おようふくはリディじゃ無いと嫌なの
大事な息子に服を着せている最中に、我が祖母が俺の部屋に入って来た。
俺はバスローブ一枚でしかなく、シュウも半分くらいしか服を着れていないという状態のその時だ。
「わたくしに挨拶も無いあなたが連れて来た女性の事だけど。」
「アレイラ、あとで。シュウにまず服を着せねば風邪をひく。」
「あなたが着せている先から脱いでいるわよ。永遠に終わらないんじゃない?」
俺はアレイラの言う通りだとシュウを見つめた。
俺の手が止まったのを良い事に、物凄くハイテンションの彼は俺の手から抜け出した。
幼児特有の訳の分からないお喋りをしながら、シャツの袖から腕を抜き、裸になった体でベッドの上を転がっていく。
「わああ、落ちる!」
彼は落ちるどころかベッドの端でピタリと止まり、今度は俺の方へとゴロゴロと転がって来た。
再び俺の腕に戻ったシュウはにこっと可愛く笑い、リディじゃないと嫌、と可愛く言った。
「そうか、お前が服を着ないのは、わざと、だったのか。ああ、パパは全く気が付かなかったよ。どうしてリディじゃ無いと嫌なんだ?」
宿屋でも風呂に入れた後はリディリディと騒ぎ、結局はタオルに包んだ裸のシュウをリディアに手渡すことになったなと思い出した。
あの時はシュウの着替えがリディアの所にしかないと、風呂に入れた時点で思い出した事もあるが。
「りでぃはたくさん褒めてくれるの。おそでかんりょう、いい子ね、ちゅ。」
俺もそんな服の着方を覚えたらそっち一本だなと冷静に考えた。
さあアレン、お袖を抜いて、ちゅ。
いや、脱がされる想像をしてどうする、俺は。
「よし。シュウが袖に腕を通せたら、パパが褒めてチュウしてやる!」
「きゃー。パパはいやー!。」
シュウはふざけているだけだが、嫌と言われて胸が少しだけ痛かった。
それでもシュウに服を着せねばと彼のシャツを持ちなおしたら、白い手がそのシャツを奪い取ってしまった。
「お洋服を着ないとリディの所に戻れないわよ。裸ん坊で廊下を歩いてはいけないの。虫にちっくんされる。」
「きゃあ。むし、や、です。虫いっぱいいっぱいだったの。」
シュウはむくっと起き上がると着せ付けやすいように腕をアレイラに差し出し、アレイラはそれはもう丁寧な仕草でシュウにシャツを着せ始めた。
いつもしかめっ面の彼女の横顔も、口元は緩み目元も目尻が下がっている。
俺は相も変わらず鬼婆の仮面を被った情の深い祖母だったと、彼女の後頭部に軽くキスをした。
「ただいま、お婆ちゃん。」
「アレン。あなたは自分で服を着なさい。」
俺は胸に手を置いて身を屈める紳士の礼を祖母に捧げると、彼女の言う通りにしようとローブを脱ぎ去り椅子に掛けてある服に手をかけた。
「きゃああ、あなたは!いくら祖母の前でも真っ裸になるとはどういう事!あなたはもう大人になったのでしょう!」
「いや、あの、その。」
俺はシャツに急いで袖を通すと、あとの服を胸に抱き、部屋のクローゼットの中に飛び込んだ。
「きゃあ!」
「きゃああ!」
広々とした俺のクローゼットは、俺が持ち込んだ衣服の点検をしているメイド達がわらわらいた。
「すまない。直ぐに出ていく。」
俺はゆっくりと後退ってクローゼットから出ていき、クローゼットの扉は俺が閉めてもいないのに勝手に閉まった。
「あなたは何をやっているの!」
「ははは、何をやっているのでしょうね。」
そうだ俺は伯爵で、自宅のそこかしこに妖精のようにして召使いが潜んでいるのが当たり前の人だった。
学園の寮生活とこの旅路で、従僕もいない生活にすっかり慣れていた。
「パパ。お洋服きた。ぼくリディにちゅーしてもらってくる。」
ベッドからぴょんとシュウは飛び降り、彼はどこに行けばリディに会えるのかがわかっているようにして部屋の扉へと駆け出して行った。
「ちょっと待って!シュウ!パパも行くから、待って!」
召使いという意思があるはずの扉はシュウの為にぱっと開き、俺の顔の笑みは顔に貼り付いて凍った。
シュウは開いた扉の方へと駆けだした。
そして無情にも扉はぱたんとしまった。
「わあ!どうして通すの!」
「わたくしがあなたとお話があるからよ?」




