ある魔物の一生
ゴブリンにも例外がいた、それは俺だ。
人間語も片言でも話せるよう、森にあった絵本で何とか覚えたりしていた。
俺は、ある日森に住む老人に言葉や字や算術を習った。
たまたま怪我をしていた俺を、老人が助けてくれ、一緒に住むようになり、そして……老人の最後を看取った。
日記は何冊もあり、俺は読んだ。内容はあまりにも悲しい内容だった。
老人は錬金術師で、ゴールデン・ブリッジと言うランクがSSのパーティーにいた。
だが、錬金術師は戦えない。戦えない代わりに、様々な防具武器などを強化したり直したり、ポーションを作成したりする。
だがある日、パーティーに別の錬金術師が入り、老人は邪魔だと金貨1枚渡され追い出された。
それから、このデスフォレストに住み、ひたすら人を避けてきた。
所が、同じゴブリンに暴力を受けていた俺が、デスフォレストに捨てられたのを見て、醜いのは人間だけではなく、魔物の間にもあるものだと分かり、俺を助けたらしい。
その日から、老人の日記は段々明るくなり、俺の成長を、過ごす日々を嬉々として記していた。
まだ死にたくない、俺といたい、と涙を流したであろうアトも見つけた。
人間の寿命は短い。
100まで生きれば、産まれて死んだりもする。
弱く、儚い。
『ランスルー、ありがとう。俺も此処に住まわせてもらうよ…。ゴブリンも人間も…懲り懲りだし
な』
日記をしまい、俺は独りでランスルー亡き家に住んだ。
そんな真冬の雪が降る日に、赤子の声が聞こえ探し歩けば、粗末な木箱にタオル一枚巻かれた赤子がいた。
顔には痣があり、呪いが掛けられたのだと理解した。
俺は呪解も教えてもらったから、赤子の呪解を解いた。
それからは、ランスルーがしてくれたように、俺が出来る精一杯をした。
読み書き算術、剣術馬術、錬金術に薬の調合、洗濯や料理も教え込んだ。
「ガンジュ!冬支度に熊とウサギを狩ってきたよー」
『無理して狩るな…怪我はないか?』
「大丈夫大丈夫!ガンジュは心配性だね」
『そうか?ほら、こんなに冷えている。中に入り暖まりなさい』
「はーい!」
ランスルー、これが幸せというものなのか。
一休みしてから解体し、干し肉や塩漬け肉、燻製肉などにし、毛皮は洗い乾かす。
『アンジー、昼から魚も取りに行くか』
「父さんと魚釣り!やったー!久し振りだしどちらが多く取れるか競争だよ!」
『今回も俺が勝つな(笑)』
「私だよ!父さん!」
その年、アンジーが初勝利を収め、夜はウサギ肉のシチューとなった。
だが、幸せは長くはない。儚いものだと小説に書かれているように、幸せは奪われた。
野花を摘むように、呆気なく奪われた。
『アン…ジー……恨む…な。恨みは哀しみ……だ…。我が師の…日記にも書かれている…。泣くな……笑顔…み…た……い』
「とう…さ…ん……父さん父さん…イヤーーー!!!!」
最後に見たのは、アンジーの澄み渡るような青い瞳ではなく、魔物の間で語り継がれている、魔王の紫の瞳だった。
アンジー。
俺の娘。
どうか、憎むな。
世界を、憎むな。
人間を、憎むな。
魔物を、憎むな。
この世を、憎むな。
アンジー。
笑顔を忘れるな。
太陽のような、
笑顔を忘れるな。
俺の願いだ。
でも、最後に見たのは…、
アンジーの金色の瞳。
初代魔王の象徴だった。
そうか、初代魔王は…生まれ変わり…アンジーの中にいたんだ。
初代魔王様、
俺は貴方を復活させるための、
贄になれましたか?
読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字、感想、★ポチッ、よろしくお願いします。