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とある伯爵家が直面せし騒動

 俺は一週間以上寝ないで馬を駆けさせていた。

 馬の上で眠り、馬の上で食を取り、馬の上で……ああ、おりてやったよ。

 オムツして馬に乗り続けるわけにはいかないだろ。

 ついでに言えば、眠る時には宿で眠った。

 だから真実は、便所以外は馬に乗って、不眠不休で馬駆けしている、だ。

 一週間ぶっ通しではないが、三日三晩は寝ていないのは事実だ。


 どうしてか。

 俺の息子が盗まれたのだ。

 親が探さなくてどうする。


「ギャスケル伯爵。」


 俺を呼んだ男は、俺の乗る馬に彼の乗る赤茶色の馬、四本の足先は真っ黒という理想的な鹿毛の馬を寄せて来た。

 俺の黒馬よりも華奢な馬だが、どの馬よりも速いと有名な馬である。

 そんな馬に乗っている彼は、俺にどんな情報をもたらしてくれるのか。


 いや、彼こそ必死だったはずだ。

 俺の息子は彼にとっては甥となる。

 軍部で有名なユーリス・ヴァレリー少佐は、息子と引き換えに命を落とした妻の弟なのである。


 俺は馬の足を遅くさせた。

 ユーリスは俺の真横に鹿毛を並ばせると、彼の身体こそ俺に寄せて、彼が知り得たらしい秘密を俺の耳に囁いた。


「シュウは無事だ。カーネリアン伯爵家の令嬢が保護してくれたそうだ。」


 俺は体中の息を安堵の吐息として吐きだしていた。

 神よ、と、妻が亡くなった時以来拝んでもいない神に感謝を捧げてもいた。


「アレン、ああ、元気だって、傷一つなかったらしい。」


「そうか、ありがたい。今すぐに迎えに。」


 俺は馬の手綱を握り直したが、その手をユーリスが掴んで止めた。

 俺はユーリスの意図がつかめずに彼を見返したが、彼は言いづらそうにして彼の真意を告げたのである。


「シュウを迎えに行くのは止めてくれ。」


「どうしてだ?お前はシュウが可愛くないのか?」


 ユーリスは顔を真っ赤にさせると、俺の肩を拳で叩いた。

 その力は強く、彼の憤懣そのものをぶつけられたかのようだった。


「ユーリス。」


「可愛くないはずないだろうが!これは全部、お前の後継者に俺の甥がふさわしくないって話だろうが!それで俺の大事な甥が誘拐されて殺されかけたんだろうが!連れ戻して今度こそ殺す気かよ!」


「だが俺の大事な息子だ!俺の大事な子供なんだよ!」


 俺も大声で叫んでいた。

 そして、俺の叫び声を受けたユーリスは、直ぐに俺に謝った。


「すまん。わかっている。あんたが姉さんのことを大事にしてくれたのも、シュウをこれ以上ないぐらいに可愛がっているのも知っている。だからこそ、あんたの親戚連中はシュウを殺そうとしてるんじゃ無いのか?」


「だからって、シュウを迎えに行かない理由にならないだろ!そうだ!君も俺と一緒に住もう!二人で守れば二度とこんなことにならないだろ!」


「俺は軍人だぞ。一緒に住んでも一年の半分以上は家にいないだろうが!」


「退役しろよ。甥の為に。お前はシュウが可愛くないのか!」


「かわいいよ!そんでお前!お前こそ貴族院を引退しろよ!首都で偉そうなご高説をぶっている間に、マナーハウスに一人残したシュウが連れ去られたんだろうがよ!」


 俺達は殺気立った目で睨み合った。

 そして、実は俺よりも二つ年上の義弟の方が、世慣れしているからか冷静になるのが早かった。


「さっさと再婚しろ。女腹と敬遠されている貴族の娘だったらなおいい。娘しか生まれなければ、自然とシュウが大事にされる。そうだろ?」


 世慣れしているが所詮は庶民という事か、義弟は我が家の爵位の特異性については知らないようだった。

 俺はそんな彼に、彼の意見は不適切だと駄目出しするしかなかった。


「我が家は特記事項付きの古い爵位なんだ。男子がいなくても女子がいれば爵位の譲渡は可能となる。」


「お前は今すぐ自分の頭を撃ち抜け!」


「お前は酷い奴だな!」

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