相談相手とシュウとの邂逅
私を職員食堂に誘ったのはユーリスだが、そこにダニエルも当たり前の顔で待ち受けているとは思わなかった。
けれども、シュウの保父として最高の男性と、転校生の私を周囲に溶け込むように気を使ってくれた優しき同級生だ。
私は彼らを信用することにして、彼らが促すままに、素直に、シュウとの出会いを語っていた。
「あの日、私はいつものように馬車の窓から外をぼんやりと眺めておりましたの。あれは日が暮れ始めたドラローシュ通り二番街に差し掛かったところでした。」
「あそこは貴族の令嬢どころか、紳士階級の唐変木も通りがからない所ではないですか?」
「まあ、そうですね。」
そういえばそうだったと、毎週水曜日に出向いていたカシュレーン剣道場への伯爵家からの道のりを、私はさまざまと思い出していた。
剣士として有名だったカシュレーンの道場は有名でも、貴族が近づかない下町に道場を構えているのだ。
それは、カシュレーンが騎士や貴族の子弟を鍛える事を良しとしなかったからである。
自分の剣は人を生かす剣であってほしいからと彼は言い、戦争があれば徴兵されるだけの平民の子に身を守る剣を教えているという高潔な人なのだ。
私は素晴らしき師の事をユーリス達に自慢したい気持ちもあったが、両親に諫められていた事を思い出して、とりあえず食堂の中を見回した。
両親は、カーネリアン伯爵家一族の恥辱になるようなこと、を私が他の誰にも吹聴して欲しくないと望んでいる。
私自身は剣稽古が恥辱になるとは思っていないが、母と父は私が剣稽古をしている事もそうだが、毎週ドラローシュ通りに私が出向いている事こそ知られたくないようなのだ。
私にも結婚適齢期の従姉は沢山いる。
彼女達の結婚話が流れる可能性を示唆されれば、私だって納得できなくとも両親の言う事に従うしかないではないか。
「リディア、さま?あなたがそんな場所に出向いた理由をおっしゃりたく無いのならば聞きません。続きをお願いします。」
ユーリスは流石というべきか。
ダニエルが彼を元軍人だと言っていたが、こんなにも合理的で物分かりが良い人であるならば、かなり軍部で活躍なさったことであろう。
私はシュウとの邂逅について、彼に続けて語っていた。
まず、裏通りの細い道の一つから小さな子供が飛び出してきて、大通りに一歩踏み入れたそこで大きく転んだのである。
そんな光景はどこにでもあるが、私が馬車を止めさせたのは、シュウが転んだ痛みに泣くよりも、起き上がってさらに遠くへと駆けようとしていたからだ。
三歳ぐらいの幼児よ?
もっと大きな子供だって、転べば泣いてその場にうずくまるものだわ。
だから私は馬車から飛び出した。
あんなにひっ迫している幼児を救わねば、伯爵令嬢の名が折れると言うものだ。
「名、折れますか?」
ユーリスは真面目な顔で聞き返して来た。
私も真面目な顔を作って答えていた。
「弱き者を守れない人間が人の上に立てるとお思いですか?」
ユーリスは、あれ?、という表情をして見せたが、ダニエルはその答えのようにしてぶふっと吹き出した。
「私はおかしい事を言いましたかしら?」
「ううん。言ってない。立派だって俺も思った。兄さんは俺という弱きものを虐めまくっているから言葉が出なくなっただけだよ。」
どん。
机の下で大きな音がしたが、ダニエルが痛がる素振りも見えないので、ユーリスはダニエルの脛では無く椅子の足を蹴っただけみたいだ。
「あなたも、あの男みたいに暴力的ですの?」
「いや、いいえ、違いますよ!これは兄弟のお遊びです。ほら、ダニエルはフザケて喜んでいるだけでしょう?俺が可愛い弟を蹴るなんて、そんな事をする人間だとあなたに思われていたなんて。」
「ま、まあ!ごめんあそばせ!違います。ええ!私は人様を悪いように考えるようになってしまったようです。それだけシュウが受けた暴力に私は打ちのめされたのです。だって、シュウを追いかけて来たらしき大きな体をした男が現れて、それで、あんなに小さな子供の襟首をつかんだそこで、首の骨が折れるぐらいにひっぱたいたのですよ!手間を掛けさせやがってって、怒鳴って!」
「――どんな男でした?」
ふざけていた兄弟は、一瞬でその気安さの衣を脱ぎ捨てた。