表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それって、駄目な選択のほうです  作者: 蔵前
第三章 無駄に大きな馬車に乗って
30/78

スペシャルリマインダーと男爵家の内情

 布団ごと押さえつけられている私は情けない事この上ないが、私をダニエルが抑え込む理由となった少女のあざけりが続いた。


「うふふ。ですから、姉の為に余計な噂を呼ぶ浅ましい行動は控えて下いと、私はお願いに参りましたのよ。伯爵の息子と姉が仲良くなるのも邪魔なさらないでね。伯爵の再婚は、あの子供と姉が上手くできるか、それだけですもの。」


 なんと、今回の旅路は伯爵の再婚話そのものだったのか。

 だったら私など、と思いかけ、彼はシュウと再婚相手が上手くいくのかを見定めたかったからこそ、シュウを連れて来られる私を誘ったのかと納得した。


 この大所帯の旅はそのためか、と。


 男爵令嬢とシュウが上手くいかなかったら、元ギャスケル女伯爵に会いに行く少女達を伯爵が見守っていただけということにして、レティシアの評判をこれ以上落とさないようにするためだったのか。


 なんという策士。

 でも、私とシュウを利用するのは許さない!


「シュウは私のものよ!私の子供として育てるって決めたのよ!だから絶対に渡さない!もう、いい加減にどいて!ダニエル!」


 ダニエルは私を押さえるのは止め、私は布団を剥いで起き上がった。

 あ、ぐらっと来た。

 だが私が情けなくベッドに倒れなかったのは、ジリアンが私の支えになるようにベッドに腰かけ、私の背もたれのようになって支えてくれたからだ。


「ジリアン、ありがとう。」


「いいのよ。私はリディアが格好良くいられるなら何でもするわ。」


 私は親友の手に自分の手を重ね、それからミラに顔を向けた。


「な、なによ。」


「わたくしが伯爵に浅ましい行動?そんな事をする必要もなければいたしませんから安心なさって。わたくしは特記事項のある伯爵家の娘です。結婚などしなくとも女伯爵に成り上がりますの。それに、特記事項はギャスケル伯爵家が直系の子供と記載されてるものと違い、伯爵の第一子であれば、です。伯爵とあなたのお姉様が結婚されるのであればシュウは返しません。シュウは結婚しない私の継承者といたします。」


 ミラはさらに私に憎まれ口を叩いて来るかと思ったが、なんと、その場に崩れ落ちた。


「どうしてお姉さまが幸せになる道をあなた方は塞ぐの!」


 意図しなかったミラの涙は私を打ちのめした。

 私は感情だけでミラを痛めつけてしまったと、自分の行いのくだらなさを思い知らせてくれたのだ。

 私は女伯爵になる身であるというのに!


「ちょっとダニエル出て行って。ここからわたくしとミラ、そしてジリアンだけの女の会合を開きます。それから、今までの会話はあなたのお兄様達には一切内密に願います。よろしくて?」


「言われなくても内緒にするからさ、俺も話に――。」


 私もジリアンも同時に戸口を指さした。

 ダニエルは物凄く不貞腐れた顔を見せると、ぷいっと部屋を出て行った。

 私とジリアンはドアが閉まるとミラに向かい合った。

 ジリアンはミラの元へとベッドから立ち上がり、私も立とうとしたがジリアンに肩を押されたのでそのまま座ったままとした。


 実際、まだ風景がグルグル回っているのだ。


 ジリアンはミラを立たせると自分のベッドに腰かけさせ、それから私のベッドに戻って来て私の横に先ほどと同じようにして座った。


「さあ、ミラ。あなたが本当に望むことを話してちょうだい。あなたがレティシアを連れてドラローシュの師匠の道場までいらっしゃった事を考えれば、お姉様に対してのあなたの献身ぶりがわかるというものよ。大事なお姉様の為にあなたが何をしたいのか教えてちょうだいな。」


 ミラはくっと悔しそうに唇を噛みしめると、ベッドの枕を掴んでジリアンに投げつけた。

 もちろん、そのぐらいは私が防いだが、ミラはさらに悔しそうに顔をくしゃっと歪めて、ジリアンに対して怒鳴りつけた。


「あなたのお兄様のせいよ!あなたは我が家の内情を全部知っているんでしょう!知っているからこそ、私に一切やり返さなかったのでしょう。」


「ええ!でもあれは兄が悪かったのだもの。」


「ええ!哀れんだあなた方に沢山の慰謝料を我が家は頂いたわ!それもみじめだわ。でも、そんな事は良いのよ。我が家にお金がないのは本当ですもの。御覧なさい、このドレスだって姉が作って下さったものよ。だ、だから姉は貧乏に慣れているの。それなのにハワードは、姉が幸せになるべきだって、伯爵と結婚するべきだって言うのよ!」


 私とジリアンは同時に、ヘイリーめ、と声を出していた。

 あの拗らせ野郎と、ジリアンはさらに呟き、私はディークが妹が変わったと嘆く気持ちが少しだけ理解できた。


「ええ!伯爵と結婚したら姉は幸せになるはずよ。お金の面ではね!でも、でも、姉はハワードに恋をしたと、それで毎日のようにあの危険な場所に出歩いていたというのに!彼に会えるからって!」


 ミラがなぜこの部屋に来て、なぜ私を煽る台詞を投げつけたのかが、私はよくわかった。

 彼女は私に頑張って貰って、姉が伯爵との結婚は無理だとハワードに気が付いて欲しいと願っていたのだろう。

 いえ、もしかしたら、男爵家こそレティシアと伯爵の結婚を望み、レティシアに望まない結婚を成就させろと命令しているのかもしれない。


「わかりましたわ。ええ、邪魔をしましょう。再婚したい伯爵様には申し訳ありませんが、レティシアの心が伯爵様に無い以上、無駄な婚姻を結ばせる必要はありませんね。ええ、お任せなさいな。」


 一体どうしたら伯爵のレティシアへの恋心を消せるのかはわからないが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ