1.前野湊という青年
中学3年生の5月、前野湊の通う中学校に転校生がやってくる。龍崎空という、小柄で可愛らしい女の子だ。雨の日、傘を忘れた空に、湊が小さな折り畳み傘を差し出したところから、2人の距離は近づいていく。
お互いに悩みを抱えながらも、お互いを大切に思い、そして「小さな嘘」をつく。
第一章では、湊の目線から物語が進み、第二章では、空の目線から物語が回収されていく。
中学生という、大人でも子供でもない、そんな2人に起こる、心温まる奇跡の物語。
第一章
僕はこの物語の主人公。
前野湊、15歳。
身長174.2㎝、体重66kg
主人公と言っても、ごく普通の、どこにでもいるような平凡な中学3年生だ。
ちなみに、彼女はいない。
いたことがない。
ただ、モテないわけでもない…
と、思っている。
友達には、
「何となくタイミングを逃した」
「あんまりタイプじゃないしな」
なんてカッコつけて言ってはみるが、
本当の僕は、
「この程度の女の子連れてたら、友達にバカにされる」
「僕には、もっと相応しい子がいるんじゃないか」
なんて事を、思っている。
だだ、僕ももう15歳。
僕ってどうしようもないやつだって、客観的に自分を見ては、落ち込む事もある。
思春期ってやつだ。
僕にも、好きな女の子がいたことがある。
小学4年生から6年生まで、クラスで1番人気の女の子が好きだと、友達には話していた。
その子は、いつも身なりが整っていて、凛とした印象だったが、今となっては、正直よく思い出せない。
うちのクラスの男子は、ほとんどが、この子の事が好きだった。
「お前って、どんな奴がタイプなん?」
「佐々木だろ?1番マシだもんなー」
そんな問いに、
「まぁ、そんな、とこかな…」
ちょっとカッコつけて答えてみせた。
これが、僕の初恋なんだろうか?
僕が将来大人になって、初恋はいつだったか聞かれる事があるとしたら、僕は、この、たった数年で顔がはっきり思い出せない「佐々木さん」という人の事を、初恋の人だと言わなければいけないのだろうか。
思春期だから。そう、きっと僕は、思春期だから、考えなくてもいい感情に頭を悩ませ、思春期だから、しょうもない事で、心がいっぱいになってしまう。
そう、それが思春期だ。
でも、こんな、思春期真っ只中のこんな僕に、これから思いもよらない奇跡が起ころうとしていた。
それは、
ほんの小さな嘘から始まった、不思議な出来事。
ほんの小さな嘘から始まった、彼女と僕の奇跡の出来事だ。
少しでもお楽しみいただけましたでしょうか?
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