表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それって、駄目な選択のほうです  作者: 蔵前
第四章 ギャスケル家の最初で最後の砦
51/78

謝ったらダメ

「ああ!私が無理強いをしなければ、ダニエルは!」


 ベッドに突っ伏して泣くジリアンの背中を撫でた。

 私の膝にいるシュウも私の真似をして、小さな手でジリアンの背中をぺたぺたという風に撫でた。


 なんて優しい子!


 私達が厨房を出た途端に大きな笑い声が弾けたのは、絶対にこの可愛い子供のお陰だとシュウの頭にキスをした。

 彼はふふふと笑い声を立て、私の胸にしがみ付いた。


 私はこんなに優しくて温かい子供を抱き締める事ができるから、こんな恐ろしい事態にも落ち着いていられるのだわ。


「ダニエルが死んでしまったら!」


「ジリアン、ダニエルは大丈夫。わたくしは傷を見てきました。大丈夫。それであなたは、ダニエルが目覚めたらごめんなさいは言っては駄目よ。」


 ジリアンはピタリと泣き止み、それからゆっくりと私を見返した。


「どうして。私が兄に会いたいってダニエルに強請ったから、だから!」


「ええそうね。でもね、謝らないで。謝ったら、あなたの力不足に気が付かなくてごめんなさいね、という意味になるから、謝らないで。」


「まあ、そうなの?どうしてそう思うってわかるの?」


「昔、ええ、昔から私は余計な事に首を突っ込むのが好きだったの。それで自分でも助けられると思ったけれど、わたくしは殴られて茂みに突き刺さった。わたくしが助けたかった人は、あなたのように私のせいでって沢山泣いて、わたくしはそれがとっても辛かった。笑顔にしたかったのに、かえって泣かせてしまったって思ったら、とっても悲しかった。」


 私の手はジリアンにぎゅっと掴まれた。

 まだ顔じゅうが真っ赤で涙も残っているが、彼女は泣き止んだだけでなく、いつも以上に強い輝きを瞳に宿していた。


「ジリアン?」


「謝らないわ。それよりも、ダニエルが助けた子。まだ他にも囚われている子がいるって言っていた。その子たちを私は救うわ。ええ、私はダニエルの意思を継ぐ!次期アンダーソン商会の女社長として、彼女達の生活を立て直す手助けをしましょう。」


「ダニエル死んでないから意思は継がなくていいと思うけれど、あなたの志は素晴らしいわ。微力ながら、ええ、次期カーネリアン女伯爵も親友であるアンダーソン商会女社長にお力添えいたしましょう。」


「シュウも!」


 私達は笑い合い、シュウの頭をいい子いい子と撫でた。

 シュウは私達に注目されて可愛がられた事が嬉しくて落ち着いたのか、うとうととしてそのまま私の腕の中で眠りに落ちた。


「うーん可愛い。この子を抱っこして今日は寝たいわ。」


「ジリアンたら。」


「いや、彼女にシュウを見てもらうことはできないか?リディア。」


 私とジリアンは振り向いて、部屋に音もなく入って来た人に驚いた。

 それはレイであったが、別れた時と違って彼の長い髪は短く刈られ、服も流れ者のような格好になっていた。


「レイ。」


「頼む。ディークが動けない状態だ。とても危険な仕事だが手伝ってくれるか?」


 レイは私に服を差し出したが、それはレイと同じ流れ者の様な男の服だ。

 私は勿論だとレイに答えていた。


「リディア、大丈夫なの?」


「ええ、大丈夫。師匠と一緒だもの。シュウをお願いね。」


 ジリアンはシュウをぎゅうっと腕に抱いた。

 そして私を見つめ、ありがとう、といった。


「シュウは私が死ぬ気で守る。兄をお願い。愛しているって兄に言ってない。私達を捨てた悔しさで、まだ兄に愛しているって言っていないの。レイ、あなたにもあなたを家族と認めるって言わなくてごめんなさい。に、兄様がすっごく幸せそうだったから、悔しくて言わなくてごめんなさい。」


 レイはジリアンを抱き締めた。


「ごめん。私に抱きしめられるのは君は嫌かもしれないが、私は凄く嬉しかった。ありがとう。絶対に、この身に代えてもディークもリディアも帰すと約束する。」


 ジリアンはシュウを抱いているから片腕だけだったが、レイを抱き返した。

 そしてレイに、兄様も戻って来るのよ、と言った。

 レイはそこで涙を流し、私はレイの襟首を掴んだ。


「リディア。師匠にそれは何だ。」


「時は金なりタイミングなり。行きますわよ。わたくしは着替え終わりました。」


 この屋敷には伯爵やユーリスもいるのに私とは?と疑問符もあるが、師匠に頼られて私が断るわけはない。

 それどころか、物凄く嬉しいと気持ちが高揚していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ