謎の男#2
「こっから一気につぶす」
男は再度武器を入れ替える。
出現させたのは先ほどの短刀。
杏良太はサングラスを外して魔眼で男をにらむ。
「成程な。その短刀は使用者を瞬時に移動させるのか。あ?いやまさか・・・」
「あぁ。魔眼か、というよりそんな驚いた顔して。一体全体どうしたんだ?」
「お前、魔力がないな」
「ご名答。その通りだ。俺には生まれながらに魔力がない。故に探知系の魔法には引っかからない、ノーコストのステルス魔法ってとこだな。だから俺が待ち構えていてもお前はその魔力を視認せずにノコノコ現れたんだろ」
「そうだな。ならそういう相手だと認識したうえで戦えばいいだけのことだ。〈時間潜航〉」
「そう来ると思ったぞ」
男は短刀を空へと投げた。
同時に世界の時間は徐々にその速度を緩やかに落としていく。
すべての時間は限りなく0へと近づいていき祁答院杏良太を除くすべての事象が静止する。
「京都の時と違って魔力は十分にある。数分とはいえ演算術式が説かれたのはまずいからな。とっととかたずけさせてもらうよ」
杏良太は指先に赤い光の球体を出現させる。
「〈赤き星〉」
杏良太の指から放たれた赤い光の球体は男へと向かって真っすぐ飛んでいく。
それは魔力のないものを消滅させる技。
だがその球体は男の体を通り抜けていく。
「なに?いや、まさか!」
徐々に世界の時間の流れが戻りだし、すべての事象が動き出す。
男の体は徐々に透けていきその場から完全に消え去る。
杏良太が空を見上げるとそこには男の肉体がゆっくりと出現しだしていた。
「あの短刀、俺の魔眼から得た情報が確かなら一定距離投擲者より離れると投擲者を短刀の元へ移動させる能力がある。だが俺の魔法より後に投げた短刀が有効距離になるまで明らかに間に合わないはずだろ。どんな馬鹿力で投げてんだ」
男が完全に出現したときには時間潜航の効果は切れている。
男は空中で短刀をつかみ身をひねりながら杏良太へと再度投擲する。
杏良太と男の距離は100メートル以上は離れている。だがしかし、投げられた短刀が杏良太の眼前に迫るまでの時間は1秒にも満たぬ速さ。
短刀の能力有効距離に入り男はまた瞬間移動をして杏良太の目の前へと出現する。
短刀がつかまれると同時にそれは別の武器へと入れ替えられる。
入れ替えられたのは最初に杏良太を刺した刀。
男が振った刀をギリギリでよける。
だが振り切った刀は既に別の武器へと入れ替えられていた。
橙色の光を放つガラスの剣を刀を振った勢いを殺さずに身をひねり一回転して杏良太を切りつける。
痛みはない。
だが切られたという感覚だけが杏良太に残る。
「二回目だ」
杏良太を切ったあと硝子の剣は光を失う。
杏良太は一歩後ろへと下がるが男はそれを見逃さずに一歩半前進すると既にガラスの剣はなくまた別の武器へと入れ替えられていた。
「草薙剣!?」
「ご名答」
「〈グレーターテレポート〉」
剣が当たるより早く杏良太は瞬間移動して男と距離をとる。
「残念。今のは当てたかったんだけどな、フルゲージ使わせてるから一気に致命傷狙えたんだが」
男はまた武器を入れ替える。
「まずいな。あいつの動き、能力を知っているとかそういう次元じゃない。そもそも時間潜航に対応できるのが異常だ」
「何をぶつくさ言ってんだ。そんな余裕、ないと思うがな」
「お前。名前なんて言うだ」
「あ?そんなこと今気にすることじゃねえだろ。闘争において不要な会話だな」
「いや、必要だ。名前を知らない相手を殺すのは可哀そうだろ」
「この状況で俺を殺すとのたまうか。それとも戦うやつの名前聞くのでも流行ってんのか?」
「名乗らないのか?なら当ててやろう。俺が思うに俺を殺すことができうる人間がいるとしたら一度粛清領域を持つ人間を殺しているようなやつ。お前、皇誠だろ」
「あぁ。正解だ」
To be continued.




