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それって、駄目な選択のほうです  作者: 蔵前
第四章 ギャスケル家の最初で最後の砦
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暗闇に消えてしまったもの

 俺達はリディアの不在を知った。

 レイと一緒に出て行ったと聞いて、なら大丈夫、と思うわけなど無い。

 水銀を仕込んだ鉛玉を詰めた銃を持つ奴が外にいるのだ。


「取りあえずリベリット村に向かうぞ。」


「丸腰でか?」


 俺はユーリスを連れて伯爵の書斎になだれ込み、書斎机の引き出しを引き出して、引き出しの裏に隠していた銃を二挺取り出した。


「お前はやる奴だな。」


「ここは祖母の書斎だよ。」


「愛しているよ、アレイヤ。」


 俺達は銃をそれぞれ持つと厩に走り、そして自分達の馬を必死に駆けさせた。

 彼女達がどこにいると思うのか。


「ディークが行方不明だって言っていたな。いや、動けないから助けに行くだったか。そんな状況で女の子を連れていくのはどんな場所だ?」


 俺がユーリスに尋ねると、ユーリスも同じことを考えていたらしくすぐに返事を返した。


「女の子でも任せられる仕事と言えば、見張りかな。」


「わかった。小麦が作れない岩だらけの起伏が激しいリベリット村の主産業は羊飼いだ。そんな場所は落ちたら危険な崖はどこにでもある。どこかの崖に落ちたとして、見張りが必要な場所はどこだろう?」


「敵のアジトもわからないのにそれを尋ねるって無茶ぶりだな!じゃあ、よし。俺が落ちてみたい崖に行こう。」


「なんだ、それ!」


 俺が叫ぶと、ユーリスは自分の馬を跳ね上がらせるようにして前に出た。

 どんなところへも情報を掴みに行き、どんなところへも情報を届け、そして、自分の獲物となった奴は地の果てまでも追いかける。

 軍部の金豹は崖下りで馬を三頭潰したと聞いた事があった。

 落ちてみたい崖、か。


「お前は!そんな気持ちで周囲を見回っていたのか!」


「人生遊びが必要だろ!スリルもな!」


「遊び過ぎだ!」


 俺達は周囲に敵がいる事を知りながら、ぎゃあぎゃあ叫びながら馬を走らせていた。

 それは敵が俺達に気が付いて俺達を追ってくれればいいという考えであり、リディア達の隠れ蓑になれればとも考えていた。

 いや、勝手な行動の彼らにイラついていただけが正しいが、それでも俺達は最大限の警戒もちゃんとしてはいたのだ。


 だから気が付いた。

 遠くでの馬の嘶きを。


 俺達はその馬の嘶きの方へと馬を走らせ、俺達は幸運の持ち主だと確信した。

 馬にまたがるリディアがいて、彼女の周囲に武装集団のボスもいたのだ。


「畜生!あいつは牢に送ったはずなのに!」


 額に焼き印がある男は、リディアに向けて何かを引き出した。

 鉛色に光るそれは、新品の銃だった。


「てめえが俺の弟を撃ったくそかああああ!」


 俺よりもユーリスの動きの方が早かった。

 だが俺はボスなんかどうでもいい。

 俺の目はリディアから離れ無かった。


 周囲に響く破裂音。


 リディアの乗る馬が跳ね上がった。


 リディアは落ちなかったが、馬がバランスを大きく崩した。


 ああ、馬が崖に落ちようとしている!


「リディ!飛び降りろ!馬から飛び降りるんだ!」


 女の子が咄嗟に馬から飛び降りられるか?

 俺は彼女を掴むために馬を走らせた。

 だが、俺が手を伸ばした所で届くはずもなく、リディアは俺のすぐ目の前で馬と共に崖下へと消えた。


 俺は馬から飛び降りて、急いで崖下を覗いた。


 真っ暗な奈落の様な穴が広がり、リディアも馬も何も見えない。


 あの戦車の様な元気な娘は死んだのか?


 あの柔らかな唇で俺を癒してくれた、ああ、あの優しい娘は死んだのか?


「リディいいいいいいい!」


 俺はシュウのように彼女の名前を叫ぶしかなかった。


「は!ハハハ!ざまあねえな!ざまあ見ろ伯爵。ほら、ユーリス、お前の弟は死んだか!特製の銀玉を撃ってやったんだ、苦しみながら死んだか?臆病者のエヴァレットみたいに苦しんで死んだか?あいつの腹は柔らかかったと、あいつを刺した奴は言っていたさあ。」


「貴様あ!」


 火傷男は銃を振りかざし、だが、ユーリスが銃を抜く方が早かった。

 大きな破裂音がした後に、火傷男の頭は爆発したように砕けて倒れた。


 爆発?


「伯爵危ない!」


 俺の直ぐそばで男が殆ど真っ二つになって倒れた。

 斬ったのは銀色の髪の男だった。


「伯爵!」


 再びその銀髪は剣を振るって俺に向かって来たもう一人を切り裂き、その後は彼は俺を守るように背を向けた。

 ああ、俺を守るようにか。

 守ってどうする?

 今、俺の命が消えた気がするんだ。


 ああ、シュウすまない。

 またお前のママを俺は失わせてしまった。


 そしてパパはな、また愛した女性をこの世から失ってしまったんだよ。

 ああ、愛しているって、失って初めて気が付いたんだ。

 十も年が離れている女の子に、俺は恋をしていたんだ。

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