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ダイヤモンドの聖女~出来損ないと言われた私が聖女として目覚め、国の王子から婚約を求められるまで~

作者: そらちあき

 私は出来損ないだ。

 家族や村に住む多くの人達から、そう言われ続けてきた。


 その理由、私が出来損ないだと言われる原因――それは右手に煌めく宝石にあった。


 この世界の人々は生まれ落ちた直後、その身体に必ずと言っていいほど何かしらの魔力を宿している。 


 そしてその魔力の強弱は右手に宿る宝石の色と輝き方によって判別されるのだそうだ。


 だから人々は生まれたばかりの我が子の右手を確認して、その子供がどのような才能を有しているのかを知ることが出来る。


 赤色の宝石なら炎属性の才能を有する者、青色の宝石ならば水属性の才能を有する者といった具合に。その宝石の輝きが美しければ美しい程、より強力な魔法を扱う事が可能になると言われている。


 そして、私の右手に宿った宝石は――無色透明の石だった。


 それが意味することは即ち、私が無能であるという事だ。どれだけ魔法を練習しようとも努力しようとも、私の手からは火花の一つさえ飛び出すことはなかった。


 そんな出来損ないの私と――妹のアリアは生まれてからずっと比較され続けていた。


 両親は私たち姉妹を見比べながらいつも溜息混じりに呟く。


「どうしてお前たちはこんなにも違うんだ」と。

 

 無色透明な石を宿す私と違って、妹のアリアの右手には真っ赤で綺麗な宝石がいつも輝いている。


 その宝石を見ながら村の子供達は言う。


「あれだけ綺麗な宝石なんだからアリアちゃんはきっとすごい魔法使いになれるよ!」

「お姉ちゃんとは大違いね! 透明だなんて、かわいそー」

「お姉ちゃんの方は全然ダメだよねぇ。あ、ほらまた転んで泣いたし!」

「ほんと泣き虫だよなーあいつってば」

「まぁしょうがないよねぇ、だって無能だもん!」


 子供たちの声を聞きながら私は唇を噛み締めることしか出来なかった。


 幼いながらも理解していた。自分が誰からも望まれていない存在である事を。そして妹のアリアは多くの人達から愛されている事を。


「アリア様、流石ですわね! あの歳でもう魔法を使いこなすなんて」

「将来が楽しみだこと」

「えぇ本当に。アリア様こそ次代を担うに相応しい方ですわ」


 大人たちが口々に語る言葉を聞いて私は思った。


 魔法なんて使えなくてもいい。ただ、せめて……誰か一人くらい私を認めてくれる人はいないだろうか?


 もしもこの願いが叶うのであれば、どうかたった一人でもいいから私を必要として欲しい。そうすれば、たとえ何一つ魔法が扱えない人間であってもこの世界で生きていける、そう思えたから私は不幸の底に沈んだ人生でも生き続ける事を選んだ。私は諦めなかった。


 ※


 それから数年の時が流れた。


 妹は大きく成長し、村では誰もが認める立派な魔法使いになった。私は相変わらず何も出来ないままだけど、それでもなんとか日々の生活を続けている。


 そんなある日の事だった。

 村の広場で村人達が輪になって話し合っている姿を見つけた私は、思わず耳を傾けてしまう。


 聞こえてきたのは、一人の男性の声だった。


 その人は冒険者で、王都と呼ばれる場所から来たらしい。なんでも彼が言うには この国では女王になる人物は誰よりも魔法の扱いに長け、尚且つ誰よりも多くの魔力を持つ者でなければならないらしく、この国の第一王子は女王様に相応しい結婚相手を探して国中を旅しているそうだ。


「それで、どうやら一際優れた力を持つ少女がこの村にいるみたいでな。王子がその少女に会いにこの村へやってくるらしい」

「へぇ……そりゃすげぇ。じゃあその娘が次の女王様候補ってわけですかい?」


「そういう事だ。しかもそれだけじゃないぞ。なんと彼女の右手にはとびきり美しい宝石が宿っているらしくてな」

「とびきり美しいだなんて……お目にかかりたいものですな」

「だろう? 俺も一度見てみたかったんだよなぁ……」


 美しい宝石という言葉を聞いて私の口からはため息が漏れる、自身の右手を見つめながら。


 私の右手に宿っているのは無色透明な石。誰も認めてくれない無能の証。光に当てればきらりと輝くが、それはまるで鏡のように周囲の景色を反射するだけだ。


 王子様が探しているという女王に相応しい人物に決して成りえない事は私自身が誰よりも分かっていた。だから私は既に諦めていた、聞こえてきた会話に背を向けるようにしてその場を離れたようとして――振り向いた直後、私の目の前に妹のアリアが立っている事に気付く。


「……アリア?」

「お姉ちゃん、さっきの話聞いてたんだね」


 私は右手に宿った透明な石に視線を落としながら言った。


「うん……聞いてた」

「さっきの人達が話してた王子様が探してる相手、実はあたしの事なんだ」


「そっか……そうだよね、アリアの右手の宝石はとっても綺麗だもん」

「そういう事。それでお姉ちゃんに話があったからこうして会いに来たんだけど」


 アリアは私を真っ直ぐに見据える。その表情は険しくて、私の胸の奥底でざわりと何かが騒ぐ。アリアはそんな私の反応を見て小さく溜息を吐きながら言葉を続けた。


「王子様が来る日、お姉ちゃんには物置小屋に隠れていて欲しいの」

「えっ……どうして、アリア」


「だってさ、王子様は将来の妃様を探しに来るんだよ。それであたしの所に来るそうだけど、色の無い宝石を宿す出来損ないが家族に居るなんて王子様に知られたら大変な事になりそうで。いくらあたしが凄い魔法使いでも印象が悪くなっちゃうでしょ?」


「私がいたら、アリアが女王様になれないかもしれない……から?」


「そうだよ。妹に恥をかかせないでよ、お姉ちゃん。今までだってずっと家族に出来損ないがいるって周りから言われてさ、あたし達に迷惑かけてきたんだから」

「ごめんね、アリア……」


「ごめんねじゃなくてさ、返事を聞いてるんだけど? ねえ、返事は?」

「わ、分かった」


 私は震える声でどうにか返答した。それを聞いたアリアは満足気に微笑むと、そのまま広場へと歩いて行く。


 多くの人達がアリアを笑顔で迎え、彼女の右手で輝く赤色の宝石を褒め称えた。村のみんなも分かっているのだ、王子様が探しているという人物がアリアなのだと。この村を希望で照らす鮮やかな赤色の宝石こそが、次期女王に相応しい人物の証だと誰もが理解していた。


 私はその眩い光景を、建物の暗い影から眺める事しか出来なかった。



 それから数日後、ついにその時が訪れた。

 村中に響き渡る鐘の音と共に村人達は大慌てで走り回る。村の入口には王都からの馬車が続々と到着しており、大人達は出迎えの為に朝から大騒ぎだった。


 王子様が村のすぐそこまで来ているという報せを聞いたアリアは私を物置小屋に押し込んでいた。


「いい、お姉ちゃん。以前に話した通りよ、絶対に外へ出ちゃダメだから。ここでじっとしてなさい。あたし達に恥をかかせないでよね」

「……うん、わかった」


 その言葉と共に小屋の扉は閉められる。

 私は真っ暗闇の中で膝を抱えながら呟いた。


「……私、このままずっと一人ぼっちなのかな」


 誰にも必要とされないまま、この世界で生きていくしかないのかと思うと涙が零れ落ちる。右手に宿った無色透明の石、私の全てを否定するようなこの石は、壁に出来た小さな穴から差し込む光を反射させて僅かに輝きを放つ。それがなんだか、まるで私の事を嘲笑っているように思えて私はまた泣いた。


 村の喧騒は物置小屋の中にも聞こえてきた。


 どうやら王子様が村に到着したらしく、村人達は王子様の来訪に盛り上がっているようだ。彼らが嬉しそうに語る声を耳にしながら、私は右手の透明な宝石を見つめていた。


「……アリア、王子様とお話してるのかな?」


 頭の中で王子様の姿を思い浮かべる。それは絵本の中に出てくる王子様のように凛々しくて格好良い人だろうか。それとも騎士のように強靭な肉体を持つ屈強な男性なのだろうか。


 想像すればするほどに私の胸は高鳴るばかりだった。けれど私の右手に輝く無色透明な石の存在を知ったらどんな顔をするんだろう。軽蔑されるだろうか、嘲笑されるだろうか、そんな事を考えながら私はいつの間にか眠りに落ちてしまった。


 ――それからどれくらいが経ったのだろうか、閉ざされた物置小屋の扉の向こう側から誰かの声が聞こえてきて目を覚ます。


 それは聞き覚えのあるもの、アリアの声だった。誰かに向けて声を荒げるその様子に、私は恐ろしくなって思わず息を殺してしまう。


「お、王子様!? ど、どういう事ですか!? この村にはあたし以上に王子様に相応しい人なんて居ないはずなのに!」

「その言葉は真実かい?」


「は、はい! 本当です、嘘ではありません!」

「ふむ、そうか。だが俺は君以上に相応しい女性がこの村に居る事を聞いて、王都からわざわざ足を運んだのだがな」


「そんなはずはありません……あたしより綺麗な宝石を宿す女性なんて、この村にはいません!」

「ほう。確かに君の宿す宝石は星のように煌めいて美しい。しかし俺が探しているのはそれではない」


「えっ……」

「アリアよ。残念だがね、君の宿す宝石と似たような宝石を俺は何度も見た事があるんだ。この国には大勢の女性がいる、君と似たような宝石を持つ女性は別に珍しくはない。俺が探しているのは夜空に浮かぶ星々じゃないんだ、地上を明るく照らす太陽のような宝石の持ち主なんだよ」


「そ、そんな……」

「従者の話ではこの村には特別な輝きを放つ宝石を宿す女性がいるそうなんだ。その宝石は――ダイヤモンドと呼ばれる最も美しい輝きを放つもの、透明であるがゆえに光に照らせばありとあらゆる色彩を見せる。未来を照らす太陽の輝きを宿しているんだ。ダイヤモンドを宿した者は普通の魔法が扱えないその代わり、国に多くの繁栄と奇跡をもたらす特別な魔法が扱える聖女。アリアよ、君はそのダイヤモンドを宿す宝石の乙女を知っているだろう。既に俺は気付いているよ、その輝きを暗闇の中に君が隠した事をね」


「……っ、どうして、なんで……知って」

「太陽の輝きは隠せるものじゃない。どんな場所にあっても何よりも強く輝くものだからさ。この村に着いてすぐに彼女の居場所には気付いたよ。君だって本当は分かっていたはずだ。自分が決して選ばれない事を。だからこそ、君はダイヤモンドの聖女を俺達から隠した。そうだろう?」


「う、うう……あああ……」


 アリアの動揺した声が聞こえると同時に私もまた理解していた。


 私の右手に宿る無色透明の石――ダイヤモンドこそが王子様の言う特別な宝石。

 

 王子様が探していた人物はアリアではない、私だったのだ。


 それに気付いた瞬間、私の絶望で染まっていた心に希望の光が満たされ始める。その希望へ応えるように右手の宝石は輝きを放ち始め、暗闇に包まれていた視界を明るく染めた。


 七色の美しい輝きだった。

 まるで虹のように鮮やかで眩く、その光は太陽のように私に勇気を与えてくれる。


 私は幼い頃からずっと願ってきた。


 魔法なんて使えなくてもいい。ただ、せめて誰か一人くらい私を認めてくれる人はいないだろうかと。もしもこの願いが叶うのであれば、どうかたった一人でもいいから私を必要としてほしい。そうすれば、たとえ何一つ魔法が扱えない人間であってもこの世界で生きていける、と。

 

 そして今この扉の向こうに、私を必要としてくれている人が居る。

 

 私は輝く宝石と共に物置小屋の扉を開け放つ。

 するとそこには私を真っ直ぐに見つめる王子様の姿があった。


「ああ……ようやく会えたね」


 王子様は私を見て微笑みながら呟いた。


 私を必要としてくれたその彼は、私が頭の中で思い浮かべた姿よりもずっと美しくて、優しげな瞳で私を見つめながら手を差し伸べる。


「ダイヤモンドの聖女よ、俺と一緒に来て欲しい」


 私はその手を握り締めながら涙を零して答えた。


「はい、喜んで」


 こうして私はこの世界に生きる意味を見つける事が出来た。


 王子様の妃として認められ、この世界から必要とされているという実感を得た。

 

 私はもう二度と自分の存在を否定しようとは思わない。これから先もきっと困難は多いだろうけどそれでも構わない。


 だって私を必要としてくれる人がいるならば、私という人間は永遠に輝き続ける事が出来るのだから。


 右手に輝くこのダイヤモンドのように――。

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