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それって、駄目な選択のほうです  作者: 蔵前
第二章 裏路地でであうもの
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黒幕という男

 男の声は最低な事を計画している割には、静かで知的な響きを持っていた。

 男が座る椅子は部屋の影になる場所に置かれているようで、私にはその男の顔がよく見えなかった。


「怖がらないで。あなたとお話がしたいだけです。どうぞ、近くに。」


 私は彼が言うようにして、数歩前に出た。

 テーブルを挟んで向かい合う形だが、男がテーブルを私の方へと押して来た時にはすぐに避けられるようにと、完全な真向かいには立っていない。


「本当に賢い。では、あなたは信用できる。俺はエヴァレット・ヴァレリーと申します。甥に会いに行ったその日を狙って、ジョージ・ギャスケルと彼が雇った男達にギャスケル家の館が襲撃されました。全部を俺と、それから、俺達兄弟に罪を擦り付けるつもりだったのでしょう。俺はその場はなんとか自分がジョージに似ている事を利用して、シュウを連れて首都に逃げ出すことができましたが、そこでまた囚われの身です。」


 私はもう一歩前に出て、ようやく見えた男の顔を見て息を飲んだ。

 男の顔は私が殴り倒したあの日の男の顔だった。

 時間が経っているからか、私から受けた傷跡は無いが、あの日の男だった。


 こうして改めて目の前にしてみて、あの講師となんと似ていたのかと衝撃を受けるぐらいだった。

 シュウがあの講師に脅えるはずだ。

 男はにやっと笑った。


「ありがとう。ジョージを倒してくれて。」


「え?」


「本当に似ているんだよ、俺達は。この世に同じ顔が三つはあるって本当だね。かたや貴族にかたや一般庶民の下賤の出でしか無いのにね、なぜか似ているんだ。で、あの日はね、俺とシュウは君が現れる数分前にジョージに見つかってしまってね、俺はその場でのされてしまった。そして、逃げ出したシュウを追ったジョージは、ハハハ、君こそよく知っているよね。」


「ま、あ。それでどうしてあなたがジョージとしてそこにいるの?」


「ハハハハ。ジョージの手下が追いついたそこで、ジョージは気絶している。だから、咄嗟に成り代わったのさ。倒れているのはエヴァレット。間抜けは正義感の強い女の子に勘違いされてのされたってね、ハハハハ、笑い話にはなったさ。」


「それは嘘ね。わたくしは自分が倒した男の顔は忘れません。」


 そこでエヴァレットと名乗る男は軽く笑い声をあげると、勢いよく椅子から立ち上がった。

 ピンと背筋を伸ばした立ち方は貴族の男独特のもので、その傲慢そうに立った男は私を見下ろすと、服を脱げ、と私に命令した。


「あなた!」


 エヴァレットと名乗った男は小型の短銃を握っており、その銃口は私をしっかりと狙っている。

 彼はへらへら笑いながら私に近づくと、開いている手で私の髪の毛を掴み、その掴んだ手の指先で私の頬を撫でた。


「やっぱりあなたはエヴァレットでは無いわね。」


「ふふ、素敵だろう?さっきまでのストーリー。君は貴族だったら知っているだろう?貴族は身内を売ってはいけない。それなのにあのくそアレンは俺を売りやがったのさ。畜生、俺の名前を伯爵家から抹消しただけじゃなく、俺を強盗の賞金首にまでしやがった。」


「あなたこそ貴族の掟を知らないの?貴族は犯罪に手を染めてはいけない。幼子を誘拐するなんて、あなたこそ貴族の面汚しよ。」


「面汚しはあいつだよ。あいつこそ年上の雑草女と子供を作るという、貴族の風上にも置けない糞野郎だろうが。」


「で、わたくしに服を脱がせてどうするおつもり?」


「エヴァレットとして生きると言っただろ?強盗ジョージは自室で腐って死んでいる。裸の関係となった俺と君は愛人になって、それで一緒にシュウを育てようか。シュウはきっといい子に育って、俺が本来受けるはずだった伯爵家の財産を俺達に貢いでくれるだろうさ。」


「まあ素敵。でも、わたくしはあなたに協力する気は無くてよ?」


「協力するさ。たった三人で何ができる。お前のところに向けた六人で俺の手下が消えたと思うか?後二十はいるよ。ナッシュ強盗団は大所帯だ。」


 私は自分の指先を噛んだ。

 指の皮が裂けるぐらいに。


「ははは、悔しいか。気が強くても女の身体でしかない。いや、俺が今からお前が女でしかないって事を教え込んでやるよ。って、うわ。」


 私は皮膚が裂けた指先をジョージに向けて弾いたのだ。

 指先から滲んた血がジョージの片目に入り、彼は反射的に自分の目を庇うようにして両手を当てた。

 銃を持っていた手も。

 私は銃を持っていたジョージの手首を両手で掴んで捩じり、いつもの流れで彼の腹を思いっ切り蹴りこんだ。


「ぎゃあ。」


 ぼぎ。


 ジョージは蹴られた事で体を倒し、私の手の中でジョージの手首が自分の体重を受けて思い切り捩じられたのが感じられた。


「う、ぎゃああああああああ。」


「あら、手首がこれしきで折れちゃうなんて、男の体の癖に脆いですわね。」


 私はジョージの手を離すと、彼がさらに自分から遠くへ行くようにと、思い切りに蹴りこんだ。


「うわああ、畜生!ガービィ、ヒクソン!今すぐに来い!」


「まあ!女に襲われて助けを呼ぶなんて!おほほ。」


 ばああん。


 私は大きく音を立てて開いたドアに振り返った。

 ジョージが呼んだ助っ人と、どう戦おうかと考えながら。

 しかし、私はドアから入って来た男達を一目見て、体が動かなくなった。


 二人の大柄の男性、片方は靴墨で髪を黒く染めていたユーリスだが、その隣の男性はよく知っているが知っていないと言い切れる相手だった。

 彼はまっすぐに私の前に来ると、騎士のようにして跪いた。

 顔を上げた彼はまっすぐに私を見上げた。


「お怪我はありませんか?カーネリアン伯爵令嬢。」


 焦げ茶色の髪を後ろに撫でつけ、品よく鼻の下に髭を生やしている男は、私がよく知っているあの講師によく似ていたが似てもいない男だった。


 アレン・ギャスケル伯爵その人なのだろう。


 そう、この人は、アレン・ギャシーでは決してない。

 まあ!自分に瓜二つの人間が三人はいるって本当なのね。


やっと第二章本題に入れそうです!


リディアは講師をろくでなしと思い込んでいますので、目の前の伯爵として現れた男性をあの講師と同一人物と考えません。

似ている人が彼女の周囲に多すぎるせいで!!

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