触りたい美しきもの
私とアレンは婚約破棄を免れたようだが、私としては好きになった相手が私の為に不幸に耐えるのは許しがたい事である。
そこで、私よりも男女の恋の進展に詳しそうな親友に相談するべきと考えた。
「ジルはダニエルのところです。」
私は自分と手を繋いでいる幼児を見下ろした。
昨日にシュウをジリアンに預けた数時間で、シュウはジリアンを愛称呼びするどころか、ジリアンの動向まで把握するようになっていた事に驚いた。
幼児は私を見上げてうふっと微笑んだ。
「そ、そう。ではわたくし達もダニエルのところに行きましょうか?」
「リディアもダニエルにチュウするの?」
「え?」
そうだ!
シュウはジリアンとダニエルがチュウしていたと言わなかったか?
「ダニエルがジルに早く治るおまじないが欲しいって言ったらね、ジルがダニエルにチュってしたの。」
「まあ!そう!じゃあ、シュウもダニエルにちゅってしてあげたのかしら?」
「うーん。ダニエルと僕はさんざんチュウをしているからなあ。」
私は思わず噴き出した。
これはダニエルの真似ね、と。
誰も傷つけないように振舞えるダニエルだったら、男性側の意見として素敵なアドバイスが貰えるかもしれない、そう思えた。
だからダニエルが養生している部屋に向かったのだが、そこは当り前だがアレンの部屋であったがために、アレンこそがその部屋にいた。
着替えている最中で。
白いシャツを羽織っただけで素足を見せつけている姿は心許無いものであったが、シャツから出ている素足が白くぶよっとしたものではなく、馬のように美しい躍動が見える筋肉で締まっているという素晴らしいものだった。
「あの、リディア?」
「あ、あの、ごめんあそばせ。着替え中なのに。で、でも、わたくしにドアを開けてしまった方々は叱る必要は無くってよ。ええと、いいものが見れたとわたくしは思いましたもの。」
ぽそ。
アレンは手に持っていた衣類の何かを床に落とした。
まあ!顔が真っ赤になっているじゃ無いの!
そこで私もハッとした。
こんな場面は、貴婦人だったら悲鳴をあげて部屋を飛び出すべきじゃ無いの!
しかし、自分は貴婦人では無かったと思い返し、また、アレンが温室で自分で言った通りに「愛する人に触れられたい」希望があるのならば、私は急いで逃げる必要も無いじゃないかと思い直した。
「あの、アレン。」
「はい?」
「素晴らしい筋肉ですわ。その足の筋肉に触れてもよろしくて?」
アレンはさらに真っ赤になって、そして、温室で自分が言った事を否定するような言葉を返した。
「いや、そ、その希望は、か、叶えてあげられない。」
「まあ!わたくしに触れられたいって言ったくせに!もうわたくしに触れられる事は望んでいらっしゃらないってことですの?」
「の、望んでいらっしゃるよ!いや、だが、それはね!」
「シュウく~ん。ダニエル叔父さんとジルを探す旅に行こうか~。」
私はシュウを抱き上げたダニエルによって、今の状況にはっと気が付いた。
それから恐る恐るダニエルがいただろう元の位置へと振り向けば、ダニエルの数年後の見本が簡易ベッドの端に座っていた。
ユーリスは私と目が合うやニカっと笑い、親指を立てた右手を差し上げた。
「ええと。し、シュウ!ジリアンを探しに行きましょう!」
私はダニエルからシュウを奪い取ると、アレンの部屋から飛び出した。
閉まったドアからはユーリスとダニエルの爆笑の大声が響き、耳をそばだてていたらしい扉の左右の召使いまでも笑いを噛み殺しているではないか。
「も、もう!あなた方は!アレンが着替え中だって知っていて開けたわね!」
左側は召使いにはあるまじき行為、完全に吹き出して笑いだしてしまったが、右側はまだ召使いとしてのプロ意識、いえ、片目を瞑って見せたので彼にもそれが消えているらしいが、私に扉を開けた言い訳はした。
「旦那様より、あなた様が望む限り、いつでもドアを開けろとのお申し付けを受けております。」
「そう。ではその命令に注釈を加えて頂けるかしら?」
「何でございましょう!」
笑っていた左側までも笑いを収め、まあ!二人そろって目を輝かせて私の次の言葉を待っているじゃないか!
私は偉そうに顎を上げた。
「彼の着替え中は、彼が一人の時に限り開けてちょうだい。」
私はドア当番の返事など待たずに踵を返した。
召使いは主人の前で爆笑してはいけないのだから。
馬って綺麗ですよね。
馬は、ポセイドンが美しき女神デメテルに求愛するために作ったと言われています。
たてがみは海の波頭と言われれば、そうだなと思う程に美しい生き物だと思います。
そして、アレンの肉体ですが、ムキムキではありません。
ダンサーのようなしなやかな筋肉で締まっているという、細マッチョ設定です。




