21.親友と学校
中学3年生の5月、前野湊の通う中学校に転校生がやってくる。龍崎空という、小柄で可愛らしい女の子だ。雨の日、傘を忘れた空に、湊が小さな折り畳み傘を差し出したところから、2人の距離は近づいていく。
お互いに悩みを抱えながらも、お互いを大切に思い、そして「小さな嘘」をつく。
第一章では、湊の目線から物語が進み、第二章では、空の目線から物語が回収されていく。
中学生という、大人でも子供でもない、そんな2人に起こる、心温まる奇跡の物語。
私の通う中学校までは、小学校を過ぎて急な登り坂がある。中学校の部活では、この坂を使った地獄の坂道ダッシュが、運動部に入部するともれなく付いてきた。
「やばい、今日も安定のしんどさだわ〜」
百華が、膝に手を付き立ち止まって行った。
「頑張れー♪ 」
「ファイト! 」
杏莉と私が、後ろから百華の背中を押す。私達はバレー部に所属しているため、百華よりは体力があった。
「もっと押して〜 」
「百華、重い!! 」
「ちゃんと歩けー! 」
百華は根っからのお調子者で、みんなを盛り上げるムードメーカー的存在だ。
百華は私達に甘えながら、急な坂道を登りきる。
3人のワチャワチャした登校の様子は、周囲から見れば何とも微笑ましく、私はこんなたわいもない時間が好きだった。
3人は同じ教室に入り、鞄から教科書を取り出すと、机にしまっていく。
「あ〜寒い!」
百華が、上着を脱ごうとしない。ぐるぐる首に巻かれたマフラーを、わざとゆっくりゆっくり外していく。
「脱げー! 早く決めようやぁ〜 」
杏莉と私は、無理やり百華の上着を脱がすと、百華の机を囲んで、冬休みの遊びの計画を立て始めた。
もうすぐ冬休みを迎えるため、教室内は浮ついた雰囲気だ。
そんな中、私の心の中は穏やかではなかった。
5年生のあの日以来、冬休みが来ると当時の事を思い出し、父親に対する恐怖の感情も増すからだった。
何より、長い時間自宅に居なければいけないという事が苦痛だったし、お母さんの事を考えると、余計に辛くなった。
「空と杏莉は、部活いつまで? 」
百華が聞いた。
「あれ? 杏莉、 水曜までだっけ? 」
私が、顔を傾けながら杏莉に尋ねると、
「そう、そう。水曜の午前中で終わりじゃねー」
杏莉が、乱れた髪をくしでとかしながら軽く答えた。杏莉は、自分の前髪と鏡に夢中で、本当にちゃんと聞いているのか、あやしいものだった。
私達は、会話しながらも、鏡とくしを取り合いながら身なりを整える。
「どうやら、女子中学生にとって、前髪は命ほどに大切らしい……」
小学校卒業間際、クラスの女子の誰かが、そう言っていたのを思い出した。
「じゃあ、木曜とりあえず集まろうやぁ〜!」
百華が、早速予定を決めた。
「どこで集まる? うちは、お父さん居るから無理だし……」
私が言うと、
「年末じゃもんね、うちもダメだと思う」
杏莉も言った。
「図書館かなぁ〜。早く冬休みの課題済ませようやー。市内にも遊びに行きたいけど! その相談もしたいね〜♪ 」
結局、私達は3日後の午後、図書館に集まってそれぞれ課題に取り組んむ事になった。
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