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それって、駄目な選択のほうです  作者: 蔵前
第五章 いつだって人は選択できる
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弄ぶってこういうこと

 伯爵を見つめ、伯爵に見つめられる事にドキドキする自分。

 そんな自分に疑問符ばかりだ。

 昨日までは何ともなかったじゃ無いの。

 いえ、昨夜に告白を受けてから、私はずっと伯爵を目で追うようになったのではないかしら?


 いえ。

 出会ってからずっと目で彼を追っていたと気が付いたのよ。

 私は彼がいれば彼の姿をずっと目で追っていたのよ。

 なんてこと!


「うあああああん。」


 シュウの泣き声ではっとした。

 私はシュウを見返し、急いでシュウに両手を差し出した。

 しかしシュウは私の手を叩き、それどころか伯爵の腕の中で暴れて、伯爵が床に彼を降ろさねばならなくなった。


「どうしたんだ?シュウ。これからはずっとリディと一緒なんだよ?嬉しくないのかい?」


「ばぁぱのばあああかあああ。」


「まあ、シュウちゃん。どうしたの、ほら。」


「りでぃのうそつきいいいい。ぼくはりでぃいとけっこんするのにいいいい。」


「まああ!」


 私の思考は一瞬で崩壊した。

 もう私の頭の中はシュウしかいない。


「もちろんよ!シュウ!あなたが大きくなったら結婚するのよね!」


「りでぃ!」


 シュウは私に抱きついた。

 私はシュウを膝の上に持ち上げて抱き締めた。

 そして私は伯爵に顔をあげた。


「ごめんなさい。わたくしはシュウを裏切ることはできないわ。」


 私を見下ろした伯爵は、瞳を真ん丸にして固まった。

 見下ろしたせいで髪の毛はさらにぼさぼさになり、私はこの顔を以前にも見ていたはずだと気が付いた。

 どこで?

 いいえ、わかっているはずよ。


「互いの誤解を解くのはどうだろうか?」


 私が曲解したあの言葉。

 そうよ、わざと勘違いしたのよ。

 私があなたから目が離せないから苛つくのだと、ミラと腕を組んでいる姿がどうしようもなく憎らしいと、自分に気付かせたくなかったから。


「その判断は正しいと思いますわよ。この男は大嘘つきですもの!」


 ミラはティールームにずかずか入ってくると、伯爵の真横に立った。

 そして学園でしていたようにして、伯爵の腕にしがみ付いたのだ。


「お金がない男爵令嬢でしたらギャシー講師で充分でした?ねえ、先生。私と姉を弄んだ責任は取って下さいましね?」


 伯爵は罪人が観念するように両目をぎゅっと閉じた。

 私は席から立ち上がると、伯爵の襟首を掴んだ。

 伯爵は私に殴られる事を覚悟した様に、ぎゅっと瞑っていた目を開けて私を静かに見返した。

 こんなに綺麗な緑色の瞳は二人といないはずなのに、どうして私は彼が二人いるなんて思い込んだのだろう。


「どうして目を開けなさるの?閉じてなさいな。」


 彼は真ん丸の驚きの目をして私を見返した。

 その顔がシュウが驚いた時と同じで、私はくくっと笑い声が漏れた。


「リディア!暴力的な事は!」


「ええ、ミラ。男は女に暴力的な振る舞いなどするべきではありませんね。でも、女から男への暴力的な行為は禁止されていませんわ。」


 私は伯爵の唇を奪った。


 私の口の中で伯爵の驚いた小さな声が上がった。


 私は伯爵の襟首を離した。

 少々乱暴に、突き飛ばすようにして。


 それからまだ伯爵の腕にしがみ付く少女に対して、見下すように微笑み、今まで伯爵の襟首を掴んでいた右手を軽く跳ね上げた。

 ミラは私に叩かれたかのようにびくっと震え、伯爵の腕から両腕を解いた。


「弄ばれた?キスぐらいなさってからおっしゃいなさいな。」


 ミラは陸にあげられた魚のように口をぱくぱくさせながら後退り、後ろに立つ大男の体に背中をぶつける事となった。

 ミラにぶつかられた男は、私に軽く片目を瞑って見せた。

 背筋がぞくっとするような魅惑的な笑顔付で。

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