手よりも足が出るもので
ジリアンは保護された女の子が匿われている部屋にいて、六人の少女達と何やらこそこそと密談をしているようだった。
こちらの地方は絨毯に直に座って寛ぐ習慣なのか、ジリアンも女の子達も絨毯に腰を下ろしており、最初に保護された子は服が汚れていたためにこの館の下働きの制服を着ているが、彼女以外がハーゲン地方の服にベールを被っているという姿である。
そのせいか彼女達の後姿が少し宗教めいて見えた。
いや、ベールを付けて前かがみに座っている人の後姿が神様に願い事をしているような厳かにも見えるのに、頭を下げている先が妖精みたいな可憐な少女である、という点で違和感を抱かせられただけかもしれない。
私はシュウを連れて部屋に入っては見たが、真剣に話しているジリアンの邪魔はしてはいけないと、出来る限り静かに移動した。
彼女達に近づきながら話を聞けば、少女達は村に戻れない身の上のようであり、だからこそジリアンはアンダーソン商会で衣服を縫う仕事をしてはどうかと必死に薦めているようである。
「ハーゲン地方の服を欲しいと望む顧客がいるの。まずはその人達のために。その人達だけで供給が終わってしまったら、ええ、ドレスパターンも覚えて貰って、そちらの方でも働く事が出来るわ。だから、放り出されるって事は無いと安心していいわよ。」
私はジリアンを尊敬の目で見ていた。
ディークがあっさり家を捨てられたのは、このジリアンという妹がいてこそだったのでは無いのだろうか。
「あ、ありがたいですけど、でき、できません!」
可愛い顔立ちだがそばかすだらけの少女が、顔を両手に埋めてわっと大きく泣き出した。
私は慌ててその子の背中に手を当てたが、その子の隣の私よりも年上にみえる女性も同じように動いたからか、二人の手が重なってしまった。
彼女の手はごつっとして、女の子の手のようでは無かった。
「まあ、ごめんあそばせ。」
「あ、わ、わたしこそ。」
声はダニエルがわざと高い声にしたらこんな感じ、というものに思えた。
私はあれっと思いながら周囲を見回すと、残りの女の子の四人の内、二人は女の子ではないなと気が付いた。
ハーゲン地方の女性がベールを被らないはずなのに、彼女達がベールを被っているのはそういう事か。
「ジリアン、昨日の今日よ。もう少し落ち着く時間を上げましょう。」
「まあ、リディア。そうね、私は焦り過ぎだったわ。落ち着く先を急いで決めた方がって先走り過ぎたわね。」
私はシュウを抱くやそっと立ち上がり、私に同調するようにして立ち上がったジリアンの方へと進んだ。
そして、ジリアンにシュウを差し出した。
「リディア?」
不思議そうな顔をしながらもジリアンはシュウを受け取った。
私は笑顔を崩さない顔を保護されている少女達に向け、警戒しながらジリアンの盾になるように動いた。
しかし、私に知られた事で覚悟を決めたのか、男だった三人が一斉に立ち上がったのである。
私は彼等の襲撃に備えて拳を握ったが、三人は私達に一斉に頭を下げた。
「お願いです!御内密に!俺達は死んだものとしてください!」
最初に私に気が付かれた男がそう叫ぶと、あとの二人もお願いしますと声を上げ、さらに女の子達も立ち上がった。
そして口々に、死んだものとしてひっそりと暮らして迷惑をかけませんから、という意味合いの事を騒いでいるのである。
私とジリアンは顔を見合わせ、そして彼らに真っ直ぐに体を向けた。
もちろん私の後ろにはシュウを抱いたジリアンという風に、私は絶対に彼らの盾になってだが。
「さあ、話して。あなた方の身の上を洗いざらい全部。でないと助けられるものも助けられないわよ?」
「た、助けるなんて無理ですわ。お願いですから知らないを通して、そ、それで、明日にでもここから逃がしてください!」
「ええと、逃がしてあげたいから、ええと、リディアも全部話しなさいって言っているのよ?私達は口は堅いわ、約束する!」
「駄目だ!ハーベィ!刃物を出したら!ここはこの人達に!」
「信じられるか!こいつらは俺達の立ち位置に最初からいないんだ!もう俺達は死ぬしか無いじゃないか!」
そばかすの子を守るようにしていた男、ハーベィという名前らしき男が私に切りかかって来て、私は彼の腕よりはリーチの長い自分の右足を彼の下腹部に叩き込んだ。
「あぐひゅ。」
「ハーベィ!」
ハーベィはその場にしゃがみ込み、そばかす少女が彼に縋りついた。
私は彼の腕から落ちたナイフを拾うや、ハーベィの恋人らしき少女の襟首を掴んで引き寄せた。
「洗いざらい今すぐに言わないと、この女の鼻をそぐわよ?」




