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それって、駄目な選択のほうです  作者: 蔵前
第一章 こんにちはと新生活
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とうに抜け殻

 俺とユーリスが向かったのは、瀟洒な建物が並ぶが貴族が住むには一段低い地域、ジョージ・ギャスケルが間借りしている下宿がある場所である。


 貴族は労働してはいけない。


 そんな縛りがある収入のない貴族の若者は、金持ちの親族からのお小遣いで生活を凌ぐしかなく、少ない小遣いを増やせる可能性は賭博しかない。


 しかし金がない人間には賭博場が扉を開くはずは無く、また、金持ちな結婚相手を探すことができる場であるパーティの招待状だって来ないだろう。

 そこで彼らはそれなりに見える暮らしの場を演出できるところに住むようになり、結果として貴族の子弟が住みつく界隈が出来るわけだ。


 彼らは仲間意識が強いが、互いを監視し合い足を引っ張り合う。

 俺が握らせた金貨一枚で、ジョージは簡単に売られた。

 俺は知らされた住所にユーリスと向かうと、奴の返事を待つどころか奴に声も掛ける事もなく、奴の部屋の扉を思いっきり蹴りこんだ。


「お前の足が壊れるぞ、ばか。」


「こんな安普請に俺が壊れるか。」


 扉は壊れなかったが蝶番は壊れたようで、俺はぐらついた扉を戸口から引き剥がした。


「わお、うちの兵隊に欲しいそのどう猛さ。」


「上司の君が出来うる限り力仕事から逃げているんだ。部下も右に倣えだろ。」


「上が動き過ぎるとありがたみが薄れるんだよ。で、動くな。この部屋はちょっと嫌なにおいがする。」


「硫黄だな。爆弾か?」


「アンモニア臭もあるけどね。爆弾じゃない。それから、硫黄臭じゃないよ。腐った卵みたいな臭いは人が腐った時にもあるものだ。」


 俺達は顔を見合わせ、それから数十秒前とは違い静かに慎重にと、ジョージの部屋の中へと潜りこんだ。

 数日は締め切った部屋はただただ臭く、夕方も過ぎたせいか中は真っ暗だ。

 俺はランプを手探りして探すと、それに火を入れようとした。


「カーテンを開けろ。火はつけるな。俺だったらお前が来るかもと思ったらね、そこに爆発物を入れるよ。」


 俺はランプを降ろすと、やはり手探りだがカーテンの布地を探し、指先に当たった布を思いっきり引いた。

 外は暗がり始めた夕刻であったため、劇的な程の灯りは入らなかったが、ベッドに横たわる人物に息が無いのは一目でわかった。


 ジョージにしては呆気なさ過ぎる。


 俺の考えた事がユーリスと同じだったのだろう。

 彼は死体のシャツをまくり上げ、そこにあるはずの痣を探した。

 こびりついた垢が肌の色をまだらにしているが、ランプのシルエットの様な赤味の強い痣が見えた。


「暗くて見え辛いが、これは痣だよな。」


「暗くて見え辛いが、俺には魔法のランプに見えるよ。」


「ちくしょう。エヴァレット、馬鹿野郎が!」


 エヴァレットが痣が落ちない汚れだと泣いて嫌がった時、兄であるユーリスはそれが魔法のランプだと言ってやったのだという。


 良いな、お前、魔法のランプを持っていやがる。

 絶対に金持ちになって死ねるよ。


「馬鹿野郎が。くそジョージの身代わりなんて安っぽい死に方しやがって。」


 むせ返る腐臭を振りまく弟の遺体にユーリスは両手を差し込み、兄としてその憐れな肉体を抱き締めた。


「ぎゅふ。」


 おかしな音がエヴァレットから洩れ、エヴァレットの口から吐しゃ物の塊が飛び出した。

 その後にすぐ、当のエヴァレットは咽た咳を繰り返し始め、エヴァレットを抱き起したユーリスの肩に鼻の曲がる汚物をさらに垂れ流し始めた。


「おい、今すぐ弟を殺してもいいか?」


「お前の弟だ。好きにしろ。」


「お前の弟でもあるだろ。」


「いや。エヴァレットは俺とシーナの結婚を反対したから弟じゃない。あんな優しいシーナに対して、猫かぶりとか罵倒した糞野郎だ。」


「そこは、まあな。ははは、お前って純だよなあ。」


 俺は年上の義理の弟を睨んだ。

 シーナは俺が思っていたほどか弱い女じゃ無かった。

 だから俺が一々助けずに彼女の思うようにしてやれば良かったのだろうが、俺がほんの少しでも彼女への悪い言葉が許せず、そして、彼女をいつでも守れる男でいたかったのである。


「だが、間違えんなよ。いじめをやってる子を間違えて庇って増長させてどうする、せんせい?」


「反省しているよ。ダニエルめ、さっそく俺の失敗を君に告げたか。一番かわいい弟称号は、ハワード(ヘイリー)にやろうかな。」


「ハワード。ああ、あいつも呼び寄せた方が良いかな。ジョージは死んだふりして逃げた、というよりも、この身代わりは単なる時間稼ぎの気がするな。お前と俺でお前の家を襲った奴らの半数は潰したが、」


「ああ。逃がしてしまった奴らの方が問題だ。」


「そう、大問題。ジョージが死んだと俺達が思い込んだと思った奴らが、リディアちゃんとシュウを襲ってくる可能性が高い。……うん、学園に閉じ込めときゃ安全だし、囮にするか。」


「じゃあ、まず、エヴァレットは死んでいた方が良いのかな。」


「お前は本当に酷い奴。」


「君こそ。」



隠れてしまった悪人を探し出すよりも、おびき寄せて潰すことを考えたユーリスと伯爵。

二人はリディアとシュウが二人の目の届く同じ屋根の下にいるからとそんな計画を立てたのですが、リディアはとっても活動範囲が広い女の子なのです。

良くも悪くも。

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