないように見える左手だよ。じゃこれ以上君に対して時間を割くのはもったいないから」
ニコラスは右手の親指と中指の腹を合わせアナザー・ワンの顔の前に持っていく。
「そろそろ君の頭でも理解してきたんじゃないかな?僕の持つ力がどういうものなのか。まぁわかったところで今更何もできないけどね。だって僕と君は能力なしで愛称最悪だから」
パチン。
親指に合わせた中指を滑らせて音を鳴らす行為。
いわゆる指パッチン。
たったそれだけ。
たったそれだけのことでアナザー・ワンは絶命した。
一気にいびつな空が消え去り空に浮かび上がった帆船も消え去さる。
「さて彼らの尻拭いも済んだことだし落とされた駆逐艦の代わりをどうにかしないとだね」
To be continued.




