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それって、駄目な選択のほうです  作者: 蔵前
第二章 裏路地でであうもの
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思い違いと思い込み

 俺は無事だったリディアの姿にほっと安堵をし、そして彼女の後ろに目をやれば、ジョージが床に這いつくばって脅えているという景色がある。

 俺は彼女を称賛するしかなく、彼女の前に膝をついてた。


「お怪我はありませんか?カーネリアン伯爵令嬢。」


 そして彼女を見上げ、彼女に右手を差し出した。

 いや、そこで俺は硬直してしまった。

 俺には腐ったものにつく羽虫ぐらいの視線しかくれなかった彼女が、俺に尊敬の眼差しを向けているのである。


 彼女の白い指先、鍛えているのでそれ程柔らかくない指が俺の手の平に置かれ、俺は俺をようやく見直してくれた少女に微笑みながら立ち上がった。


「あなたはギャスケル伯爵ですわね。」


「ええ。私の息子を保護して下さったこと、感謝のしようがありません。こうして息子を狙う悪党が一網打尽にされた今、息子を迎えに行きたいのですが。」


「ま、……あ。そうね。それがシュウには一番だと思いますわ。ですが、覚悟もなさってくださいね。あの子はこのようにあなたに似た方々に酷い目に遭わされてきましたものでしょう?」


「え、ええ、その通りです。ですから、息子の無事を知ってすぐに息子を取り戻すよりも見守る方を選んだのです。」


「まああ。なんて思慮深い方!同じお顔の知人とは全く違うわ。」


 俺はジョージを見返し、確かにあいつは思慮深くは無いな、と気を取り直した。

 いや、どうして気を取り直す必要があるのかと自問したが、何となく俺の第六感の緊急警報辺りがざわざわとしているように感じるのだ。

 それでもリディアに向き直り、大丈夫ですと笑顔を向けた。


「ですが、何があっても落ち込まないでくださいね。あなたに脅えているわけでは無いのですから。あの、シュウちゃんはですね、あなたと同じ顔の方をそれはもう毛嫌いしているんです。あの講師がろくでもなく、シュウちゃんの状態も関係なしにぐいぐい近づいて来るからですわ。最近では焦げ茶色の髪色を見るだけでわたくしにしがみ付いてくる有様ですのよ。」


「ええと、私と同じ顔の、講師?」


 え?

 この人は俺が二人いると思い込んでいる?


 俺は後ろを振り向いた。

 俺と一緒に部屋に突入していたユーリスは、俺よりも先にリディアの勘違いに気が付いていたらしく、俺と目が合うや俺からすぐに顔を背けて吹き出した。

 俺は再びリディアに振り返った。


「あの、カーネリアン嬢。」


「何でしょう?」


「俺の後ろにいる大男、あれは誰だかわかりますか?」


 リディアは誰もが心をとろかすような笑みを顔に浮かべた。


「もちろんですわ。シュウの伯父様のユーリス様です。彼のご紹介は不要です。それどころか、彼からあなたやシュウとの関係を聞いておりましたから、わたくしは初対面でもあなたがギャスケル伯爵だと思い当たったのですわ。」


 俺はハハハと乾いた笑い声をあげながら、右手を額に当てた。

 どうする?

 考えろ。

 今こそ自分とギャシー講師が同一人物だと言うべきだろ。


「あの、そのギャシー講師とは、あの、俺は。」


「ええ、他人の空似はよくあることです。ただし、似てしまったお相手がとても残念な方だった事はお慰め申し上げます。あの方は講師でありながら、いえ、講師だからこそか、爵位のある少女にばかり声を掛けてくる人ですのよ。」


「ぎゅふ。」


 これは俺から出た声でなく、俺の後ろで声を抑えて笑っている男の出した音だった。


「あなたは、その相手が講師だから嫌っているのですか?」


「まさか!人に貴族も庶民も関係ないとわたくしは思っております。大事なのはその方が尊敬に値するかどうかですわ。」


「……。あの、その講師は尊敬に値しないと?」


 リディアはうふっと可愛らしく笑った。

 学園では絶対に俺に見せない可愛い笑顔だ。


「わが師、レイ・カシュレーンだったら絶対にしない愚行ばかりなさります。生徒の扱いが貴族と庶民でまず違うのです。また、生徒同士の関係も一方的な贔屓目で間違った判断ばかりですわ。ええ、教師である資格は無いと申し上げられましょう。」


 ……俺はそんなに最低な振る舞いをしていたのだろうか?


 ただでさえ醜聞に塗れてしまった男爵家の令嬢と有力者と繋がりが多い伯爵家の令嬢の仲違いが社交界に知られれば、力のないオズワルド男爵家の方が社交界から完全に締め出されてしまう。

 そして、そのような事になれば、カーネリアン伯爵家をライバル視する者達によって、今度はカーネリアン伯爵家への締め出しが行われるだろう。

 社交界は虐めが好きな奴らの集まりでもあるのだ。


 俺はそんな結果を恐れてミラとリディアの仲を取り持とうとしたのだが、やはり十代の子供には社交界の恐ろしさなどわからないのであろう。


「全く。ミラと私には何の誤解も無いというのに!互いの誤解を解くのはどうだろうか、なんて見当違いの事を言ってきますのよ。」


「ちょっと待って。君達の仲がとても悪いって聞いているよ!」


 それに、俺が君に言った誤解を解きたい互いは、君と俺!

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