援軍
ロゼはそのまま自由落下していく。
薄れる記憶の中で走馬灯が駆け巡る。
「〈タイムオペレーション・ディセラレート〉」
突如としてロゼの落下の速度は減速する。
ロゼは魔法を唱えていない。
朦朧とする意識の中で見たのはヴィレッチ国立魔法大学院が教員、特別クラスの担任であるレイ・ミケルセン教授。
フライの戦闘魔法で空中を浮遊するレイはゆっくり落下してきたロゼを受け止める。
「〈フルチャージ〉」
水魔法の戦闘魔法において高位魔術にあたるフルチャージ。それは対象の外的ダメージを完全修復するもの。
「レイ教授」
「大丈夫か?」
「なぜここに?特別クラスの一年生、ミスエレンから連絡があってな。詳しくは知らんがうちの学園の生徒、私のクラスの生徒が危機に陥っているのだ。駆け付けない通りはない。遅れて申し訳ない」
「いえ、ありがとうございます」
「ミス葵は?」
「恐らくロンドンからは脱していると思います」
「成程な。で、奴がPSAの」
「葵は階級を剥奪されてます。なので最悪永久に監禁されることも、だから一旦逃走して交渉の機会を作るべきと思いまして」
「無駄話はその辺にしたら?助っ人が来たところで僕には及ばない」
「少年。君は私を誰と心得る」
「知らないよ」
「レイ・ミケルセン、それが私の名だ」
「魔術協会の到達者の一人か」
「博識だな」
「トレーサーって恐れられてるのを知ってるよ」
「若いころの通り名だ、ミスロゼ。ちょっと離れていなさい」
「わかりましたわ。〈フライ〉」
ロゼは空を飛び葵たちの向かった方角へと急ぐ。
「トレース。ただ模倣するだけ、要は相手ありきの能力〈火剣・電光石火〉」
ゼロが刀に手をかけて抜刀と同時にレイの背後に現れる。
「瞬殺だよ」
「自分で行ったんだろ模倣だって」
ゼロが振り返ってレイの姿を見ると切ったはずの首は未だ落ちずにつながっている。
「氷炎、イイ能力だ。炎を切っても炎は切れない」
「僕の能力を模倣したか」
「それが私が到達者たる所以だよ」
「物まねが専売特許手ことかい?」
「さぁな」
レイは右手に火の灯った煙草を出現させてそれを一吸いする。
「物を出し入れする能力・・・?いやどうでもいいか、〈火剣・火焔猫〉」
抜刀と同時に複数の斬撃がレイへと放たれる。
「〈テレポート〉」
レイは瞬時にゼロの背後へと移動する。
「戦場へ連れていってあげよう。〈美しき景色 偽りの戦場こそ 我が世界〉」
「詠唱魔法!?」
刹那まばゆい光と黒煙が二人を包み込む。
そして世界は一変する。
美しきロンドンの夜空はどこへやら、そこは黒天の空爆が降り注ぐ戦場へと移り変わる。
「詠唱魔法、その能力の程度は魔級。といってもそのもたらす結果は個の持つ固有能力などに影響されるのでその序列は不変ではない。中でも結界詠唱とは面倒だよ」
ゼロは銃撃鳴り響く市街地のど真ん中で周囲を見渡す。
「面倒だ。無理やり結界の外に出てやるか」
ゼロは刀を抜刀して地面にその切っ先を当てる。
「〈核熱〉」
ゼロの体が氷の膜で覆われていきその周囲にも冷気が立ち込め始める。
「〈爆熱衝〉」
To be continued.




